第4話
お名前は?
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*轟視点*
今日はかなりイラついていた。
放課後、教室の前に集まってきた野次馬の中から宣戦布告しに来たと言った"ソイツ”は、名前と同じクラスにいた普通科の奴だった。
前に一度絡まれてから、俺はアイツが気に食わなかった。
……嫌な奴に会っちまったな。
鬱陶しい……。
途中、爆豪が野次馬の誰かと絡んでいる声が聞こえたが、興味なかった俺は教室を出る準備をしていた。
けれどーーー。
『ーー戦うだけがヒーローじゃないから!』
声が届いた瞬間、すぐに名前だと分かった。
何で名前がココにいるんだ…⁉︎
しかも、爆豪に絡まれて…!!
焦った俺は、すぐに駆け寄ろうとした。
けれど目に飛び込んで来た光景は、切島や緑谷達に囲まれ、少し照れ臭そうにする名前の姿だった。
その光景を見た瞬間、俺の心が一気に冷えて行くのを感じた。
ーーやめろ…。
ーー名前に近付くな…!!
気が付くと体が勝手に動いていた。
近寄る俺に気付いて、声を掛けようとする名前を気にかける余裕もなく、強引にその手を引く。
「行くぞ、名前」
『ーーわっ…⁉︎』
普段ならこんな乱暴な真似はしないのに、その時の俺は、とにかく早くこの場から名前を引き離す事しか頭になかった。
『轟くん⁉︎ 急にどこにーーきゃっ⁉︎』
突然、名前の悲鳴のような声と同時に、体が反対に引き戻される感覚が襲う。
振り返ると、そこにいたのは名前のクラスにいた…
ーーー1番顔を会わせたくない奴だった。
「手ェ離せよ。俺がここに連れて来たんだよ」
俺を睨み付けながら言うその手には、名前の手がしっかり握られている。
それに気付いた瞬間、俺の中の黒い感情が湧き上がった。
「名前に触んな…!手ェ離せッ!」
「お前の方こそ離せよ」
『ーーちょっ、ちょっとやめて!』
「やめろ2人共!どうしたんだよ急に⁉︎」
焦った様子の名前の声や、切島達の制止によって少し冷静さを取り戻す。
それでも、このどうしようもないイラついた感情だけは抑えられなかった。
……アイツにハッキリさせねぇとな。
このまま素直に返してたまるか。
『き、教室戻ろっか心操くん!鞄とか置きっぱなしだし、ねっ?…行こう?』
「………分かったよ」
『ごめんね、轟くん。またね…?』
気まずそうに謝る名前に、俺は声をかける余裕すらもなかった。
ただ、アイツだけはそのまま逃がす訳にはいかなかった。
「オイ」
俺の呼び止めに2人は立ち止まる。
何か仕出かすのかと思ったのか、切島が焦った様子で俺の肩を掴んだ。
「オイ、やめろって…!」
「離せ。何もしねぇよ」
その手を振り払いながら、俺は不安気な表情の名前と、その横で堂々とした様子で俺を見つめ返して来るソイツに近付く。
『轟くん…?』
「……」
触れる距離まで近寄ると、ソイツにだけ聞こえる声で、
「話しがある。後で校舎裏に来い」
そう言い残して、俺はその場を立ち去った。
ーーそして今、俺は校舎裏で呼び出した人物を待っている。
しばらくすると、遠くの方からこちらへ近付いて来る足音が聞こえた。
……来たか。
俺は顔を上げると、ソイツはすぐに校舎の影から姿を現した。
「話しって何?」
「…心操、って言ったか? お前に確認しときてぇ事がある」
「…何?」
一瞬間があったが、俺は構わず口にする。
「前に1度、名前に気があるのか聞いたら、"違う”っつったよな?」
「…言ったな」
その言葉に少しだけ安堵しながら、俺は言葉を続けた。
「だったら、名前に近付くな。その気がなくても、アイツは優しいから勘違いした変な輩に誤解されやすい。だから、俺が守ってやらねぇと…」
本当はずっとそばにいて、名前に近寄る輩を片っ端から…ってのは無理なんだろうな。
だったら、名前に近寄る前に勘違いさせねぇようしっかり見張るしかねぇ。
「言いてぇことはそれだけだ。わざわざ呼び出して悪かったな。…じゃあな」
そう言って俺は心操の横を通り過ぎ、そのまま帰宅しようとした。
「ーーじゃあ、俺には関係ないな」
冷たく響くその声に、俺は足を止めて振り返った。
「…は?」
意味が分からず、俺は心操を見つめる。
そんな俺を心操は真っ直ぐに見据えながら言った。
「俺は本気だ。だったら、近付くのも許されるんだろ?」
ーー"本気”だと…?
「何言ってる…?お前、前に否定して…!」
「……自分でも薄々気付いてたけど、そんな訳ないって思ってた。けど…あの時アンタに言われて気付かされたんだよ。俺は苗字が好きなんだって。感謝してるぜ?」
「ーーッ!!」
俺を煽るような言い方にカッとして、思わず心操の胸ぐらを掴んでいた。
「ーーざけんなッ!!何今更…!」
苦しそうに顔を歪めながら、心操は俺を睨みつける。
「…ッ、だいたい、何でアンタに指図されなきゃいけないんだ?アイツの気持ちは無視か?そこまで縛っていい権利、アンタにはないだろ」
「うるせェ…!アイツは俺が守ってやらないとダメなんだ!もう二度と離さないって、あんな思いはもう…っ、ずっと昔にそう誓ったんだ!」
一瞬、脳裏にガキの頃の記憶がよみがえる。
公園に1人、会えなくなってしまった好きな人を想って、泣いている
「ーーいつまで昔を引きずってるんだよ…」
「!!」
「いつまでも子供の頃のままだと思うなよ?アイツだって大人になって別の誰かを好きになる……俺たちがいくら願っていても、誰を好きになるかはアイツが自分で決めるんだよ!」
「ーーっ…」
真っ向から正論をぶつけられ、俺は反論できなかった。
「離せよ」
掴んでいた手を振り払われる。
俺は抵抗する気力もなく、そのままダラリと手を下ろした。
心操は乱れた襟を直すと、鋭く俺を睨み付ける。
「いつまでも過去を捨てきれないアンタに、アイツは渡さない」
そう言い残し、心操は俺の横を通り過ぎる。
背後で足音がどんどん遠くなっていくのを聞きながら、俺は暫くその場から動けないでいた。
いつまでも子どもの頃のままじゃない…。
…そうだな。
確かにその通りだよ。
俺は過去に囚われてる…。
ーーけど、
『焦凍くん……。もし、このまま大人になったらーー』
ーーあの約束を、無かったことにはしたくねぇんだ…!
誰にも取られたくねぇ…絶対に。
名前は、俺だけの…!
渦巻く感情をそれぞれ胸に秘めながら、私たちは体育祭に向けて後悔のないよう、残りの2週間を全力で挑もうとしていたーー。
第4話 おわり