第8話
お名前は?
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「何か、いつも話す時ここに来ちまうな」
『…あっ。確かに。何でだろうね?』
公園に着いて2人でベンチに座ると、いきなり轟くんはそう言って少し微笑む。
言われればそうだ。何か大事な事を話す時は自然とこの公園に来てしまう。最初にこの街に戻って来た時も、自然とこの公園に引き寄せられたし…何か心が惹きつけられるというか…。
「多分、特別…なんだろうな。俺たちが出会ったのもこの公園だった。ここは色んな思い出が詰まってる……だから、どんなに辛い事があっても、ここに来るとお前と繋がれてる気がして、落ち着くんだ」
『……轟くん…』
私のこと…そんな風に思い出してくれてるの?
素直にそう言う轟くんの言葉が、恥ずかしいけど嬉しかった。それに、その気持ちは不思議と私も似た感覚を感じていた。
ここは、私にとっても凄く
"大切な場所" な気がしてーー。
「今日、お母さんに会いに病院に行ってたんだ」
『えっ…?轟くんのお母さん、病気か何か…』
「違う。親父と俺の存在が、お母さんを追い詰めたせいなんだ」
『…えっ…?』
思いも寄らない返答に驚きを隠せなくて、思わず轟くんを凝視する。
轟くんは眉間にシワを寄せて、少し苦しそうな顔をしていた。
「"個性婚"って知ってるよな?」
『…!、うん…聞いた事ある』
確か、超人社会になってから結構問題視されていた事だよね?
より強力な個性を継がせるために、個性で配偶者を選んで結婚するっていう………まさか!
「…実績と金だけはある男だ。親父はそうやってお母さんの個性を手に入れた。それも全部、俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げる事で、自身の欲求を満たすためだけに…!」
怒りで震える轟くんの言葉が、深く私に突き刺さる。
ようやく理解した…。
だから轟くんは、あんなにお父さんの事を憎んでいたんだ…。
「…お母さんは、そんな俺の左側が醜いと言って俺に煮湯を浴びせた。俺の存在がお母さんを苦しめていたから、俺はずっとお母さんを遠ざけていたんだ」
『……そんな…ことが…』
壮絶過ぎる轟くんの話しに、私は結構な衝撃を受けていた。
確かに密かに気になってはいた。轟くんの左側の火傷。記憶にある小さな轟くんには無かった火傷。
私と出会った後に出来た物なのだろうか…。
「けど、緑谷との戦いで全部ブッ壊された。俺のなりてぇヒーロー像を、思い出しちまったんだ…」
『なりたい…ヒーロー像…?』
「…あぁ」
そう言って轟くんは私を見ると、優しい眼差しで微笑む。
けれど何故か私にはその瞳の奥に、悲しみが
「そのために、色々清算しなきゃならないモノがある…」
『?』
轟くんはそう言うと、背負っていた鞄から何かを取り出し、そっと私にそれを差し出した。
『……これって』
「あぁ。前に俺に貸してくれたハンカチだ。洗って返そうと思ってずっと持ってた。返すの遅くなって悪い」
『いいよ!私もすっかり忘れてた』
そう言って笑いながらハンカチを受け取ると、轟くんは憂いを帯びた目で静かに話し始めた。
「ハンカチ借りるのは、実はこれで2度目なんだ」
『えっ…。私、前に貸したことあったっけ?』
全く記憶になくて首を傾げると、轟くんはフッと静かに笑う。
「…覚えてなくて当然だと思う。借りたのはガキの時だったから。貸した理由も、風邪ひくからって全く同じ理由で」
『へぇ!すごい偶然だね⁉︎』
「あぁ…。お前は昔から変わってねぇんだ。変わったのはむしろ俺の方で……」
『……轟くん?』
急に轟くんの表情が曇って、どうしたのかと思い顔を覗き込む。
けれど轟くんは私の視線を外す様に顔を逸らすと、驚きの言葉を口にする。
「今まで思い出してくれって言ってた事、全部忘れてくれ。……いや、忘れたままでいい」
『ーーえっ…?』
ーー全部、忘れて…?