第22話
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それは、突然やってきた。
初詣を終えたあと、色々街中を巡り歩いていたら、辺りはすっかり日が落ちて暗くなっていた。そろそろ雄英に帰らなければと思い駅に向かう道中、何やら車道側から慌ただしく踏む急ブレーキ音や、クラクションを鳴らす耳障りな音が響き渡った。
『ーー!!、……なにっ⁉』
一瞬、事故か何かが起きたのかと思った。
しかし、行き交う人の波から「敵だーー!!」と言う叫び声が聞こえた瞬間、すぐにそれを否定する。
『ーー敵ッ⁉』
私は状況を把握するため、コチラに向かって逃げて来る人の波に逆らう形で駆け出して行く。
そのまま車道の方へ視線をやると、20m程先の車道の真ん中で、敵と思われる怪しい人影が街頭に照らされ佇んでいた。
その人物は囚人服のような恰好を身に
けれど、それよりも驚かされたのは、その人物の近くで浮遊している何か。それは包帯のような物でぐるぐる巻きにされ、モゾモゾと
それは、明らかに人の形をしていた。
『マズイ、人質を…ッ!』
一刻も早く助けないと!!
……いや、まずは冷静にならなきゃ。
落ち着いて行動して、日頃の救助訓練を活かすんだ!
まず、怪我人が増える前に、避難誘導をして被害を最小限に…!!
『誰か、すぐに警察に連絡して下さいッ!!危ないのでこれ以上は進まないで!速やかに安全な場所へ避難して下さいッ!!』
騒動に集まってくる野次馬に言いながら辺りを見回すと、近くに建設現場を発見した。そこには立入禁止の文字が書かれた、ハードルの様な形をしたバリケード看板が置かれていた。
"ごめんなさい!今だけお借りします!"
と心の中で謝りながらバリケード看板を拝借し、それを野次馬が並ぶ前に配置する。
取り合えず警察かヒーローが到着するまでの間に、被害を食い止めないと!
あとは、人質をどうするかーーー
『ーーーえっ…?』
もう一度人質の顔を確認した瞬間、思わずそう声が漏れた。さっきは焦っていたから、人質が誰なのかまでは気付かなかった。
ぐるぐる巻きにされた包帯から覗くその顔は、恐怖と苦痛に染まりながら、助けを求めるように私へと視線が注がれる。
なんで…⁉
どうして轟くんのーー……
「……助け、て……」
『ーーお兄さんッ!!』
ダメだ!プロに任せなきゃ!そう頭では分かっているのに、体は勝手に敵の方へ向かって行く。まるで頭と体が別々の意思を持っているみたいだ。
囚人服の男は、駆け寄って来る私を警戒するように一歩下がると、先が鋭く尖った包帯のような物をお兄さんの顔へと近付ける。
「おーっと……それ以上は俺に近寄るなよ。人質がどうなってもいいのか?」
『くッ…、お兄さんを離して!!』
「お兄さん……?なんだ、エンデヴァーの息子と知り合いか?だが、俺が用があるのはお前じゃない。エンデヴァー本人だ」
『エンデヴァーに…っ⁉』
男から発せられる予想外の名前に驚きを隠せない。
……という事は、お兄さんがエンデヴァーの息子だと分かった上で
『……あなたの目的はなに?
「身代金……?違うッ!!そんなくだらない物のためじゃないッ!!俺はーーー、」
急に
「俺はーーー…俺を終わらせに来たんだ」
『……どういう、意味……?』
「凡人には分からねーだろうよ。だが、俺の計画を
男が言ってる事はまるでちぐはぐで理解に苦しむけれど、どうやらエンデヴァーに対して歪んだ感情があるのは間違いなさそうだ。
『エンデヴァーに憧れる理由は否定しない。……私もそうだから』
私は臨戦態勢をとりながら男を睨みつける。
『だけど、そのためにお兄さんを道具として利用しようとしてるなら、私は全力であなたを止めるッ!!』
「……俺の計画の邪魔をする気か?」
男は静かにそう言い放つが、声色の中に激しい殺気が襲い掛かってくるのを感じた。
来る…ッ!
