第4話
お名前は?
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ーーヒッ⁉︎ まさか、覚えられてる⁉︎
『あっ、し、試験会場一緒だったんだけど…その、やっぱりヒーロー科合格したんだね!おめでとう!』
「あぁ?…………てめェは…⁉︎ ムカっ腹野郎ッ!!」
一瞬何言ってんだ?って顔されたけど、すぐに思い出してくれたみたいだ。もちろん、悪い意味で。
粗暴な人は煽る様な眼差しで、ズイッと私に顔を近付けてくる。
「ようあんな軟弱な個性で雄英に入って来れたなァ?」
『…わ、私は…っ』
「やめろ爆豪!女の子相手に何してんだよ⁉︎怖がってるだろ!!」
爆豪と呼ばれた人の後ろから、赤髪のツンツン頭の男の人が顔を覗かせ、爆豪さんの肩を掴んで引き離すと、私達の間に割って入ってくる。
「邪魔すんな!戦闘不向きな奴が雄英来たって意味ねーって教えてやってんだよ!!」
「何言ってーー」
『ーー戦うだけがヒーローじゃないから!』
ハッキリ言い放つ私の言葉に、その場にいた全員がシン…っと静まり返った。
言い返されると思ってなかったのか、爆豪さんも瞳孔を開いたまま唖然としている。
『……それを、証明してみせるよ!』
爆豪さんは真っ直ぐ私を見つめ直すと、元の機嫌の悪そうな顔に戻った。
「…なら、体育祭で証明してみろや。俺が必ずブッ潰したるからよォ…」
それだけ言い残すと、あとは私を見向きもせずに、横を通り過ぎて行く。
それを皮切りに集まっていた人達もゾロゾロと教室から離れて行った。
『……っ』
……こっ、怖ぁ〜〜〜!!
何でいつもあんな怖い顔してるんだろ⁉︎
笑うって感情あるのかな?(失礼)
張り詰めた緊張感が解けて、ホッと安堵していると、ガシリと力強い手が私の肩を掴む。
何事かと振り返ると、さっきの赤髪の男子が尖った歯を見せながらニカッと笑っていた。
「スゲーなお前!女子でまともに爆豪に言い返した奴なんて初めて見たぜ!肝座ってんのな!」
『えっ…⁉︎』
「君!先程はクラスメイトが失礼した!クラス委員長として謝らせてくれ」
「大丈夫だった…?かっちゃんいつもあんな感じだから気にしないで?」
『い、いやっ…!別に私は…』
いつの間にかヒーロー科の人達が私を取り囲み、心配や激励の言葉をかけてくれるけど、私は慣れない人の圧に戸惑っていた。
周りを見渡すと、少し離れた場所で心操くんがこちらを眺めているのが見えた。
ーーし、心操くんっ!!
ちょっと助けてぇ〜!!
「……(フイッ)」
ーー目逸らされたッ⁉︎⁉︎
“俺は関係ないから関わるな”って顔してるよねッ⁉︎
ひどい!
心の中で荒れ狂っていると、視界の端にコチラに近付いて来る見慣れた髪色が見えた。
『あっ…轟くーー』
声をかけようとした瞬間、遮るようにいきなり私の手を掴むと強引に引っ張られる。
「行くぞ、名前」
『ーーわっ…⁉︎』
轟くんの突然の行動に、3人のギョッとした顔が見えた。
『轟くん⁉︎ 急にどこにーーきゃっ⁉︎』
すると今度は空いた方の手を、また誰かに掴まれた。
グッと引き留められ、反動で後ろに倒れ込みそうになるのを何とか堪える。
慌てて後ろを振り返ると、まさかの人物に仰天した。
「手ェ離せよ。俺がここに連れて来たんだよ」
『…心操…くん…?』
手を掴んでいたのは、心操くんだった。
三白眼の瞳が、轟くんへと鋭く差し向けられる。
それを見た轟くんは目の色を変えた。
「名前に触んな…!手ェ離せッ!」
「お前の方こそ離せよ」
『ーーちょっ、ちょっとやめて!』
今にも掴みかかりそうな2人をなだめようとすると、それを見ていたさっきの3人も急いで止めに入って来てくれた。
「やめろ2人共!どうしたんだよ急に⁉︎」
「学校の風紀を乱す行動は慎みたまえ!」
「轟くんどうしたの⁉︎ 落ち着いて!」
みんなが必死に止めに入り、2人の距離を取ろうと引き離してくれる。その間も、お互い目を離す事なく睨み合っていた。
どうして急に…?
