第3話
お名前は?
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『……私は……ヒーロー向きの個性じゃ、ないから』
絞り出す様にそう言うと、心操くんは黙って私を見つめる。その顔は怒っているのか、呆れているのかは分からない。ただ、力強い眼差しで私を見据えていた。
暫く沈黙が続いた後、心操くんは静かに話し始めた。
「…入学式の日、苗字にヒーロー向きの個性だって言われた時のこと、覚えてるか?」
『えっ…?うん、覚えてるよ』
「嬉しかった」
『ーー…!』
心操くんが素直に気持ちを伝えてくれるなんて、珍しい。
意外な言葉に拍子を突かれていると、心操くんはフッと優しい顔をする。
そして思い返すかの様に
「…前にも言ったけど、あの言葉で俺はお前に救われたんだよ。だから、絶対ヒーローになってやるって思った」
そう言うとゆっくり瞳を開き、今度は真剣な顔で真っ直ぐに私を見つめる。
「ーーだから、ヒーロー向きじゃないなんて言葉、お前が俺に言うなよ。お前にはお前のやり方があるだろ」
『……私の、やり方…』
「諦めたら、もうそこで全部終わるんだよ。夢も、憧れも……救える命も」
『…救える…命…』
一つ一つの言葉が、私の胸に染み込んでいく
心操くんと私、始まりは同じだったはずなのに……私は一度、自分の無力さに挫折してしまった。
潔く諦めて、別の道を進もうとした。
ヒーロー以外でだって、役に立てる道はあるから……。
そう思い込もうとした。
けどーー、
雄英での日々を思い返しても、ヒーローへの捨てきれない気持ちが、自分の中で無意識に残っていた。
私は、本当にもう諦めてしまうの……?
本当は…まだーーー…
「よし、今日は寄り道せず真っ直ぐ帰るように。警察の方も下校道中パトロールしてくれるそうだ。それと、明日は学校は臨時休校だからな。間違えて来るなよー」
先生の号令によって、皆んな帰り支度を始める。
私もハッと我に帰り、慌てて帰り支度を始めた。
チラリと心操くんを横目に見ると、淡々と支度をして声をかける間もなく教室を出て行ってしまった。
『あっ……』
心操くん……。
お礼、言いそびれちゃったな……。
言った所で、"別に、思った事言っただけ“って言いそうだけど…。
今度会ったら、ちゃんと伝えなきゃ。
ーーブーッ、
帰り支度が整った瞬間、制服のポケットに入れてた携帯が鳴った。
相手先は轟くんだった。
そうだ!メール送ってたんだった!
急いで内容を見ると、絵文字もない簡素な文で "無事だから心配するな" と書かれていた。
ほっと一安心したけど、やっぱりちゃんと顔を見て無事を確認したいと思い、"少しの間、会えないかな?" と送ると、すぐに "大丈夫だ。今教室に向かってる" と返信が来たので、轟くんが待つ方向へと小走りで向かった。
ーーー✴︎✴︎✴︎
『轟くんは……あっ、いた!』
広く長い廊下を小走りで進んでいると、夕焼けに染まった窓ガラスの前に佇む轟くんがいた。
『ーー轟く…っ、』
声をかけようとして、息を呑む。
窓から差し込むオレンジ色の光が、赤と白の綺麗な髪を照らしキラキラ輝いていて、轟くんの整った顔立ちがよりいっそう美しさを引き立たせる。
まさに絵になる美しさだった。
「…名前」
思わずその場で見惚れていると、私を見つけた轟くんが先に声をかけてくれた。
な、何やってんだ私…!
そんな場合じゃないってば!
我に帰って頭を振り、改めて轟くんに視線を戻すと、いつもの制服と違う姿にようやく気付いた。
『と、轟くん…!その服…』
「…?……あぁ。そういや、この格好で会うのは初めてか」
ヒーローコスチュームに身を包む轟くんがすごくサマになっていて、思わず感心して溜め息が漏れる。
『すごい…!やっぱり、コスチューム着るとヒーローって感じがするねっ!』
「そうか?……サンキュ」
少し照れ臭そうにはにかむ轟くんを見て安堵すると同時に、先程の襲撃事件を思い出す。
『それより、一体何があったの⁉︎私たち急に校長先生から、敵が侵入してヒーロー科と交戦してるとしか聞かされてなくて…!』
「……昼間、話してただろ。黒い服を着た不気味な男がいたって。恐らく襲って来たのはソイツだ。オールマイトを
『オールマイトを…っ⁉︎』
やっぱり…あの男の目は普通じゃなかった。
ーーそうだ、あれは…
人を、殺す目だ。
あの日見た光景と同じーー…