男から目を離さずに意識を集中させる。
『……?』
そのまま身構えていると、男は突然私に興味を失ったようにゆっくりと背中を向けた。予想外の行動に少し動揺していると、男は背を向けたままボソリと呟く。
「エンデヴァーが……来る」
『……えっ?』
呟いたと同時に車道に描かれていた白線がベリベリとまるでテープを引き剥がすように
白線を操る個性…⁉
どうやらずっと包帯だと思っていた物は、白線だったらしい。けれどその白線は私に向けてではなく、私達の目前から迫り来る一台の車に狙いを定めていた。
車のヘッドライトが暗闇に潜んでいた男の体を照らし出す。その光の眩しさに目を細めたのと同時に、車の急ブレーキ音が辺り一面に響き渡った。
「良い家に住んでるなーーー…エンデヴァー!!」
『ーーーッ⁉』
キュルキュルとタイヤが道路に
「彼を放せ!」
男と向き合う形でエンデヴァーは身構えると、男の後ろに佇んでいた私の存在に気が付いた様子で目を見張っていた。
「君は…っ⁉」
『私は大丈夫です!それよりもお兄さんを…ッ!』
私の言葉にハッとした表情を見せると、エンデヴァーはまた男に視線を戻した。エンデヴァーなら簡単に男を仕留められる。けれど人質と言う
男もそれが分かっている様子でこれ見よがしにお兄さんをエンデヴァーに見せつける。なんて
「俺を覚えているかエンデヴァー!!」
「…………7年前…!暴行犯で取り押さえた…!名は……」
「そう!そうだすごい、覚えているのか嬉しい!!そうだ俺だよーーー "エンディング" !」
まるで有名人に出会ってはしゃぐかのような口調で、男は嬉しそうに言い放つ。
そんな
「すまないエンデヴァー。でも分かってくれ。俺がひっくり返っても手に入れられないものをあんたは沢山持っていた……、憧れだったんだ!俺は何も守るものなんてない!」
男は突然語気を荒げると、先が
「この男を殺すから、頼むよエンデヴァー!今度は間違えないでくれ!!俺をーーー…殺してくれ」
『……何をっ…、』
この男は何を言ってるの?
エンデヴァーに自分を殺して欲しい……?
さっき言っていた自分を終わらせて欲しいって、こう言う意味だったの…?
まるで理解が出来ない。
憧れと言う想いが捻じ曲がり過ぎている。
どのみちそんな事、エンデヴァーがするはずない。
「ヒーローは余程の事でも殺しは選択しねェ!でもよ!あんた脳無を殺したろ⁉」
「!」
「俺もあの人形と同じさ!生きてんのか死んでんのか曖昧な人生!だから安心して!その
男が言い終わるより早く、背後の方でボォンッ!と何かが破裂するような爆発音が聞こえた。
『……なにっ⁉』
その音に驚きながらこの場にいた全員が音の鳴る方へ振り返る。そこには先程ドリフトした車の車体が白線で何重にも巻かれていたのが見えた。爆発音はその中に閉じ込められていた人物が無理やりこじ開けた物だったようで、中から飛び出して来た人物に私は更に驚愕する。
『爆豪くんっ⁉』
「ーーチッ…、話は後だッ!!」
そう言って爆豪くんは爆破で軽々と私の真上を飛び越え、敵の元へ直進して行く。
な、何で爆豪くんがエンデヴァーと同じ車に…⁉︎
「苗字さん!怪我はないッ⁉︎」
『緑谷くん…っ⁉︎』
考える暇もなく、後ろから呼びかけられる声に振り返れば、今度は緑谷くんも同じ車から飛び出して来る所だった。私は戸惑いつつも、大きく頷きながら、大丈夫だよ!と返事しようとした。
けれど、言いかけた言葉を思わず飲み込む。
なぜなら、目の前の視界に映る人物が、ずっと会いたくて会えなかった人だったから……。
『……轟、くん…っ』
「ーー…っ、」
轟くんは驚いた表情を見せ何かを言いかけるけど、すぐに唇を噛み締め、眉間にしわを寄せる。そして私から視線を逸らすと、すぐにお兄さんがいる方へ顔を向けた。
姿勢を低くして臨戦態勢を取ると、そのまま足元を凍らせて、地面を氷で滑走しながら私の横を通り過ぎて行く瞬間ーー、
「下がってろ…!」
そう私に言い残して、お兄さんの元へ向かって行った。
「かっちゃん!ショートくん!」
緑谷くんがトランクからスーツケースのような物を取り出して爆豪くんと轟くんに放り投げると、2人はそれを受け取り、それぞれ簡易的なコスチュームの装備を身に着ける。
緑谷くんはちらりと私を
「苗字さんは民間人の避難誘導をお願いッ!!」
『ーー!、…分かった!』
私はハッとしてすぐに頷くと、騒動に集まって来た民間人の元へ急いで向かった。
そうだ…。今は私情を持ち込むな!
人質がいる以上、敵の撃退と人命救助が最優先。
ここは戦闘力の高い3人に任せて、私は自分のやるべき事を……!!