第5話
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部屋の中に入ると、苗字をベッドの上に寝かせた。
苗字はうなされたような顔で『うぅっ…』と苦しそうに
その隙に、そっと額に手を当てて体温を確かめた。
「熱は……ないよな?」
……どうしたってんだ、急に?
いくら何でも、一昨日から状態変わり過ぎだろ…。
「何があったんだよ…?」
『…ちょっと…個性、使い過ぎ…ちゃって……使い過ぎると、丸一日…ほぼ、寝たきりに…なっちゃうから…』
戸惑う俺を見て、苗字は辛そうに息をしながらそう言った。
何だそれ……。
体育祭に向けて無理し過ぎたってことか?
「バカッ、何でそんな無茶な事するんだよ!もっと自分の体も労われ。……体育祭前に倒れたら元も子もないだろ…」
『うん…。ごめん…』
苗字は素直に謝ると、何か言いたそうにチラリと俺を見る。
「…どうした?」
『…母猫……元気に…してた…?』
「えっ…?」
母猫…?
何で、急に……。
「あ、あぁ……元気だよ」
突然の話題に疑問に思いながらもそう言うと、苗字は初めて嬉しそうな顔を俺に向けた。
『…そっか……良かったーーー』
「……おい?」
一瞬気を失ったのかと思ったが、苗字は安心した様子で目を閉じると、さっきより落ち着いた呼吸で静かに寝息を立てていた。
「……ったく、心配かけさせんな」
取り敢えずは無事……って言っていいか微妙だが、生存確認は取れたな。
先程家に入る前に、生存確認したらすぐに帰ると決めていたが、この状態の苗字をこのままにして帰るのはさすがに気が引ける。
……どうするか…。
てか、飯とかちゃんと食えてんのか?
そんな感じなさそうだよな、この感じだと…。
「………ちょっと待ってろ。すぐ戻る」
寝ている苗字にそう言うと、俺は起こさないよう玄関を静かに開けて外に出た。
乗ってきた自転車に
店に着き、スポーツドリンクや食べやすそうなゼリー、お粥などをカゴに入れてレジで購入すると、またすぐ苗字のアパートへと戻った。
「ハァ…、ハァ……!」
久々に全速力を出したからか息があがる。
部屋に戻ると、俺の苦労なんか知る
「…ったく、この貸しはデカイからな…?」
そう言って買って来た袋をテーブルの上に置いた。
ここに置けば分かるだろ…。
チラリと苗字を見る。
静かに寝息をたてる苗字を起こさない様、そっと近付き、見下ろした。
……本当は目が覚めるまで居てやりたいけど、それはさすがにな…。
「……しかしよく寝てるな……」
目覚める気配のない苗字を見て、思わずポツリと呟く。
…ふと、さっき感じた違和感を思い出した。
『…母猫……元気に…してた…?』
……何でコイツ、急に母猫の話しなんかしたんだ?
別に今言うことじゃないだろ…。
その時、昨日の母猫に付いていた血の塊が脳裏にフラッシュバックした。
「……!」
…まさかコイツ、あの血の事知ってたのか?
それで個性を使ったとか…?
いや、けど個性使い過ぎたって事はもっと別の理由があるんじゃ…。
例えばーーー "生き返らせた" とか…。
「……考え過ぎか…」
死んだ者を蘇らせる個性なんて、今まで聞いたことがない。
そんなチートな個性、コイツが使える訳ないもんな…。
そもそも両親を亡くしてたら、真っ先にその個性使うだろ。
『…んっ…』
「ーー!」
もぞもぞと苗字は体を動かすと、そのまま姿勢を俺の方に向ける。
起きてはないみたいだった。
……そういや寝顔、こんな間近で見たの初めてだな。
「………」
じっと寝顔を見つめていると、無意識に俺の手が苗字の頬に伸びていた。
そのまま指の背でサラリと軽く撫でる。
「……苗字……」
名前を呼ぶと、何故か無性に苗字が愛しく感じた。
それと同時にギュッ…と胸が締め付けられる。
こんな感覚、生まれて初めてだった。
「……好きだ」
苗字は何も言わない。
当たり前だ。でなきゃ困る…。
今お前にこんな事言ったら、お前は俺に何て言うんだろうな…?
また "心操くんはそんな事言わない" って否定するか?
それともーー…。
「………フッ、何考えてんだ俺は……」
俺は手を引っ込めると、そのまま背を向けて部屋の扉を開ける。
出る瞬間、最後に苗字の顔を眺めて俺は玄関の扉を開け、家へと帰宅した。