第4話
お名前は?
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*轟視点*
「焦凍ー。今日お昼何か食べたい物ある?今から買い物行くんだけど」
「…蕎麦、かな」
「はいはい、本当蕎麦好きだねぇ〜。出来たらまた呼ぶから」
「ありがとう」
朝、家の庭で体を鍛えていると、姉さんが話しかけて来たので、区切りも良かったし、一旦体を休めるために縁側に腰掛けた。
「フゥ……」
2時間くらいやったか…。
集中してると時間経つの早ェな。
今日は雄英は臨時休校だ。
昨日の出来事の後じゃ妥当だろう。テレビのニュースでも雄英襲撃事件として大々的に報道されていた。
……昨日のあの男ーー。
「……今回は失敗だったけど
ーー今度は殺すぞ。平和の象徴オールマイト」
本当に危険な奴だった。
“今度”っつーことは、また襲ってくるかもしれねぇ…。
名前も会ってるんだよな、あの男に…。
後を付けたと言ってたが、
何もされなくて本当に良かった。
一歩間違えれば本当に殺されていたかもしれねぇ。
力の差なんて関係なく突っ込んでいくタイプだからな……しっかり俺が守ってやらねぇと。
グッと拳を握り締めると、昨日名前に触れられた手がジワリと
「……名前」
触れられた感触や手の温かさがよみがえる。
同時に心臓がギュウ、と締め付けられた。
あの時、手に触れられたあの瞬間、昔の名前と重なって本当はもう少しで名前を抱き締めそうになるのを必死に理性で抑えていた。
好きな人に触れたいのに触れられないのはかなり辛いが、名前を困らせるのは嫌だ。
いつか、自然に触れていい時が来るまでは…
……いや、やっぱ辛ェな。
フゥー、とため息を吐くと空を仰いだ。
雲一つない青空が広がっている。
……今何してんだろうな。
会いてぇ…。
こんな風に誰かを恋しく想うのも、胸が締め付けられそうになるのも、全部名前が初めてだった。
正直、名前がそばにいてくれればそれ以外はどうでもいい。
クラスの奴らもーーー。
ブーーー。
「……?」
突然、ズボンのポケットに入れていた携帯のバイブが鳴った。
滅多に掛かってくる事のない連絡に不審に思いながら携帯を取り出すと、表示された文字を見て驚愕した。
「ーー名前…⁉︎」
ディスプレイに映し出された文字は、今正に思い描いてた人からだった。
はやる気持ちを抑えながらメッセージを開くと、そこに書いてあった文字はーーー
“昔の記憶を少し思い出したかもしれない。確認したいんだけど、電話しても大丈夫?”
俺は直ぐに“会って話そう。公園で待ってる”とだけ送り、急いで部屋に戻って着替えると、そのまま玄関まで廊下を走り抜けた。
「ちょっと焦凍!そんな急いでどこ行くの⁉︎お昼ご飯は食べないの⁉︎」
今から買い物に行こうとしてたであろう姉さんと、廊下ですれ違い様に驚いた様子で声をかけられる。
「食う!昼までには戻るから!」
とだけ言い残し、俺は玄関の扉を開けると、ただひたすら公園へとひた向きに走った。
ーーー✴︎✴︎✴︎
『まさか、こうなるとは…』
私は公園に向かって歩いていた。
本当は電話で軽く聞くつもりだったけど、気がついたら会おうという事になっていた。
……まぁでも、会った方が深い話ができるというか、ヒーローをもう一度目指すって決めた事も轟くんには言わなきゃって思ってたし、ちょうど良かったかも。
などと考えていると公園に辿り着いた。
辺りを見渡すけど、轟くんはまだ来てない。
取り敢えず座って待っておこうと思い、公園のベンチに腰掛ける。
『あ…。この感じ、夢と同じだ…』
夢でもこうやって轟くんの横に座って、話を聞いてたんだよね。
なんか…デジャブ感がスゴイ…!
「名前ッ!」
『…あっ、轟くん!』
呼ばれて顔を上げると、轟くんがこちらに向かって走って来るのが見えた。
「ハァッ…悪ィ…、ハァッ…待ったか?」
『全然大丈夫だよ!私もホント今来た所だから!…てか轟くん、息切れすごいよ?走って来たの?』
見ると汗もかいてるし、顔もほんのり赤い。
轟くんは額の汗を手の甲で拭きながら、コクリと頷いた。
「待たしたら悪ィだろ…、呼び出したの俺だし…」
『そんなの気にしないよっ!ゆっくりで良かったのに……ハイ、これ使って?』
カバンからハンカチを取り出して差し出すと、轟くんは目を見開いて驚いた様子だった。
「いや、汚れるだろ。いい…」
『遠慮しないで。汗拭かないと体冷えて風邪引いちゃうよ』
「………分かった。ありがとな」
まだ少し戸惑ってた様子だったけど、遠慮気味に轟くんはハンカチを受け取ってくれた。
けれど汗を拭く様子はなく、握ったハンカチをじーっと見つめている。
『…轟くん?』
不思議に思って声を掛けると、轟くんはハンカチから私に視線を移す。
その目は、昨日の夕暮れに照らされた切なげな表情によく似ていた。
「お前は……本当に優しいんだな。昔から変わらない。けど、その優しさがたまに不安になる」
『えっ…?』
「俺以外にも、優しいからな……お前は」
『ーー…!』
私が何も言えずにいると、ハッとした轟くんが申し訳なさそうに顔を伏せた。
「…悪ィ、責めてる訳じゃない。誰にでも優しいのが名前らしくていい所だから」
『……轟くん…』
「…話しが逸れたな。取り敢えず、記憶を思い出したって話し…聞かせてくれ」
『…うん、そうだったね』
さっきの言葉が心に引っかかりながらも、私は今日見た夢の話しを轟くんに話す事にした。