第22話
お名前は?
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私が避難誘導をしている間にも、激しい戦闘が繰り広げられていたけど、3人の迅速な対応によって事件は解決へと向かって行く様子が目に見えて分かった。
「おまえの望みは何一つ……叶わない!!」
敵の白線の個性で空中へと放り投げられた車を、新技により地面に落下する事なく救いだす緑谷くん。
お兄さんが車に轢かれそうになる寸でで助け出す爆豪くん。そして、その隙を突いて敵を撃退する轟くん。
みんながそれぞれ声を掛け合うでもなく、
『…すごい…っ!』
思わずそう声が漏れてしまう。
やっぱり間近で本物の敵を撃退するヒーローの姿は、何度見てもカッコイイし興奮する。
その度に、私はまだまだコチラ側なんだなと思い知らされる瞬間でもある。
良かった……。
これで無事に事件解決、か……。
ふと視界の端に視線をやると、敵を捕らえようと近付いて行く轟くんの姿が映った。敵は轟くんの一撃により、力なく地面に倒れ込んでいる。その周りに、千切れた白線が地面に散らばっていた。
『………』
なんとなく
敵は地面に
なんだろう……この胸騒ぎは……。
あの男の異様なまでのエンデヴァーへの執着心が、焦燥感と恐怖心を掻き立てる……。
「一瞬の判断ミスが、時に取り返しのつかない事に……なんて事もあります。そうならないよう、最後まで気を抜かないで下さいね!」
脳裏に響く13号先生の言葉。
それと同時に散らばっていた白線の一部が、スッと捲り上がるのが見えた。
『ーーー轟くん、危ないッ!!』
「ーーっ⁉」
轟くんが驚いた様子で私へと振り返る動きがスローモーションのように見えた。私は轟くんを庇うようにして体を広げながら覆いかぶさる。その瞬間、千切れた白線が勢いよく私の頬を掠めた。
ズキリと鋭い痛みが頬に走る。
『…っ、……轟くん、大丈夫⁉』
「ーー…!!、名前……お前、血が…っ」
轟くんは私の顔を見た途端、激しく動揺した様子を見せた。ズキズキ痛む頬からは、生暖かい血が流れる感覚がする。でも、そんな事どうでもいい事だ。
私は轟くんが怪我を負ってない事に安堵して、ニコリと微笑んだ。
すると、突然狂ったように敵が私達に向けて発狂する。
「お前じゃないッ!!お前らじゃダメなんだ!!俺を
「ーーてめェ…!」
『……轟くん…?』
激しい怒りを含んだ様子で、轟くんは敵を睨みつける。その声は、いつもより数段と低く……殺気立っていた。
轟くんは敵に詰め寄ると、その胸倉を鷲掴みにして強引に引き起こす。
「よくも名前に…ッ!!」
声を張り上げるのと同時に、轟くんの左半身からボウッ、と勢いよく燃え盛る炎が出現した。冬の冷え切っていた周りの空気が、急激に熱を帯びる。
「ヒィイイ!!熱ィッ!!」
掴まれていた敵も、あまりの熱さに声を張り上げながら悶え苦しんでいた。
『轟くん!落ち着いて!』
「ーーーっ⁉、クソッ…、収まれ…っ!!」
『轟くん…っ⁉』
何故か轟くん自身も焦った様子で必死に炎を抑え込もうとしていた。きっと感情が溢れ出た時、無意識に炎を出現させてしまったんだ。
けれど、高ぶった感情で燃え盛る炎はすぐには消えない。それがさらに轟くん自身を追い込んで行く。
「くッ…、名前、離れてろッ!」
『…で、でもっ…』
「いいから早くッ!ーーー俺に近付くなっ…!!」
『ーーー…』
あぁ…、轟くんが怯えてる…。
私をまた、傷つけてしまうんじゃないかって…。
でも、違うんだよ轟くん。
轟くんは何も悪くない。
早く安心させてあげなきゃ…、私は大丈夫だよって。
私はもう、轟くんの炎では傷つかないよって……。
私は自分自身に修復を使った。全身が淡い光に包み込まれる。私はそのまま駆け出すと、炎を纏う轟くんを背中から勢い良く抱き締めた。
「ーーーっ…⁉」
『もう大丈夫だよ、轟くん』
大きく目を見開きながら肩越しに振り返る轟くんに向かって、安心させるように優しく囁く。
『轟くんの炎は私を傷つけない。誰も傷つけない。轟くんの炎は誰かを傷つけるためのモノじゃない。大切な人たちを守るための優しい炎だから……ほら、私もう怖くないよ?』
「……名前っ……」
