第22話
お名前は?
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警察が到着し、敵も無事に引き渡した所で事件はようやく終結した。エンデヴァーが警察と取り込んでいる間、私は轟くんと一緒にお兄さんの無事を確認しに向かった。
「
「あぁ、俺は大丈夫だよ。みんなが助けてくれたから」
お兄さんは安心させるように優しく微笑む。
けれど隣にいる私に気付くと、申し訳なさそうに表情を曇らせ、体を萎縮させた。
「……名前さんもありがとう。巻き込んだみたいになっちゃって、本当にごめん……」
『そんなっ、謝らないで下さい!お兄さんが無事で本当に良かったです…!』
「うん…、ありがとう」
そう言いいながらも、お兄さんは少し気まずそうに頷く。そんなやりとりをそばで見ていた轟くんが、気になった様子で私へと視線を向ける。
「そういや、何で名前は
『えっ?あぁ…、初詣行った帰りにたまたま騒動に出くわしたの。それで、お兄さんが敵に捕らわれてる姿を見て、思わず……』
「チッ…、んなこったろーと思ったぜ」
『ーー!』
背後から私たちの会話に割って入る声に驚き後ろを振り向くと、ポケットに両手を突っ込んだまま不貞腐れた様子でコチラに向かってくる爆豪くんと、その後ろから追いかけてくる緑谷くんがいた。
『あっ、2人とも無事で良かった!……そういえば、どうしてみんなエンデヴァーと一緒にいたの?』
「僕たちは今、エンデヴァーの事務所でインターン中なんだ。それで今は3人で行動してる事が多くて……」
緑谷くんの言葉により、ようやく謎が解き明かされた。
『そう言うことだったんだ…!さっきは凄い活躍だったね、カッコよかったよ!』
「なに呑気なこと言ってやがる!!俺たちが来なきゃテメーも危ねぇ状況だったんだよッ!!」
『ゔっ…、ごめんなさい……』
確かにあのままエンデヴァー達が来てくれなければ、私1人で敵を相手にしなきゃならない状況だった。
というか、そもそも仮免取得も何もない私がヒーロー活動をすること自体、本来は
「名前さんは悪くないよ。あの時、俺が助けてくれって言ったから巻き込んじゃったんだ」
落ち込む私を気にしてか、お兄さんがすぐにフォローしてくれるけど、私は慌てて首を横に振った。
『あんな状況になれば、誰だって助けを求めたくなりますよ!お兄さんのせいじゃないです!悪いのは私なんですし……』
「当たり前だろーが、てめーの自己責任だ」
「まぁまぁ、緊急事態での個性使用は正当防衛とされるし、2人とも無事だったんだから、かっちゃんもそこまで強く言わなくても……」
「うっせー死ねッ!」
「ヒドイッ…⁉」
理不尽にキレられる緑谷くんに同情するも、少しずつ日常に戻りつつある風景に、どこかほっとした部分もあった。
そんな中、話の流れは何故か爆豪くんのヒーロー名についてで盛り上がる。
「バクゴーだよね」
「……
「え⁉ 決めたの⁉ 教えて!」
興味津々で迫る緑谷くんに爆豪くんがブチ切れる。
「言わねーよ!てめーにはぜってー教えねぇくたばれ!」
「俺はいいか?」
「だめだ、てめーもくたばれ!先に教える奴いんだよ!」
「君のヒーロー名を教えてくれ」
「しつけぇーなぁ!!って、………あ?」
この場にいた誰でもない野太い声に、みんなの視線が声が聞こえた方へと注がれる。そこにいた人物はとても意外な人だった。
「親父…?」
「君のヒーロー名を知りたい」
てっきりその言葉は爆豪くんへ向けられた物だと思っていたのに、エンデヴァーはまっすぐ私を見据えながら、もう一度同じ言葉を繰り返した。
『……えっ?私の…?』
「先程、警察から感謝の言葉を述べられた。被害が拡大しなかったのは、迅速な避難誘導があったからだと。俺たちが到着するまでの間、君が市民の避難誘導を行ってくれたんだろう?」
『……は、はいっ!』
「これは大きな貢献だ。君のおかげで市民は救われた。そして夏雄の事も……俺からも感謝する。ありがとう」
『ーー!!、い、いえ、そんな…っ!』
まさかのエンデヴァーからの直々のお礼の言葉に、思わず舞い上がりそうになるのを必死に抑え込んだ。
嬉しいっ…!
エンデヴァーからお礼を言われるなんて…!!
夢みたいだ……。
「けどコイツ、仮免もなんも持ってねーぞ」
『ゔっ…!』
「かっちゃん…!今そんな水差すこと言わなくても…っ!」
爆豪くんの鋭い正論に撃沈していると、エンデヴァーは腕を組みながら静かに語った。
「確かに、許可を得ない場合のヒーロー活動は禁じられている。しかし、俺の監視下でなら問題ない」
『……え?』
「おい、まさか……」
爆豪くんが何かに気付いた様子で、眉をひそめながら呟く。
私は言葉の意味を理解しようとするが、それよりも早く、エンデヴァーは私を真っ直ぐに見据えながら答える。
「君の貢献を称え、ぜひ俺の所へインターンに来てもらいたい。俺が、本物のヒーローを見せてやろう」
『ーー…!!』
うそ……。
私が…、エンデヴァーの元で一緒に……?
「君も、ヒーローになりたいのだろう?」
ずっと、憧れてた。
私の目の前に現れた、あの日からずっと。
あなたみたいな救いのヒーローになりたいって……!
『ーー…はいッ!立派なヒーローになりたいですッ!」
私にヒーローを教えてくれたのは、あなたでした。
「…名前…」
「凄いね苗字さん!僕たちでさえ轟くんの好意で許可してもらったのに、エンデヴァーから直々にオファーしてもらえるなんて……!」
「言っとくがッ!現場では俺の方が先輩だからな⁉ 足引っ張ンじゃねーぞ!」
『うんっ!一緒に学ばせてもらうね!」
「……それで、君のヒーロー名は……」
『あっ!す、すみません!』
少し遠慮がちに聞いて来るエンデヴァーに、私は慌てて姿勢を正す。喜び過ぎてすっかりその事を忘れていた。
私は自信に満ち溢れる顔でエンデヴァーを見上げる。
ヒーロー名……、
私のヒーロー名はーー…!
『ーーー "リペア" です』
「リペア……いい名だ」
優しい眼差しでそう答えてくれるエンデヴァーに、私はとびきりの笑顔を向けたーー……。
ーーー✴︎✴︎✴︎
同時刻。
エンデヴァー達が敵を撃退し、事件が解決したかに思われたその現場で、1人の男は建物の物陰に身を潜めながら、遠目からその様子を食い入るように見つめていた。
「……まさかお前もいるとはなァ。こりゃ嬉しい誤算だ」
顔が隠れるくらいに深くフードを被った男の表情は見えないが、その口元は愉快そうに
男はある程度眺めて満足したのか、くるりと踵を返し、真っ暗な路地裏の奥へと消えて行く……。
月明りも差し込まない暗闇で、男は被っていたフードを静かに剝ぎ取った。
「ククッ……舞台は着々と整ってる。お前にも最高のフィナーレを用意しておいてやるから、最後は俺と一緒に飾ってくれよ…ーーー苗字 名前」
継ぎ接ぎだらけのその顔は誰にも知られる事なく、夜の闇に消えて行ったーー……。
第22話 おわり
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