第5話
お名前は?
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ーーそれは、体育祭まで1週間前の出来事だった。
『…よしっ!ランニング10km行くぞぉ〜!』
靴紐を締め直し、雄英体操着に身を包んだ私は、気合を入れながら玄関の扉を開けた。
早朝の涼しい風を感じ、ランニング意欲が上がる。
今日は土曜日なので雄英は休校日。
貴重な休みの日だ。だから時間は有限!
雄英体育祭に向けて、まずは基本の体力作り!
何事にも体力がないと意味無いしね。
平日は5kmとかしか走れないけど、休日は時間に余裕があるから倍走れるし……頑張らなきゃ!
「大口叩いたからには全力で頑張れよ。俺も本気で挑む。……お前にも容赦しない」
「…なら、体育祭で証明してみろや。俺が必ずブッ潰したるからよォ…」
心操くんにもライバル宣言されたし、……爆豪さんにもあんな風に言われちゃ、情けない所見せる訳にはいかないっ…!
ーーあの時とは違うって所、見せてやるんだ!
『頑張れ名前ーー!!』
燃える闘士を胸に、私は気持ちが
『ゼェ…ゼェ…ゲホッ!……や、やっぱ10kmキツイな…』
既に折り返し地点で私の体は悲鳴を上げていた。
日々体力作りのためトレーニングしていたとは言え、やっぱり1週間前から始めた体力なんて所詮はその程度。
体育祭まで……この調子じゃダメだ。
もっと、もっと頑張らないと!
一抹の不安を感じながらも、少しペースを落として何とか家の近所まで戻り終盤に向けて走り続けていると、数メートル先に見慣れた後ろ姿を発見した。
ーーあれって、まさか…!
『ーー心操くんっ⁉︎』
「⁉︎」
名前を呼ばれ、驚いた様子で振り向くその人はやっぱり心操くんで、私服姿で路地裏の前にしゃがみ込み、何やらやってるご様子。
「………げっ」
うわっ…。
あからさまに嫌な顔されたー。
ちょっと傷付きながらも、心操くんの元へと近寄りながら声をかける。
『何やってーー』
その時、心操くんの膝元で何かが
「ニャァ〜」
『……ねっ、猫?』
見ると、心操くんの膝元には可愛らしい子猫が3匹と、その母猫らしい
『可愛いっ…!人懐こいね?』
「ハァ……。何でいつもこう、見られたくない所をお前に見つかるかな」
『えっ、何で?別に悪い事してないでしょ?』
「してなくてもだ。嫌なんだよ、こういうプライベートな所見られるのは」
少し不機嫌そうに呟く心操くんを見つめながら、私は『まぁまぁ』となだめる。
『私だってプライベートなんだしさ!そこはおあいこで…』
そんな私を心操くんはチラリと見遣ると、フンッと可笑しそうに鼻で笑われた。
「あからさまな格好だな。体力作りか?」
『そ、そうだけど⁉︎ 何か問題でも?』
何か言いたげな含み笑いに少しカチンと来て言い返すと、心操くんはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「単純な思考だなって思ってさ。まさかたった2週間の体力作りで体育祭を勝ち上がれるなんて思ってないよな?」
『そっ…それは…!』
ついさっき私が思っていたことを…!
さすがに鋭いな、心操くん…!
『お、思ってないよ?もちろん!他にも対策だって考えてるもん!』
けど素直に認めるのは悔しいから、思わず口から出任せを言ってしまう。
私の発言に心操くんは見透かした様に「へぇ…?」と口元を歪める。痛いとこを突かれる前に私は話しを切り上げた。
『そ、それより!心操くんは猫と
「……別に。たまたま用事で近くを通り過ぎたからコイツらの様子見に来ただけだ」
『えっ…。様子って……前から見に来てたの?』
「まぁ…コイツが母猫になる前から、かな」
『へぇ!そんな前から……猫好きなんだね?』
私がそう言うと、心操くんは少し照れ臭そうに口を尖らせる。
「………そうだよ」
普段毒舌でイジワルな心操くんが、恥ずかしそうに答えるその様子が可愛くて、思わず笑みが
『ふふっ…。だから人懐こいんだね。餌とかあげてるの?』
「基本日曜日に来て様子見てる。今日はたまたまだけど。……人懐こいのは、気にかける奴がこうやって餌やってるんだろ」
『そっか。守ってくれる人がいて幸せ者だね…』
「……そうだな」
和やかな雰囲気の中、
私も子猫に触ろうと手を伸ばすとーー
「ニャァ!」
何かを察知した様に、子猫と母猫がすごいスピードで路地裏の奥へと消えて行った。
『えっ…⁉︎ 嫌われた⁉︎』
「いや、違う…」
ショックで打ちひしがれていると、心操くんはそう言って上を見上げる。
『…?』
私も釣られて上を見上げた瞬間、ザァーと急なにわか雨が頭上に降り注いだ。
『わぁっ…!急に降ってきた…!』
「……っ、天気予報外れかよ…」
私たちは立ち上がり、手で雨を避けながら近くに雨宿り出来そうな場所がないか見渡す。
けれど、めぼしい場所がどこにも見当たらなかった。
……このままじゃ2人ともビショビショになっちゃう!
……あ。そうだっ!
『心操くんっ!すぐ近くに私の家があるから、そこまで走って行こう!』
「はぁっ…⁉︎ そんなの無理にーー」
『行こうっ!』
「あっ、オイ!ちょっと待て…!」
嫌がる心操くんの手を半ば強引に引っ張り、私は自分の家へと向かったーー。