消え入りそうな声でそう呟いた轟くん。
すると燃え盛っていた炎が徐々に勢いを失い、弱々しい揺らめきになって消えた。ようやく落ち着いた状況に安堵していると、少し取り乱した様子の轟くんが慌てて私へと向き直る。
「怪我は…っ⁉」
私は安心させるように首を横に振る。
『してないよ。修復を使ってたから。……ほら、さっきの傷ももう治ってる!ーーー…だから、私は大丈夫。もう、怖がらなくていいんだよ?』
「……っ、名前……俺は……」
頬の傷を見せ、無事であることを証明しながら優しく微笑むと、轟くんの表情が一瞬泣きそうな顔になった。
それを隠すように轟くんは顔を伏せると、そのまま弱々しく口を開く。
「ごめん……。俺のせいで、たくさんお前を傷つけちまった……」
『……ううん、もう大丈夫だよ』
「……ただ守りたかったんだ、お前を。でも、どう守ればいいのか、自分でも分かんなくなっちまって……お前を遠ざけるしか出来なかった。もう、嫌なんだ……俺のせいで、これ以上大事な人を苦しめるのは…っ」
『うん…。大丈夫、分かってるよ。でも、轟くんのせいじゃないよ。轟くんは何も悪いことしてない。だから、これからは私も轟くんのそばにいさせて欲しい。嬉しいことも、悲しいことも……全部、一緒がいい。轟くんの隣で……ずっと一緒に』
「あぁ…っ!ずっと一緒だ」
力強く頷いてくれる轟くんに、私はようやく心から笑う事が出来た。
その後、私達はすぐに敵を轟くんの氷結で身動きが出来ないように固めた。それをエンデヴァーの元へ引き渡そうとした時、車道の真ん中でお兄さんを抱き締めるエンデヴァーの姿が視界に映る。
私達は2人の会話に耳を傾けながら、しばらくそれを静かに見守り続けていた……。
「夏雄、信じなくてもいい…!俺は
燈矢…?
その名前、聞き覚えがある……。
確か、一度轟くんの家に行った時にーーー、
記憶の中で、ある場面がフラッシュバックする。
部屋の片隅に置かれていた……重厚感溢れる仏壇。そこに飾られていた、まだあどけなさの残る幼い顔立ちをした男の子の写真。
おそらく轟くん達のお兄さんで、それもまだ轟くん達が小さい頃に亡くなっている。何故亡くなったのか、理由は分からないままだった。
けれど、エンデヴァーが殺したも同然って、一体どういう意味……?
「疎んでたわけじゃない…?だったらなに……?俺はずっと燈矢
お兄さんは目に涙を浮かべながら、軽蔑の眼差しをエンデヴァーに向ける。最初に出会った時もそうだった。
あの時も、お兄さんは最初からエンデヴァーを許してはいなかった。歩み寄ろうとしていた轟くんとは反対に、エンデヴァーが近付いて来ることをむしろ拒んでるみたいに……。
きっと、私では計り知れないものがあるんだ。
「……それでも」
エンデヴァーは顔を上げてお兄さんを真っ直ぐに見据える。
「それでも、顔を出してくれるのは、冬美と
「お前も優しいんだ」とハッキリ伝えるエンデヴァーの言葉に、お兄さんの表情が強張ると、その瞳から堪えきれなくなっていた涙がポロポロ零れ落ちていく。その涙を見て、こちらまで心苦しい気持ちにさせられる。
そっと隣にいる轟くんを見つめると、轟くんもまた切なげな瞳でじっとその様子を見つめていた。
轟くんは今、何を想って、何を考えているんだろう?
……知りたい。
もっと、轟くん達の深い部分に触れたい。
轟家の過去に、一体何が……。
「ーーー俺を、許さなくていい。許して欲しいんじゃない。償いたいんだ」
お兄さんに向けられたエンデヴァーの言葉は、とても誠意のある、真っ直ぐな気持ちで……でも、なんだかとても重いものが含まれているように感じた。
「あああああああ!!やめろォオオオオ!!エンデヴァァアア!!!」
突然、大人しかった敵が子供のように泣き
私も轟くんも驚いて敵を
「何だその姿はあああ!!やめてくれぇ、猛々しく傲慢な火!!
男の声が反響する中で、遠くの方でパトカーのサイレン音が聞こてきた。その音にようやく肩の荷が下りた気がした。私は嘆く敵を見つめながら少しだけ憐れみの視線を送る。
憧れている人は同じなのに……。
人それぞれ憧れる理由が違うのは分かっているけど、こんなにも歪んだ思想を生み出しちゃう事もあるんだ…。
ヒーロー活動って、難しいな……。