第22話
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「ーーーやっぱり…、そうだったんだな」
『心操くんッ…⁉ なっ……なん、で…?』
「お前に、聞きたい事があったからだよ」
激しく動揺する私とは正反対に、心操くんは落ち着いた様子で言い放つ。まるで最初から私がここにいるのを知っていたかのようなその態度に、私はますます困惑する。
『どういう事……?聞きたい事って……そもそも、なんで心操くんはここにいるの?』
「昨日、お前が保健室に行った後、気になって様子を見に行ったんだ。それで……リカバリガールとお前が話してた内容を聞いた」
『えっ、聞いたって……な、なにを…っ』
思わず声が
そんな事、本当は聞きたくなんかないのに……知りたくはないのに。
考えるよりも先に言葉が出てしまった。
心操くんは私をまっすぐ見据えると、重々しく口を開いた。
「ーーーお前の "個性" の話だよ」
ドクンッ…と、心臓が大きく飛び跳ねる。
どうしよう。
最悪だ。
私の秘密が……知られてしまった。
よりによって、心操くんに……!
いや、落ち着け……。
まだ詳しくは知らないはずだ。
動揺するな…っ!
『何のこと…?話がよく分からないよ』
「……誤魔化すつもりか?」
ヘラリと笑う私を見て、心操くんの表情が険しくなったのが分かった。けれど私は構わずに首を傾げる。
『もしかして、聞き間違いじゃないかな?訓練に励みすぎてミスしたら命取りになるって話してたのが、なんか別の意味に聞こえちゃったとか!だからーー』
「とぼけるな。アイツは騙せても、俺にそれが通用すると思うなよ」
『ーー…っ、』
心操くんの鋭い眼光が私を射る。
嫌だ。その目をやめて。
いつもそうだ。
私が必死に取り繕った仮面を、心操くんは簡単に引き剝がしていく。心操くんの前では、いつも情けない自分を見せてばかりだ。
こんな弱くて情けない姿、見せたくないのに……。
「お前が保健室を出て行った後、リカバリーガールに苗字の個性の事を問い詰めたんだ」
『!!』
「……マズイ、って顔してたよ。リカバリーガールもまさか俺に聞かれてるとは思ってなかったんだろうな。……けど、何度聞いても答えてくれなかった。 "これ以上は私からじゃなく、あの子から直接聞きな" ってさ。ーー…だから俺は、今ここにいるんだ」
『……っ、…』
私はギュッと唇を嚙み締めながら黙ってうつむく。
重々しい空気が漂う中、心操くんは自分の足元にすり寄る母猫に視線を落とすと、軽く
「……さっき、コイツに言ってたろ。"あの時、助けられて本当に良かった" って……。それで思い出したんだよ。前にコイツの体に大怪我を負った痕が残ってたのに、その傷口は何故か見当たらなかった。ずっと不自然だと思ってた」
そこで区切ると、心操くんはまた私に視線を向ける。
その瞳には、大きな確信を宿していた。
「助けたの、苗字なんだろ?その個性を使って、何か特別な力を使った。だからあの時のお前はボロボロになってた……それが、お前の命に関わる事に繋がってるんじゃないのか…っ!」
心操くんの声が、少し震えているように聞こえた。
それが怒っているからなのか、悲しんでいるからなのかは分からない。
どっちにしろ、これ以上はもうーー…。
「苗字、正直に全部話してくれ。頼むから…っ、」
『ーーー…』
張り詰めていた糸がプツンッ、と千切れる感覚がした。押し殺していた息を解放するように、私はフゥーっと長く息を吐く。それと同時に少しだけ体が軽くなったような気がした。
『……本っ当……、心操くんには、嘘……つけないね』
「………」
心操くんは何も言わずに、ただじっと私の言葉を待っている。
『……そうだよ。母猫は私が助けた。心操くんとここで会った次の日、私も猫たちの様子を見に来たの。それでーー…母猫が車に轢かれて死んでいたのを見つけた』
「…!?」
私の言葉に、心操くんは酷く動揺した様子で目を見開いていた。そりゃそうだ。だって母猫は今、目の前にいるんだから。
『……私の個性はね、死んだ者を蘇らせる事が出来るの。でも、その力にはそれ相応のリスクを伴う。大きな力を使えば使うほど、私の命は危険にさらされる』
「……なんで、そんな大事なことを今まで黙ってたんだ……」
『こんな風にみんなを困らせるからだよ。不安になるでしょ?この人に本当に助けを求めていいのかって……自分よりも私を心配するでしょ?』
「だからって、もしそれで何かあったらどうするんだっ⁉ 今回の事だって、下手すれば本当に死んでたのかもしれないんだろ…っ⁉」
『だって!見たくなかったからッ!!泣いてる子猫も…!それを見て悲しむ心操くんの顔も…っ!……全部っ、……見たく……なかったから……』
「ーーー苗字……」
心操くんはなんと言えばいいのか分からない様子で、ただ私を見つめる。
さっきまで心操くんの足元にいた母猫は、私たちの怒声に驚いたのか、いつのまにか姿を消していた。
あぁ…、悪いことしたな。
怒鳴るつもりなかったのに……。
「何で、そこまでして……っ」
声を絞り出すように、苦し気な表情で心操くんは
そうだった……。
心操くんは私の過去を知らない。
『……私の両親は、火事で亡くなった訳じゃない。……本当は、殺人犯から私を守るために亡くなったの』
「ーー!!」
『でも、その時の私はまだ幼くて……この力の使い方を知らなかった。瀕死だった両親の助け方も分からなかった……だからっ、……2人を見殺しにしてしまった…っ!』
目頭が熱くなり、視界がぼやける。
それでもこみ上げる涙をぐっとこらえ、声を詰まらせながら続けた。
『だから私はっ…、もう取りこぼしたくないの!誰かを助けられるなら、多少のリスクだって
「……それは、助けられなかった罪滅ぼしのために力を使ってるってことか?」
『ーー…っ!』
その言い方は、まるで私の自己満足だろと言われてるように聞こえて、思わず怒りが込み上げる。
『心操くんには分かんないよッ!!大切な人を失う気持ちが…ッ!理屈じゃない…、自分のことよりも、今あるこの命を救いたいって思う事が、そんなにいけない事なのッ⁉』
「そうじゃないッ!!俺はーー…!」
珍しく声を荒げながら言葉を詰まらせる心操くんに、私は黙って見つめ返す。
感情が高ぶったせいで、涙がにじむ。
その揺れる視界の中で、ゆっくりこちらに近付いて来る心操くんの人影が瞳に映る。
その顔は、にじむ視界のせいでよく見えなかったけど、何故か……泣いてるように見えた。
「苗字……俺はっ、……」
『……心操、くーー』
最後まで言い終える前に強引に体を引き寄せられると、そのままキツく抱き締められた。
「俺はっ…!苗字に、生きていて欲しいんだよ…っ!」
切なげな声が耳元で響く。
その言葉に、堪えようとしていた涙が頬を伝った。
「苗字が大切だから…、傷付いて欲しくないから…っ、……だから、自分の命の方が軽いものみたいに言わないでくれ…」
『…っ、…心操…くん…っ』
「ただ、生きてくれてるだけでいい……それ以上は、俺は何も望まない」
優しく響く心操くんの声に、
ただ、ひたすらに、私は心操くんの胸の中で、子供のように声を上げながら、泣いた……。