第4話
お名前は?
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ヒーロー科試験会場A。
私が振り分けられたのはその会場だった。
広大な敷地内に集められたヒーロー科志望者達は、みんな強豪な見た目で、余裕の表情を浮かべている。
うわぁ〜…強そうな人達ばっかだ。
みんな余裕ありそうだし、大丈夫かな私…。
実は先程のプレゼント・マイク先生によるプレゼンで、試験内容が“仮想敵を行動不能”にする事と知り、私は1人焦りと不安を抱いていた。
“修復”する私の個性とは全くの真逆。
しかも時間はたったの10分…!
この短時間で全てが決まってしまう。
何か対策……、
私でも出来る対抗策を見つけないと…!!
「ヘッ…、俺が全部ブッ潰してやんよ」
『ーー⁉︎』
ヒーローらしかぬ言葉に耳を疑い、驚いて声のした方へ顔を向けると、私の右隣にツンツン頭の目の吊り上がった男子が不敵に笑っていた。
その表情はヒーローというよりは、敵が浮かべる笑い方が似合う様な人だった。
…コ、怖ッ!!
この人とも同じ試験会場なの⁉︎
漂う雰囲気が只者じゃない…。
《ハイ、スタートー!》
そんな事を思っていると、なんの脈絡もなしにいきなり頭上からプレゼント・マイク先生の声が響いた。
ーーその瞬間、
「どけモブどもォッ!!」
ボォーーンッ!!
『わッ⁉︎』
物凄い爆音と爆風の衝撃で、体がフラリとヨロつく。
周りの人も同じ様な反応で、一瞬何が起こったのか理解できてない様子だった。
『い、今のはあの人の…⁉︎』
さっきの粗暴な人の個性なのか、手から爆発(?)させながら空中を舞い、一目散に演習場の中へと飛び込んで行く。
『なっ…何あの個性⁉︎…反則的強さじゃん…』
ド派手な個性に圧倒されていると、陽気な声が頭上から降り注いだ。
《どうしたあ⁉︎実戦じゃカウントなんざねぇんだよ!!走れ走れぇ!!
『ーーッ!、急がなきゃ!』
プレゼント・マイク先生のかけ声に、唖然としていた周りの人達も我にかえり、続々と演習場の中へと走る。
私も急いでそれに続いた。
『ーーえっ…もう倒されてる…?』
敷地内に足を踏み入れた瞬間、既にボロボロになった仮想敵達が何体も周囲に倒れていた。
ココも……あそこも…!!
全部倒されてる⁉︎
「お、おい…!全然敵がいねぇぞ⁉︎」
「ちょっと、これじゃポイント稼げないじゃない!」
受験者の人達も同じ状況に困惑しているようで、周囲から嘆きの声が聞こえてくる。
まさか……。
さっきの人が片っ端から全部の敵を…?
何これ、こんなの早い者勝ちじゃん!!
『どうしたら……』
なす術なくその場に立ち尽くしていると、背後から何かが近付いて来る気配がした。
すかさず振り返ると、正に今、仮想敵が私に襲い掛かろうとしている瞬間だった。
【標的捕捉!!ブッ殺ス!!】
『ヒィッ⁉︎いきなり出たァ⁉︎』
ドガッ!!
『くっ…!』
何とか攻撃を寸前で
ギラリと光る赤いランプが、何とも不気味だった。
どうやって倒す⁉︎
私の個性で一体どうやって…!
【標的ヲ追跡!!】
『⁉︎』
デカイ図体とは裏腹に、物凄い速さで私に突進し、あっという間に距離を詰められる。
マズイ…!
次は避けきれなーーー
ボォォォン!!
『キャッ…⁉︎』
敵が目の前まで来た瞬間、物凄い爆音と爆風が周囲を襲い、衝撃でその場に倒れてしまった。
この爆破は、まさか…!
「ここにもまだ居やがったのか!」
予想通りの人物がそこに立っていた。
その人の足元には、プシューと黒い煙をあげてベコベコに凹んだ敵が転がっていた。
……私、助けられた…?
この人が来てくれてなきゃ、今頃ーー…
ジワリと嫌な汗が滲む。
男の人は両手から蒸気のような煙をあげながら額を手の甲で拭うと、ギロリと鋭い眼光を私に向けた。
「…何ジロジロ見てんだよ?」
『えっ⁉︎…あっあの、助けてくれてありがとうございます…』
「あ''ぁ''ん⁉︎ 助けたんじゃねぇ!ポイント稼いだだけだ殺スぞ!!」
『は、ハイッ⁉︎ すすすみません!!』
お礼言ったのに殺す言われたー⁉︎⁉︎
やっぱり怖いよこの人ッ!!
ふと、その人の腕にうっすら赤い筋があるのが目に入った。
『…あっ、待って!』
「…あぁ?」
恐ろしい形相で睨みつけられるが、それよりもそっちの傷の方に気を取られていた私は、近付いて傷口に手を伸ばそうとした。
『腕に擦り傷があるよ。私の個性で治してあげる!』
「はっ?いらねー!」
伸ばした手は男の人の手に弾かれ、パシリと乾いた音が鳴った。
突然の行動に戸惑いながら、私は男の人を見つめる。
『で、でもっ…、怪我した所からバイ菌入ったら大変だよ…?』
「ーーッ!!」
そう言い終えた途端、男の人の顔が見る見る内に憎悪に満ちて行く。
それは先程までのただの恐ろしい形相とは明らかに雰囲気が違った。
その表情に、思わず背中がゾクリと
「テメェ…、アイツと同じ様なこと言いやがって…ムカつく野郎だなァ…!」
『アイツ…?』
「るせェ!いいから俺に構うな!戦えねェんだったら引っ込んでろッ!!このモブ個性がッ!!」
『ーーッ…!!』
激しく
《あと6分2秒〜》
プレゼント・マイク先生のカウントが聞こえて来たけど、私はさっきの言葉で完全に心が折れていた。
一歩も動けないまま、その場に佇む。
……分かってた。
私は…戦えないって…。
誰かを癒す事は出来ても、自分がピンチになると、途端に何も出来なくなる…。
周りの受験者が焦った様子で残った仮想敵を破壊しようと奮闘しているのを、私は他人事の様にただ眺める。
人助けをすれば、みんなが喜んでくれるものだとばかり思っていた。
だから、1人でも多くの人を助けたいって。
…あの時、私が助けられたように。
……って、何を自惚れてるんだ、私は……。
最初から、全部分かってた事じゃないか…。
戦えなければ意味がない。
ーー私は、ヒーロー向きの個性じゃないって。
《終了〜〜〜!!!!》
こうして、私のヒーロー科試験は苦い記憶となって心に深く刻まれた…。