第5話
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次の日の日曜日。
私はまた早朝からお決まりのランニングコースを走っていた。
……あと半分!
折り返し地点に差し掛かっていた時、ふと昨日の出来事を思い出す。
「ーーだったら、試してみるか…?」
『…っ……』
ダメだ…。
また、思い出しちゃう…!
さっきからずっとこの調子だった。
頭から消し去りたくて、無我夢中で走り続けているのに……心操くんの声が、表情が、鮮明によみがえってくる。
昨日の心操くん、まるで別の人みたいだった…。
私の、知らない顔ーー…。
思い出して、またドキリと心臓が跳ねる。
『………あぁ〜ダメだダメだ!今は体育祭に集中しないと!』
こんな調子じゃトレーニングに集中出来ない!
とにかく今は忘れよう!
心頭滅却だッ!うん!
暫くして家の近所まで戻って来ると、昨日心操くんがいた路地裏に差し掛かる。
『…そういえば、日曜日は猫の様子見に来てるって言ってたっけ……』
良かった…。
心操くんはまだ来てないみたい…。
何となく今会うのは気まずくて、そのまま通り過ぎようとしたけど、少し猫の様子が気になってチラリと路地裏を覗く。
『あれ…?昨日この辺に居た気がするんだけど……』
「ニャァー!」
『あっ、なんだそっちに居……
ーーーえっ…?』
表通りの方から子猫の声がして振り返ると、そこには悲惨な光景が広がっていた。
ーーー母猫が………死んでる…。
『そんなっ……!』
恐らく車に轢かれたのだと分かる、悲惨な姿。その母猫に
「ニャァー…!ニャァー…!」
『……っ…』
必死に母猫を呼び続けるその光景が過去の自分に重なって見えて、心臓がドクドクと波打ち、徐々に息が上がってくる。
お母さん…!お父さん…!
お願い、死なないで!
『ーーーハァッ、…ハァッ…!』
過去の映像がフラッシュバックし、胸が苦しくなって、ギュッと体操着を掴んだ。
ーーー久しぶりに……思い出してしまった…。
なるべくあの時の光景は思い出さないように避けていたのに…。
命は、こんなにも簡単に奪われる。
まるで人形の電池を抜き取るみたいに、単純で…脆くて…儚い。
人は自分で思ってるほど強くはない。とても繊細で弱い生き物なんだと…思い知らされる。
ーーーそれに気付くのはいつだって失ってからなんだ…。
「ニャァー…ニャァー…」
『ーーっ…』
鳴き続ける子猫達の声に顔を上げ、痛む胸を押さえながら、重い足を引きずって一歩、また一歩とゆっくり近付いた。
『…っ、…大丈夫、だから……泣かないで…?』
ーーー✴︎✴︎✴︎
*心操視点*
俺はいつもの様にサイクリングがてら、家より少し離れた猫の縄張りスポットへと自転車を走らせる。
着くまでの間、昨日の出来事が頭にチラついてまだ気持ちの整理が出来ていなかった。
明日からどういう顔して話すか……。
そればっかり考えては、答えが分からず溜め息をこぼす。
そうこうしている内に、いつもの路地裏へと辿り着いた。
俺は自転車から降りると、持ってきた猫用缶詰を手にして、辺りを見渡す。
「ニャァ〜!」
すると、何処からともなく子猫達が缶詰の存在に気付いて近付いて来ると、俺の足元でクルクル回り、餌をくれとアピールする。
「フッ…。焦るなよ。ちゃんとお前らの分あるから」
俺は缶詰の蓋を開けると、子猫達の前に差し出した。
必死にがっつく姿に自然と顔が
ふと、母猫の姿が見えない事に気が付いた。
オカシイな…。
いつもコイツら引き連れて真っ先に来るのに……。
「………まさか」
嫌な予感がした。
俺は勢い良く立ち上がり慌てて辺りを見渡す。
すると、後ろから「ニャン」と聞き覚えのある声がして振り返った。
「お前っ…!そこにいたのか……」
母猫は路地裏の奥で優雅に尻尾を揺らしながらやって来た。
……良かった。生きてたんだな。
取り敢えず姿を確認出来た事にホッとした俺は、また新しい缶詰を開ける。
「ホラ、お前の分だ」
母猫は嬉しそうに俺に擦り寄り、用意した缶詰にかぶりついた。
「ったく、心配させんなよ…。お前は生きて、コイツら守らねぇと。じゃなけりゃ、誰を頼って生きてくーー」
言ってる途中で、苗字の顔が浮かんだ。
アイツは幼い頃に両親を亡くしたと言っていた。きっとそれは、俺には想像出来ないくらい辛い想いをしたはずだ。
けれど、
アイツは、ずっと1人で生きて来たんだな…。
頼る人もいないままーー。
俺の中で少し
守りたくなる轟の気持ちが、今なら少し分かる気がする…。
本当は認めたくないけど、今回初めてアンタに賛同するよ。
「ニャン」
「えっ……お前、もう食ったのか?もっとゆっくり食えって」
俺はやれやれと思いつつも、まだ用意してあった新しい缶詰を開けようとすると、ふと…母猫の体に血の塊の様な物がへばりついているのが見えて、ギョッとする。
「お前っ…!コレ、どうしたんだよ…⁉︎」
一瞬、怪我してるのかと思い傷口を探すが、それらしき物は見当たらない。
……何なんだ、この血…?
野生の動物を狩った時に付いた物か?
「ニャン!」
「…!、あぁ…悪い。今開けるよ」
早く開けろと促す母猫に気を取られ、俺は気になりつつも猫達に餌をやり、暫く