第5話
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ーーガチャっ
『ただいまー!』
何とか心操くんを説得しながら無事に家まで辿り着くと、急いで玄関の扉を開けていつもの習慣で声を上げた。
「お…お邪魔します……」
私の後ろからかなり遠慮気味な声で心操くんは恐る恐る入ってくる。
その動きは挙動不審で、いつもの余裕ある心操くんの姿はどこにもなかった。
「………親御さんは?」
『いないよ。私一人暮らしだから』
そう言うと、心操くんは目を見開いて驚く。
「はっ⁉︎……いや、それはマズイだろ…!」
焦った様子の心操くんに私は首を傾げた。
『えっ、何で?』
「何でって……」
言葉に詰まる心操くんをじっと見つめていると、何故か心操くんは顔を赤面させた。
……どうしたんだろう、心操くん…?
何かいつもの感じと全然違う…。
不思議に思っていると、心操くんは私から顔を逸らし、そのままくるりと背を向ける。
「……やっぱ俺帰る」
『えぇっ⁉︎ 駄目だよそんなビショ濡れのままじゃ!ちょっと待ってて、今タオル持って来るから!』
ドアノブに手を掛ける心操くんを慌てて引き留め、急いで洗面所へと向かった。
ーーー✴︎✴︎✴︎
*心操視点*
結局俺は、雨が止むまで居ればいいよと苗字に強引にアパートへと連れられ、そして何故か今部屋に通されている。
部屋の中は1Kの広さで、一見質素な部屋だが、女子が使いそうな小物だったりが飾られ、初めて異性の部屋に入った俺は内心ドギマギしていた。
この状況…。
どう考えたってマズイだろ…。
あまりジロジロ部屋の中を見るのも悪い気がして視線を
『お待たせ心操くんっ!タオル持って来たし、これで拭いて?』
「……あ…あぁ」
柔らかい素材のタオルを受け取り、ゴシゴシと濡れた髪を拭くと、ふわりと柔軟剤の匂いが鼻を
……この匂い…。
それは、普段アイツと学校で話す時にたまに香ってくる……、
ーーー苗字の、匂い……。
「ーーっ…」
チクショウ…。
何だよ、これ…。
生殺しもいい所だ。
こんな状況で必死に耐えてる俺の気持ち、分かってんのかコイツ…!
当の本人は『雨止まないね〜』なんて呑気に呟いている。俺だけが意識してるのが何だか
『あっ。コッチ座って大丈夫だよ?フローリングの上で申し訳ないけど…』
「別に…。どこでも気にしない」
そう言って、触り心地の良さそうなマットの上に置かれた1人用テーブルの前に座る。
暫くすると台所の方で何かを用意していた苗字が戻って来た。
『はい。体冷えただろうから、あったかい飲み物持って来たよ!…緑茶しかなかったんだけど、いいかな?』
「えっ…?…あぁ、大丈夫だ。ありがと」
こういうところ気が利くんだな、コイツ…。
意外に家庭的か…。
少し感心しながら緑茶を受け取ると、そのままズズッ…と口に含んだ。
「……うまい」
『ほんと⁉︎良かったぁ〜。…って、私が作ったお茶じゃないんだけどね。メーカーさんに感謝だね!』
自分で言ってケラケラ笑う苗字が、ウザい反面……少し可愛いと…思った。
……ダメだ。
やっぱ今の俺は、おかしい…。
キャラでもないのに、さっきから胸がドキドキうるさい。
好きになるとここまで意識するもんなのか…?
『あ!もうタオル必要ないよね?貰うから貸して?』
「……あ、あぁ」
言われるがまま頭に被せていたタオルをズラした瞬間、苗字は『わぁ…!』と驚いた声を上げる。
何事かと顔を上げると、苗字の視線はどうやら俺の頭に注目していた。
『心操くんの髪…!いつもの上げてる髪じゃない!』
「はっ…?」
『すごーい!全然イメージ変わるね?こことか…』
「ーーっ…!」
苗字が俺の髪に触れようと手を伸ばした瞬間、俺はその手を弾き返した。
『…えっ…?』
「ーーお前なぁ……いい加減にしろよ…!さっきから人の気も知らないで…ッ」
『……ごっ、ごめん……?』
何で怒られたのか分からないみたいな顔をして謝る苗字を見て、俺の中で何かがプツリと切れた。