この2人って、こんなに仲悪かったの?
あっ…!
そう言えば前に心操くんが言い合いになったって話してたっけ?
元々が相性悪いんだこの2人…!
この状況に戸惑いつつも、場を取り繕うため私は心操くんに向き直る。
『き、教室戻ろっか心操くん!鞄とか置きっぱなしだし、ねっ?…行こう?』
「………分かったよ」
懇願するような目で必死に訴えかけると、心操くんは渋々頷いてくれた。
ホッと一息つくと、私は轟くんに目を向ける。
『ごめんね、轟くん。またね…?』
少し怒った様な轟くんの顔を見るのが怖くて、チラリと目を配ると、軽く手を振って背を向けた。
「オイ」
『⁉︎』
怒りを含んだ声に呼び止められ、思わず体がビクッと跳ねる。
振り返ると、赤髪の人に掴まれていた腕を振り解いてる所だった。
「オイ、やめろって…!」
「離せ。何もしねぇよ」
そう言って私たちへと近付く轟くんの瞳に映るのは、私じゃなく……隣にいる心操くんだった。
『轟くん…?』
「……」
轟くんは心操くんに近付くと、何かを耳元で話したかと思えば、すぐに離れてそのまま背を向けて歩き去って行く。
『…?』
「行くぞ苗字」
『あっ…う、うん』
何事もなかったように廊下を進む心操くんに戸惑いつつも、私は後ろ髪を引かれる思いで心操くんの後を追いかけた。
その一部始終を見ていたヒーロー科生徒たちは、みんな唖然としていた。
「何か……男女のもつれ合いって感じだったな…」
「う、うん……凄かったね」
「いやぁ〜…俺も前に轟とあの子が食堂で飯食ってた時に声かけた事あったんだけどさぁ〜、そん時も轟が超怖ェーのなんのって……アイツら多分デキてんぜ?」
「マジかよっ⁉︎」
「えぇっ⁉ ︎轟くんが…?」
そんな根も葉もない噂話で盛り上がっているとは
私たちは教室へと戻って行ったーー。
『轟くん……突然どうしちゃったんだろ』
「突然か?アイツ、最初からあんなだったろ。お前以外眼中にないって感じがさ」
『えっ⁉︎ そ、そうなのかな…?』
あぁ…でも確かに私といる時以外の轟くんって、別人みたく顔つきが違うと言うか…。
冷たい目、って言うのかな…。
誰も踏み込ませない雰囲気は確かにあるかもしれない。
「それより、さっきの爆豪とか呼ばれてた奴。苗字の言う通りやっぱヒーロー科受かってたんだな」
『…そ、そうだね。やっぱ戦闘力がズバ抜けてたし、スゴイ人なんだけど……やっぱりまだトラウマだなぁ…』
「けど、さっきのお前カッコ良かったぜ」
『ーーえっ…』
「ちょっと見直した。苗字のこと」
心操くんの口から信じられない言葉が発せられ、耳を疑う。
けど、自然な笑みを浮かべる心操くんの顔を見たら、本心で言ってくれたんだと感じた。
「大口叩いたからには全力で頑張れよ。俺も本気で挑む。……お前にも容赦しない」
『ーー!…もちろん、全力で頑張るよっ!』
私の言葉に、ニヤリと挑発的な目で笑うと、心操くんは鞄を背負って私に背を向ける。
「じゃあな。2週間後、楽しみにしてるぜ」
そう言って心操くんは背を向けたまま片手をヒラヒラとなびかせて教室を出て行った。
『…絶対、負けない』
ポツリと呟いた言葉は、心操くんにではなく、自分への意気込みだ。
……2週間か。
きっとあっという間に過ぎて行くんだろうな。
無駄にしないよう、日々鍛錬しないと!!
『…あっ!そういえば、さっき轟くんに何て言われたのか聞くの忘れちゃった…』
まぁ…いっか。
私も早く帰って、体育祭に向けて作戦練らなきゃ!
ーーそう意気込みを抱きながら、私は帰り支度にいそしんだ。