第7話
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ブォンッ!!!
『なっ、何…⁉︎』
突然、衝撃音と共に強い突風が周囲を襲う。
訳が分からずリングを見ると、緑谷くんは荒い呼吸を繰り返し、リングの白線ギリギリ内側で踏み留まっていた。
《ーーこれは…緑谷!!とどまったぁぁ!⁉︎》
『あれ…?動けてる⁉︎ 何でっ…』
私も洗脳にかかった時、
誰かにぶつかって意識を取り戻した。
もしかしたら衝撃を受けると洗脳が解ける仕組みなのかもしれない…。
けれど、緑谷くんは自力で洗脳を解いた。
そんな事って…?
「何で…体の自由はきかないハズだ!何したんだ⁉︎」
心操くんも訳が分からないといった感じで緑谷くんに問い掛ける。
けど、緑谷くんは手で口を押さえて答えない。
……ダメだ。
意地でも答えないつもりだ…!
こうなると、また口を開かせるのはかなり厳しくなる。
『……心操くん…!』
絶望的状況…。
私は行く末を、ただ見守る事しか出来なかった。
「指動かすだけでそんな威力か、羨ましいよ」
答えない緑谷くんを
挑発するように問い掛ける心操くん。
けどーー…。
「俺はこんな"個性"のおかげでスタートから遅れちまったよ…、恵まれた人間には分かんないだろ…!」
『…!』
途中からそれは、心操くんの本心から出る言葉に変わったのが分かった。
「
『……っ…、心操くん…』
その悲痛な叫びは、心操くんの今まで生きてきて感じた、たくさんの理不尽さや、怒り、悲しみが含まれているようで…胸が痛かった。
…分かるよ…心操くん…!
私も同じだ。ヒーロー科試験の時に感じた、
ヒーローに必要な個性が自分にはないのだと思い知らされた、あの時の気持ち…。
ーーあの日、あの場所で…心操くんも私も、同じ想いをしていたんだね…。
ーーでも…!
『…っ…』
ジワリと、視界が滲んだ。
それを指で拭うと、私は大きく息を吸い込み、腹の底から叫んだ。
『頑張れッ!!心操くんッ!!!』
心操くんは今、
望む場所へとちゃんと進んで行けてるよ!
私の声が届いたのかは分からない。
けれど、緑谷くんに場外に押し出されようとしていた心操くんが、ハッとした様子で緑谷くんの手を引き剥がすと、勢いでヨロついた緑谷くんを今度は逆に場外へと押し出す。
けどーー…
緑谷くんが心操くんの襟首を掴み、そのまま勢い良く背負い投げされた心操くんの足が、リングの白線を超えた…。
「心操くん場外!!緑谷くん2回戦進出!!」
ワァァ!…と歓声が沸き起こる。
悔しそうに歯を食いしばって倒れ込む心操くんを、私はただ呆然と見つめていた。
《
心操くんは眉間にシワを寄せて、悔しそうにリングを降りて来る。
私は何て声を掛けていいか迷っていた。
どれほど本気でこの体育祭に挑んでいたか知っているから…安直な言葉をかけられない。
「こっち来た、行くぞ!」
『…?』
すると、試合を見ていたクラスメイト達が、出入口に向かおうとする心操くんに駆け寄って行く姿が見えた。
「かっこよかったぞ心操!」
『!』
「正直ビビったよ!」
「俺ら普通科の星だな!」
「障害物競走1位の奴と良い勝負してんじゃねーよ!!」
……みんな…!
ありがとう…!
激励の言葉を掛けてくれるみんなに、何故か私まで胸が熱くなる。
そうだ…。
きっとみんなの言葉は、今の心操くんに1番届くはず。
認めてくれている人が、私以外にもこんなにたくさんいるんだって…!
すると、プロヒーローがいる観覧席からも心操くんを褒め称える声が聞こえてきた。
心操くんも驚いた表情でその様子を見つめている。
「聞こえるか心操。お前、すげェぞ」
……そうだよ、心操くん。
君は凄い人なんだ。
認めてくれる人達がこんなに大勢いる。
充分、恵まれた人なんだよ。
ゴシゴシと滲む目元を拭うと、私を見つめる心操くんと目が合った。
私はニッコリ笑うと、気持ちが伝わったのか、心操くんも優しい目で笑ってくれた。