第5話
お名前は?
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ーーー次の日、苗字は学校に来なかった。
昼休みになり、クラスメイト達が各々昼食を取ってる間も、俺は空席になった苗字の席を眺め、ぼんやり考えていた。
……アイツ、また寝坊したのか?
普通ならありえない事でも、苗字ならありえそうで妙に否定出来ない。
物思いにふけていると、教室にいたクラスメイト達が驚いた様子で声を上げるのが聞こえた。
「あれ、轟じゃね…?」
………轟?
驚いて顔を上げ、教室の扉に視線を向けると、そこには焦ったような顔で教室を見渡す轟の姿があった。
アイツ、苗字を探してる……?
確か、連絡先知ってたはずだよな……。
疑問に思っていると、教室を見渡す轟と目が合った。
轟とはあの日以来会っていなかった。
少し気まずかったが、目を逸らすのも何だか
……マジかよ。入って来んのかよ。
まさかの行動に内心焦ったが、表には出さずそのまま轟を待ち構えた。
「…何だよ、いきなり」
「………名前と連絡が取れない」
「…えっ?…」
文句の一つでも言われると思っていた俺は、予想外の言葉に心底驚いた。
「連絡が取れないって……どういう事だ?」
「…分からねぇ。いつも朝に連絡が来るが、今日はなかった。何度電話しても出ねぇし……。だからコッチ見に来たんだ」
そう言って不安気な表情で轟は俺を見る。
「お前、何か聞いてねぇか?」
「…いや、何も知らない」
本当に何も知らなかった。
あの日は調子悪そうな感じもなかったし、普段通りだった…はずだ。
俺の返事に「だよな…」と落胆した様子で轟は溜め息を吐くと、ボソリと呟く。
「……せめて家さえ分かりゃ…!」
「………」
俺は、何も言わずに轟から目を逸らした。
……知ってる、とは口が裂けても言えない。
言えば絶対ややこしい事になる。
「それだけだ。邪魔したな…」
轟はそう言うと背を向けて教室を出て行った。
……悪いな、轟。
俺はその姿を見ながら、心の中でそう呟いた。
少し…ほんの少しだけ罪悪感を抱きながら。
放課後、俺はまた苗字のアパートの前に来ていた。
まさか自分からまたここに訪れる日が来るとは思っていなかった。
「……生存確認、だからな」
無事が確認出来ればすぐ帰る。
顔見てすぐ帰ればいいだけだ…それだけ…!
そう自分に言い聞かせながら深呼吸をして、俺は玄関のチャイムを鳴らした。
ーーピンポーン。
「………」
待つ間も気配を察知しようと感覚を研ぎ澄ますが、人がいる気配は感じられない。
………居ない、のか…?
不安になり、もう一度チャイムを鳴らそうとした所で、中からこっちに近付いて来るような物音がした。
ーーガチャ…。
「…!」
ゆっくり開かれる扉の向こうから、苗字の顔がチラリと覗く。
『……心操…くん…?』
「何だ、お前居たのーーー」
いい終わる前に、苗字の顔色が悪い事に気付く。
表情は暗く、目はどこか虚だった。
「お前っ…、大丈夫か⁉︎」
『…だ、大丈ーーー』
突然力が抜けた様に倒れ込む苗字を俺は咄嗟に両腕で受け止めた。苗字はぐったりとした様子で、浅い呼吸を繰り返している。
「オイッ…!どこが大丈夫なんだよ!」
『…ご…、…ごめ…』
苦しいのか、苗字は途切れ途切れに声を漏らす。見てられずに俺はその場で苗字を抱えると、部屋の中へと足を踏み入れた。
「悪い、勝手に入るぞ!」