第9話
お名前は?
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「ーーだから、これはこの公式を当てはめて解くってさっき教えただろ!何を聞いてたんだよ」
『ひぃ〜、ごめんなさーい!』
この間の体育祭後、相澤先生から期末試験で赤点取ったらヒーロー科編入はなしと言う厳しい言い渡しをされた私は、毎日放課後の教室でこうして心操くんにマンツーマンで指導を受けていた。
想像以上の超スパルタだった!
心操くんこういうの妥協しないって思ってたよ!
「…もうこんな時間か。今日はここまでだな。ハァ…。思ったより苗字の理解力が悪過ぎて時間食った」
教室の時計は18時を過ぎていた。時間を確認した心操くんは、溜め息を吐きながら疲れた表情を見せる。
『ゔっ…。申し訳ないです…』
かなりキツイ言い方だったけど、実際のとこ私の理解力の乏しさは否定出来ないので、ここは素直に謝った。
「それでよく雄英受かったよな、お前」
『ぐっ…!』
心操くんの追い討ちが更にボディブローに…!
今のは中々効いた…!
「ここの課題持ち帰りな。明日の放課後までに解いて来なかったらもう教えてやらないから」
『そんなぁ〜!』
「当たり前だろ。こっちも時間割いてやってんだ。それくらいちゃんとしろ」
『は、はい…』
ごもっともな意見で…。
でも時間割いてもらってるのは本当だよね。
そこは感謝しないと…!
『そういえば、心操くんは自分の勉強しなくて大丈夫なの?』
「俺はいいんだよ。真面目に授業受けてれば問題なく解けるし」
『……さ、さすが』
何気に私めちゃくちゃディスられてる…⁉︎
普段なら言い返すとこだけど、ここは勉強を教えてもらっている身としてグッと堪えるんだ名前…!
「帰るぞ。暗いし途中まで送ってやる」
『えっ…。あ、ありがとう』
だけど、たまに見せるこの優しさがやっぱり心操くんの良いところで、どんだけ憎まれ口叩かれても許しちゃうんだろうなぁ…。
私は急いで帰り支度を済ませると、夕焼けに染まった空の下、心操くんと一緒に下校した。
ーーー✴︎✴︎✴︎
『あぁ〜お腹空いたぁ〜!家着くまでに持ちそうにないかも…』
学校の帰り道って、つい何か買って食べたくなっちゃうんだよね。
今日は頭も使ったから余計にカロリーを欲している気がする…!
『ハッ⁉︎ 唐揚げ美味しそう〜!どうしよう〜。毎日節約してたし、ちょっとくらい贅沢してもいいかな…?別にバチ当たらないし、いいよね?』
「俺に聞くな。どうでもいーから買うなら早くしてくれ」
心操くんは、私がコンビニの前で立ち止まっているのを鬱陶しそうに見つめてくる。
『よしっ!今日は頑張ってるご褒美に贅沢しちゃおう!すぐ買ってくるからちょっと待ってて!』
「……ホント自分に甘い奴」
私はコンビニの唐揚げを2つ購入すると、外で待ってくれてる心操くんに先程買った唐揚げを1つプレゼントした。
『お待たせ!はいっ、コッチは心操くんの分』
「俺に…?」
『うん!いつも教えてくれてるお礼だよ。それに、こういうの一緒に食べながら帰るのって、何か学生っぽくて良くない?青春って感じでさ』
「……なんだそれ」
口ではそう言いながらも、心操くんはフッと口角を上げて嬉しそうに唐揚げを受け取ってくれた。
「まぁ、ありがたく受け取っておくよ。ちょうど小腹空いてたし」
『どうぞ遠慮なく。私も食べちゃお〜っと』
2人で唐揚げを頬張りながら、すっかり日が落ちて暗くなった交差点に差し掛かっていると、頭上から聞こえて来た音声にふと顔を見上げた。
《先日、保須市でインゲニウムに重症を負わせ、指名手配されている"ステイン"の詳細ですが、未だ情報を掴めていません。警察やヒーローによる捜査は続いていますが、広い情報提供を求めています》
オーロラビジョンから流れるニュースに、少し気分が悪くなる。
インゲニウムのニュースは、体育祭後に大々的にテレビで報道されていた。
幸い命が助かって良かったけど、過去に17名ものヒーローの命を無慈悲に奪ったステインに、私は内心穏やかではなかった。
『…早く捕まるといいね。ステイン』
「あぁ…。噂じゃ、ヒーロー科にインゲニウムの弟がいるらしい」
『えっ!そうなの⁉︎ 知らなかった…。辛いね…その人…』
「だろうな…」
どんな理由があろうと、関係ない他人の命を奪うなんて絶対に許せない…!
殺された人達には必ず残された人達がいて、今もずっと悲しんでる。
その悲しみは一生消える事はないんだ。
ヒーロー殺しステイン…。
あなたは、私が最も憎む人種だよ…!
「苗字、俺コッチだから。ここで解散でいいか?」
心操くんの呼び声に、ハッと我にかえった。
危ない危ない…。
今、私めちゃくちゃ怖い顔してた。
私は心操くんに向き直ると、ニコリと微笑む。
『ありがとう心操くん。後は1人で帰れるから大丈夫だよ!』
「……苗字」
『ん?どうしたの?』
心操くんは神妙な顔付きで何か言いたげに私を見つめ、口を開こうとするけど、すぐにその口は閉じられ、視線を逸らされた。
「…課題、忘れずにちゃんとやって来いよ」
『あっ。ハイ…頑張リマス』
すっかり頭から抜けてた…。
抜かりないな、心操くん。
「じゃあな」
『うん、また明日!』
心操くんは背を向けると、押していた自転車に跨り、自分の家方向へと自転車を走らせる。
しばらく手を振って姿が見えなくなった後、私は小さく溜め息を吐いた。
…さて、ご飯食べたら言われた通り課題やらなきゃな。
『寝られるかな…』
少しの不安を抱きながら、私は自分の家へと帰宅した。