第3話
お名前は?
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今日は最悪なスタートだった。
朝、いつものように目覚ましが鳴り、起きて止めたまでは良かった。
『あと5分だけ…』
そう思い二度寝したのが間違いだった。
次に目が覚めた時には、窓から暖かな日差しが差し込んでいた。
『…んっ……あれ…今、何時…?』
時計に刻まれていた数字は11:30。
その瞬間、寝ぼけていた頭がどんどんと冴えて冷や汗が流れ出る。
『嘘でしょーー⁉︎⁉︎ 4時限目始まってんじゃん!!』
私はベットから飛び起きると、自己新記録を叩き出す勢いで身支度を済ませ、家を飛び出した。
私マジで色々やらかし過ぎでしょ!
まだ登校して3日目だよッ⁉︎
絶対問題児扱いだよ〜〜!
その後ひたすらダッシュして、なんとか雄英へと辿り着こうとした所で、いつもと違う光景に目を疑った。
『あれは……?』
雄英の入門ゲート前に大勢の人だかりが出来ている。よく見ると、テレビカメラを持った人や音声を拾うマイクを持った人など、見た瞬間すぐにマスコミだと理解した。
何でマスコミが雄英に集まってるの…?
……って言うか、ゲート閉まってないッ⁉︎
えっ、入れないじゃん!!
……あっ。
そう言えば、入学式の日に先生が言ってたっけ…?
「ーーつまり雄英はいくつものセキュリティがあって、それにより敵の侵入が防げる訳だ。だが、お前達が持っている学生証や通行許可IDがあればセンサーが反応して解除されるから、絶対に身に付けておけよー」
この学生証があれば解除できるハズ…!
私が一歩入門ゲートへと近づいた瞬間、思いがけない事が起こった。
「な、何だ⁉︎ 急に門が崩れたぞッ⁉︎」
「どういうこと⁉︎」
『……えっ…?』
封鎖されていたセキュリティゲートが、まるで砂の城が崩れるかの様にバラバラと砕け散った。
マスコミの誰かが個性を使った…?
そこまでリスクを犯して、こんな強行突破みたいな事するの…?
「よく分かんないけどラッキー!これでオールマイトにインタビューできる!」
その一言を皮切りに、崩れてポッカリと大きな穴が空いたゲートにぞろぞろとマスコミが雪崩れ込む。
けれど、その流れに逆らうかの様にマスコミの中から黒い人影がゆらりと姿を現した。
えっ…。
今のは、誰ーー?
明らかにマスコミ関係者とは雰囲気が違う。
全身黒い服に身を包み、細身だがその顔は無造作に伸ばされた長い前髪でよく見えない。
ただ、異様な雰囲気がその人物から
……男の人…だよね?
もしかして、ゲート壊した人って…この人?
次の瞬間、男の顔が私に向けられる。
長い前髪の奥に潜む赤い瞳と一瞬、目が合った。
『ーーーッ!!』
その瞬間、私の体がゾッと恐怖に震え上がる。
直感的に分かった。
あの目はーーーー…危険だ。
男は私を
ーーあっ、逃げられる…!!
しっかりしろ名前!
恐怖で動けなかったなんて、それでもヒーロー科志望だったの⁉︎
今ならまだ間に合う!
せめて逃げたルートだけでも把握してプロに報告を…!
『…あ、れ……?』
すぐに後を追いかけて曲がり角を曲がるが、既に男の姿は消えていた。
…しまった……遅かった……。
悔しいが、見失ってしまったものはしょうがない。私はプロヒーローに報告しようと急いで雄英へと戻った。
穴が空いたゲートをくぐり抜け、密集したマスコミをかき分けながら必死に前へと進んでいると、前方の方で荒げたマスコミの声が聞こえ、顔を上げた。
「オールマイト出して下さいよ!!いるんでしょう⁉︎」
「非番だっての!!」
「一言コメント頂けたら帰りますよ!!」
「一言録ったら二言欲しがるのがアンタらだ」
あれは…!プレゼント・マイク先生!
ーーと、その隣にいるのは誰だろう?
全く見覚えのない顔だった。
言っちゃ悪いが、少しくたびれた格好をした人で、全くヒーローらしさは感じられない。
2人は至極面倒くさそうな顔でマスコミに対応していた。
とにかく、早くこの事を報告しないと!!
私は無我夢中でマスコミ集団を掻き分け、2人へと近付いた。
『せ、先生ッ!』
ようやく目の前まで近付き声を上げると、2人は驚いた様子で私を見る。
「1年か…?どこの科だ。今頃登校して来たのか?」
『すっ、すみません!普通科の苗字名前です……ちょっと寝坊したみたいで…』
「オイオイ!チョット所じゃねえぞ⁉︎ 登校3日目にして遅刻って、気が緩み過ぎだろバッドガール!」
「…どうした?何かあったのか?」
私の顔色を見て何かを察したのか、先生は急にそう尋ねる。私はすぐに今あった出来事を2人に話した。
「黒い服を着た、細身の男……か」
『はい……多分、その男が門を壊して、この事態を引き起こした犯人だと思います』
「だと思いますって、直接見たわけじゃねーってことか?」
『……はい。でも、直感的にそう思いました。あの男の目は………普通じゃ、ないです』
「……」
2人はお互いに顔を見合わせると、何か思うものがあったのか頷き合う。
「オーケー。後は俺達が警察に伝えとくから、お前は心配せず真面目に授業受けてな」
『わ、分かりました…お願いします』
私はその場を後にしようと踵を返す。
「オイ、苗字…だったか」
『は、はいっ…!そうです!』
急に呼び止められ、驚きながら振り返る。声を掛けてきたのは黒いロン毛の先生だった。先生は真剣な表情で言葉を続けた。
「次こういう事があったら、すぐプロに報告するなり助けを求めろ。間違っても後をつけようとするな。ヒーロー科ならまだしも、お前は普通科の生徒だ。敵と対峙した所で返り討ちにされるだけだ」
『……っ…』
それは、正論以外の何物でもなかった。
だけどーー、
「お前に何かあったら、責任は俺達にある。…
『……はい……すみませんでした…』
ーー私も本当は、ヒーロー科志望だったのにな……。
心の中でそう呟くと、切なさで胸が苦しくなった。
でも、実際私は普通科にいる。
それはいわれの無い事実だ。
それに、確かにあのまま敵に捕まったとしても、私には戦う個性が備わってない。
考えれば考える程、自分の無力さに気付く。
やっぱり、私はヒーローに向いてないんだ。
沈んだ気持ちを抱えながら、私はその場を後にした。