第7話
お名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「苗字…?何でここにいるんだよ」
『あ、心操くん!いや…何だかいてもたってもいられなくて、気付いたらここまで来ちゃってた』
私は選手の控え室近くの廊下まで来ていた。
観覧席で大人しく待っていれば良かったんだろうけど、何故だか体が勝手にここに向かっていた。
私はビックリして目を丸くした心操くんを、真っ直ぐ見据える。
『……心操くん、凄かった…本当に。プロや、みんなに認められて……みんなが心操くんに夢中だった!だから、全然落ち込む必要なんてないよ!自信持ってね?』
心操くんは少し驚いた顔してたけど、すぐにいつものからかう様な眼差しで私を見る。
「誰が落ち込んでるって?俺はヒーローになるまで絶対諦めない。やっとここで俺をアピール出来たんだ。まだまだ、これからだろ」
『…!』
そう言ってニッと不敵に笑うのはいつもの心操くんで、私は嬉しくなって笑みが溢れた。
『うんっ!そうだね!』
「………ありがとな」
『えっ…?』
突然のお礼にビックリすると、心操くんは照れ臭そうに微笑む。
「お前のデカイ声、しっかり聞こえたよ」
『ーーあっ…』
あの時の声援……ちゃんと届いてたんだ…。
『ふふっ…。良かった』
「…けど、おかげで勢い余って投げ出されたけどな」
『緑谷くんも強かったね。譲れない気持ちはお互いあったから……あ、肘のとこ擦り剥いてる!治してあげるね?』
「いや、いいってコレくらい…」
私が肘に触れようとすると、心操くんは少し慌てた様子で腕を遠ざける。
私はその腕を両手で掴むと、グッと引き寄せて肘に触れた。
『お願い。コレくらいしか出来ないから……私に治させて?』
「…!」
そう言ってじっと見つめると、恥ずかしいのか、心操くんは顔を赤くする。
「わ、分かったから……あんま、コッチ見んな…」
『…ありがとう』
半ば強引だけど、取り敢えず治しても良いという許可が出たので、私は擦り傷のある場所に触れ、個性を使う。
手から淡い光が灯り、心操くんの腕を優しく光が包み込む。
……そういえば、雄英来てからこうやって誰かに個性使ったの、轟くん以外初めてだな…。
ぼんやりと頭の中で考えていると、コツ…コツ…と誰かがコチラへ近付いて来る足音がして、音の鳴る方へ振り返る。
『ーー…!』
視線の先には、私たちを見て目を見開いたまま動かない轟くんの姿がそこにあった。
『…轟…くん…』
何で、ここに…?
あ…そっか。
次の試合、轟くんだったよね…。
さっきの出来事の後でまだ少し気まずかったけど、謝るのならここしかないと思い、私は心操くんの治った腕を離す。
『はい。もう大丈夫だよ。…心操くん先に戻ってて?私はちょっと轟くんと話したい事あるから』
「………」
けれど心操くんは轟くんをじっと見つめたまま動かない。
『…心操くん?』
「………分かってる」
もう一度声を掛けて、ようやく心操くんは反応してくれたけど、どこか納得してない様子でチラリと私達を振り返りながらその場を離れて行った。
角を曲がって心操くんの姿が見えなくなった所で、私は轟くんに向き直る。
轟くんは黙って俯いたまま、その場に佇んでいた。
『……轟くん、あの…さっきの事なんだけど…』
「……めだ…」
『……え…?』
何かを呟きながら、コツ…コツ…と、轟くんは私の側へと近付いて来る。
けど、いつもと様子が違う轟くんに、私の体が無意識に距離を取ろうとして一歩下がろとした時、それを
『轟くーー…きゃっ!』
バンッ!と背中を強く壁にぶつけ、苦痛に顔を歪ませていると、逃げられない様に両手首を掴まれ、そのまま壁に押しつけられる。
『やっ、轟くん…⁉︎ 』
突然の状況に頭が追いつかない。
ーーそれは、私以外に時折見せていた、
ーー氷の様な冷たい眼差し…。
凍てつく瞳が、真っ直ぐに私に差し向けられ、思わず息を呑む。
「…ダメだ…」
『…えっ…?』
ボソリと震える声で、轟くんは小さく呟く。
私は訳がわからないまま、轟くんを見つめる事しか出来ない。
「……誰にも渡さねぇ…!お前は、俺だけの…ッ」
『ーー痛っ…!』
掴まれた手首にギリッと力が籠もり、痛みで思わず声が漏れる。
轟くん…どうして⁉︎
何で急にそんな目で私を見るの…?
違う、こんなのいつもの轟くんじゃーー…!
「…名前…」
『ーーっ…⁉︎』
ふと、轟くんの顔が私に近付く気配がして、思わず目を瞑った。
『………?』
けれど、いつまで経っても訪れない感覚に私は恐る恐る目を開ける。
「ーー苗字に、何してる…!」
『心操くん…⁉︎』
そこには、怒りを宿した瞳で轟くんを睨み付ける心操くんがいた。
心操くんは轟くんの肩を掴むと、私から引き剥がす様に力強く轟くんの肩を引く。
ヨロついた轟くんの隙を見計らい、心操くんは私を後ろに庇う様にして守ってくれた。
「嫌な予感したからな……引き返して正解だった」
『心操くん…』
良かった…。
心操くんが来てくれなきゃ、私…どうする事も出来なかった。
チラリと轟くんを見ると、何故か戸惑った顔で私を見つめていた。
「……俺は…、何を……」
轟くん…正気に、戻った……?
声を掛け様とした瞬間ーー。
「こんな所で何をしているーーー焦凍」
角から突然現れた人物を見て、私は驚愕する。
見慣れた顔に佇まい。
忘れる筈なんてない、その人は
『エンデヴァー…!』
命の恩人であり、ヒーローを目指したきっかけをくれた…憧れの人だった。