第7話
お名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『…轟くん…?』
試合の途中、必死に言葉を投げ掛ける緑谷くんに、轟くんはずっと表情を強張らせていた。
……急に動きが、止まった?
呆然とその場に立ち尽くす轟くんに疑問を感じていると、突然轟くんの左半身から勢い良く炎が燃え盛る。
その熱は観覧席にまで伝わり、周りのみんなが「アッツ!」と騒いでいる中、私はその光景を目を見開きながら見つめていた。
「……俺は…"この力"だけで勝ち上がるって決めてるんだ…。絶対に、左は使わねぇって…」
『左の炎を……使ってる……!』
これが、轟くんの本当の力…!
凄い……凄いよ、轟くん!
何故かその炎を見た瞬間、私は嬉しさが込み上げた。
轟くんが本当の自分を受け入れた様な気がしたから…。
リング上の2人は、お互い個性を限界まで引き上げているように見えて、そのまま勢い良く個性を発動する。
緑谷くんの超パワーと、轟くんの氷結と炎がぶつかる瞬間、リング上にセメントの壁が現れ、2人の力が衝突した。
『きゃっ⁉︎』
次の瞬間、スタジアム全体を爆風が襲う。
あまりの勢いに目を開ける事すらままならない。
しばらくして爆風は止み、嵐が通り過ぎた後みたいに、スタジアムに静寂が訪れた。
私は恐る恐る目を開ける。
リングには白濁した煙りが立ち込め、リング内の2人の姿形すら見えない。
一体、何が起こったの…?
《ーーったく、何も見えねー。オイこれ勝負はどうなって…》
『…っ!』
その時、煙りの中から赤い見慣れた靴が見えた。
一瞬、緑谷くんが勝ったのだと思った。
…けど、次に現れた彼の全身は、リングから離れた場外の壁にもたれかかる姿だった。
緑谷くんはそのままズリズリと体勢を崩し、
そしてーー…倒れた。
「緑谷くん………場外」
『……緑谷くん……』
「轟くんーー…3回戦進出!!」
ワァァと歓声が沸き起こる中、轟くんは呆然と緑谷くんを見つめていた。
私も同じく、倒れる緑谷くんから目が離せなかった。
緑谷くん…。
……君が轟くんに本気でぶつかって来てくれたから、
きっと轟くんは力を出し切る事が出来たんだ。
ありがとう…。
『…心操くん…』
「?」
私はリングを見つめたまま、隣にいる心操くんに声を掛ける。
こちらを振り返る気配を感じながら、私は力強く言葉を続けた。
『ヒーロー科のみんな、強いね…!』
「………あぁ。そうだな」
心操くんがどんな顔をして言ったのかは見えないけど、きっと…私と同じ気持ちだと思った。
皆、譲れない強い想いがあるのを肌で感じながら、体育祭は終わりへと進んで行く…。
ーー結局…
轟くんは緑谷くんとの試合の後、左の力を使う事は1度もなかった。
3回戦は難なく轟くんが勝ち取り、順調に勝負を勝ち上がって来た爆豪さんとの決勝戦では、轟くんが敗退となった。
轟くんが左を使わないまま優勝となった爆豪さんは、かなり納得していない様子で表彰台に強制連行され、オールマイトからのメダルもかなり強制的に授与されていた。
「いらねっつってんだろが!!」
「まぁまぁ」
「いらねぇ!!」
……爆豪さん、本当に嫌なんだな…。
充分すごいと思うんだけどな…。
私はハァと深い溜め息を吐く。
結局、宣言した通り爆豪さんは優勝して、爆豪さんに大口叩いた私は予選敗退ーー…。
ヒーローへの道のりはまだまだ遠いな…。
ふと、表彰台に並ぶ轟くんが目についた。
轟くんは2位か…。
やっぱり轟くん、凄く強いんだな…。
それに…顔つきも何だか変わった気がする。
『おめでとう…。轟くん…』
この体育祭できっと轟くんの中で何かが変わった様な気がして、それがいい方向に進む事を信じながら、私は表彰台に拍手を送り続けたーー…。
ーーー✴︎✴︎✴︎
そこは、人の気配を感じさせない暗い部屋の中。
電気も何もついてないその部屋で、パソコンから漏れるボヤけた光だけが、薄暗い部屋の中を不気味に浮かび上がらせていた。
そして、そのデスクに座る1人の男……死柄木弔は、じっとパソコン画面を食い入る様に見つめる。
「ーーあぁ…、思い出した」
パソコン画面に映っていたのは、生放送されている雄英体育祭の映像。
その画面の端に、拍手を送る名前の姿が映し出されていた。
「コイツ……あの時居たガキだ」
死柄木はニタリと不気味な笑みを浮かべる。
「……いい個性だなァ。惜しい事した…」
ギラリと光る赤い瞳が、まるで極上の獲物を見つけたかの様に不気味に揺らぐ。
「ーーー苗字 名前……ね」
第7話 おわり