第4話
お名前は?
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『…轟くんは、何で私のこと好きになってくれたの?』
気が付けば、無意識にそう呟いていた。
言ってからハッとする。
何をバカな事言ってるんだって。
「……」
あぁ、ほら。
轟くんもビックリしてるよ。
「昨日言わなかったか?」
『あ、その…!きっかけは何だったのかなって思って…!』
轟くんは口元を拳で押し当てるようにして考え込む。
長い沈黙の後、ボソリと呟いた。
「……わかんねぇ」
『エッ⁉︎』
わ、分からないとは……?
一体どういう…?
「気付いたらもう好きになってた」
『ーー!!』
ドキリと心臓がハネる。
ポツリポツリと轟くんは言葉を
「会えない時はずっとお前の事考えたり、今度会った時にこんなこと話そうとか、喜ぶ顔が見てぇとか………ずっとそばにいて欲しい……本当はその個性も、俺だけのためにあればいいのにって……」
『えっ…?』
もう一度私が聞き返すと、轟くんはハッと我に返った様子で、気まずそうに私から視線を逸らした。
「悪ィ……今のは、聞かなかった事にしてくれ」
『……轟…くん?』
私の呼びかけには答えず、轟くんは黙って俯く。
気まずい空気がその場に流れた。
ブーーーッ
『ーーッ⁉︎』
その時、携帯のバイブ音が鳴り響いた。
音の発信源は轟くんからだった。
轟くんはズボンのポケットから携帯を取り出すと、通話ボタンを押して耳に当てる。
「もしもし、姉さん?……あぁ、分かった。今から帰るよ……じゃあ」
どうやら轟くんのお姉さんからのようだ。
轟くんは通話ボタンを切ると、ベンチから立ち上がった。
「…そろそろ行くわ。わざわざ呼び出して悪かったな。…気をつけて帰れよ」
淡々と言いながら、轟くんは目は合わせずに軽く私を見遣ると、背中を向けて歩いていく。
『…あっ……ま、待って!』
「!」
呼び止められた事に驚いた様子で轟くんは振り返る。
私も意味なく呼び止めた訳じゃない。
今日会って直接言いたかった事がまだ、言えてない!!
『あのねっ、私…!』
「……」
私の言葉をじっと待つ轟くん。
ーーあなたには、ちゃんと言わなきゃいけない!
ーー1番近くで私を応援してくれた…あなただから!!
『私…もう一度、ヒーローを目指すよ!!』
感情が
少し恥ずかしくなって、俯きがちに唇を噛みしめていると優しい声が耳に届く。
「なれるよ。ヒーロー」
『ーー!!』
「名前なら、絶対みんなを助けられるヒーローになれる」
『ーーっ…』
それは、夢の中で言ってくれた幼い轟くんの言葉と同じ…
「名前ちゃんなら、絶対みんなを助けられるヒーローになれるよ!」
一番誰かに言って欲しい言葉だった。
『……ッ、…』
ジワリと目頭が熱くなり、視界にいる轟くんがボヤける。
私は慌てて顔を背けると、目頭を
「…泣いてんのか?」
『なっ、泣いてないよ⁉︎……ちょっと、目にゴミが…ッ』
なんて古典的な言い回しだろうと自分でも思った。
でも、人前で涙を見せるのはあまり好きではない。
必死で溢れてくる涙を抑えようとしていると、背後で轟くんが近付いて来る足音だけが聞こえた。
と、次の瞬間ーー。
『ぇっ……?』
轟くんの両腕が背後から伸びて来ると、そのまま後ろから引き寄せられ、そっと抱きしめられた。
『ーーちょっ…⁉︎』
「大丈夫、見えねぇから……振り向くな」
『ーーッ…』
轟くんの低い声が、耳元で響く。
距離の近さに思わずビクリと肩が震えた。
な、なななな、何が起こってるの⁉︎
何でバックハグされてるのォ〜〜〜⁉︎⁉︎
もう頭の中は完全にパニックだ。
そんな私とは正反対に、落ち着いたトーンだけど、少し熱っぽい轟くんの声が耳元を掠める。
「悪ィ…。泣いてるお前見たら……我慢、出来なかった」
『……っ』
抱きしめられた両腕に力が籠もる。
密着してるせいで、轟くんの心臓の鼓動が背中から
少し早い規則的なリズム。
轟くんも………緊張してる?
「泣くな…。ヒーローになっても、お前は必ず俺が守るから…」
『…と……ろき…くん…』
これ以上はもう心臓が爆発する…と思っていた矢先、腕の力が弱まり体を解放される。
ヘナヘナと地面に倒れそうになるのを必死に堪えて、轟くんの方へ体を向ける。
轟くんはそんな私を見ると口元を緩めた。
「止まったな。涙」
『へっ…?……あっ。ホントだ』
目元に手をやると、涙は既に乾いていた。
「じゃあな。また明日学校で」
何故か満足気な表情で、轟くんは呆然とした私を置いたまま颯爽と公園から去って行った。
『……』
しばらく思考が停止したまま、私はその場から動けずにいた。
今のは……私を泣き止ませるために…?
あぁ、そうだったんだ…。
ーーって、どんな泣き止ませ方ッ⁉︎
1人虚しくノリツッコミ。
そうでもしないと、このドキドキが収まりそうになかったから。
さっきまで温もりを感じていた背中がヤケに冷たく感じた……。