第6話
お名前は?
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「悪ィ、遅くなった。…大丈夫だったか?」
轟くんは私の座っていた席に近付くと、心配そうに顔を覗き込む。
『うん、大丈夫だよ!それより、混んじゃう前に轟くんの分の学食も用意したんだけど…お蕎麦で良かったよね?』
「俺の分も…?悪いな。気ィ遣ってもらって」
『いいよ、気にしないで!それより…何かあったの?轟くんが遅れるなんて珍しくて…』
そう聞くと、轟くんは何故か表情を曇らせ、私から顔を逸らす。
『轟くん…?』
「……少し、な…。お前は気にしなくていい」
『……』
……轟くん…。
何か、踏み込んで欲しくなさそう…。
『そっか…。取り敢えず、ご飯食べよっか?お腹空いちゃった』
「…あぁ」
聞かれたくないのなら、無理に聞く必要はない。
誰だって話したくない事くらいあるもんね…。
私たちはお互い向き合う形で席に座ると、用意した学食を食べ進める。
相変わらず学食はいつ食べても美味しい。
だけど、いつもは会話があるはずの時間が、この日は何故かなかった。
轟くん…何かピリピリしてる…?
そりゃそうか…。
轟くんもヒーローになるために上を目指してるんだし、この体育祭は大事な試合だもんね。
私は先程の試合の轟くんの活躍を思い出し、嬉々として話しかける。
『そういえば、最終トーナメント通過おめでとう!轟くんの個性って初めて見たけど、氷結なんだね!障害物競走の時、
「………」
『轟くん…?』
何故か轟くんは私を見ず、自分の右手を見つめて、眉間にシワを寄せていた。
「……俺は "この力"だけで勝ち上がるって決めてんだ。絶対に、左は使わねぇって…」
『…ひだ、り…?』
言ってる意味が良く分からなくて、私は首を傾げる。
『何か、他にも力があるの?』
そう聞くと、轟くんは見つめていた右手をギュッと握りしめると、憎悪で満ちた瞳を私に向ける。
「ーークソ親父のな」
『…!』
その瞬間、私の脳裏で、夢の中で見た幼い轟くんの言葉がよみがえった。
「…ヒーローなんだ。ぼくのお父さん」
ーーそうだ…。
轟くんのお父さんはヒーローだったはず…。
でも、どうしてお父さんの事をこんなに憎んでるの…?
そのヒーローは……一体誰なの?
『轟くんのお父さんって、ヒーローだよね?』
「………」
『それって……誰なの?』
轟くんはしばらく押し黙ると、グッと唇を噛みしめ、怒りに震えた声で呟く。
「ーーーエンデヴァー………俺はその息子だ」
その名前を聞いた瞬間、私は驚きのあまり言葉を失う。
ーー嘘だ…。
ーーまさか、轟くんのお父さんが…!!
『……ンデヴァー、…なの…』
「…?」
声が震えた。
轟くんも私の言葉が聞き取れなかった様子で眉を潜める。
私ははやる気持ちを抑えながら、今度はハッキリとした口調で言い放つ。
『火事に巻き込まれた時、私を助けてくれたのは…
ーーーエンデヴァーなのっ…!!』
「ーーッ⁉︎」
轟くんは私の言葉に目を見開き、かなり動揺している様子だった。
けれど、私は逆に嬉しさで胸が高鳴っていた。
轟くんのお父さんが……命の恩人であったことに。
『今、私がここで…こうやって生きていられるのは、エンデヴァーが助けてくれたから…!』
「……めろ…」
『私はエンデヴァーに凄く感謝してる…!だって、ヒーローを目指したのは、エンデヴァーが私をーー』
「ーーーやめろッ!!」
食堂に響き渡る声に、周りにいたみんなが驚いた様子でこちらを振り返る。
私も突然の出来事に固まったまま、轟くんを見つめていた。
『と…どろき…くん…?』
「……ッ」
轟くんは呼びかけには答えず、急に席から立ち上がると、そのまま背を向けて立ち去ろうとする。
私は慌てて轟くんの後を追おうとした。
『ま、待って!轟くーー』
「ーーー来るな」
『…!』
それは、初めて轟くんから発せられる明確な "拒絶" 。
ショックでその場で立ち止まっていると、轟くんは顔を背けたまま、冷たく私に言い放つ。
「………今は、お前に優しくしてやれる自信がねぇ」
それだけ言い残すと、轟くんは私を置いて食堂の出入口へと向かった。
『……轟くん……』
呟いた私の声は、ザワつく周りの
どうする事もできないまま、私は遠くなって行く轟くんの背中を…ただ、見つめる事しかできなかった。
第6話 おわり