第21話
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寮を抜けると、寮までの道を照らす外灯の下にーー…轟くんの姿があった。
瞬間、今まで以上に鼓動が高鳴る。
轟くんの姿を直接見るのは、合同訓練の時以来だ。
たった何週間会えなかった日々が、ひどく長く感じた。
『ーー轟くんっ…!』
溢れ出る気持ちが抑えきれず、駆け寄りながら思わず笑みがこぼれ落ちる。
けれど、轟くんはそんな私とは対照的に、冷静な眼差しで真っすぐに私を見つめながら、その場に立ち尽くしていた。
『ごめんね、急に呼び出しちゃって…!』
「……いや、俺の方こそ悪ィ」
久しぶりに聞く轟くんの声は、少し元気がなさそうに聞こえた。
……きっと、仮免補講で多忙だったから疲れてるのかもしれない。
無理に呼び出して申し訳ないなと思いつつも、久しぶりに轟くんと直接会えた事が嬉しくてたまらなかった。
『何か、変に緊張しちゃうね…!』
「……そうだな」
『あっ…!』
「…?」
『轟くん、仮免取得おめでとうっ!』
「!」
轟くんから直接教えてもらった訳じゃないけど、偶然テレビのニュースを観ていたら、轟くんと爆豪くんが仮免取得から
知った瞬間、自分の事のようにとても嬉しかった。
「…知ってたのか」
『うん!たまたまニュース観てたら轟くん達が報道されててビックリしたよ。やっぱり2人とも凄いね!私も早く轟くんに達と一緒にヒーロー活動出来るように頑張るね!』
「………」
何故か轟くんから返事は返って来なかった。
不思議に思って顔色を伺うと、その表情はどこか冷たい
なにか重たい空気が体に
先程まで浮かれていた気持ちが、徐々に現実へと引き戻される。私はその沈黙が怖くて、必死にごまかそうと言葉を続けた。
『それでね、今日呼び出したのは轟くんに大切な話があってーー』
「なぁ、名前」
『えっ…?』
轟くんは私の言葉を遮るように言葉を被せてくる。
その声がやけに冷たく響いて聞こえた。
私は動揺しながら轟くんに視線を向ける。
「……悪ィが、先に俺から話させてくれ」
『…あ、うん…。ごめんね…?』
嫌だ。
やめて。
聞きたくない。
言葉とは裏腹に、私の心の中では警報が鳴り響く。
だって、きっとその言葉の続きは……私が求めている物じゃない。
直感でそう思った。何故か私の悪い予感はよく当たるのだ。
轟くんはそんな私の心情を知ってか知らずか、苦しそうに声を漏らす。
「ーー…今日限り、俺に近付くのはやめてくれ」
心臓が、凍てついたように冷たくなって行くのを感じた。呼吸も止まって、うまく息が出来ない。
『……っ、んで…』
圧迫される胸に苦しくなり、ようやく出せた一言は、自分でも何と言ったのかよく分からない。必死に状況を整理しようとしても、混乱する頭でうまく思考がまとまらない。
『……な、んで…?急に…そんな、こと…』
それでも何とか喉から絞り出した言葉は
「……急に聞こえるよな。けど、俺はお前と会わない間、ずっと考えてた………お前をこの手で傷つけちまった時から、ずっと…!」
轟くんは苦しそうな表情で自身の左手を見つめ、その手をギュッと固く握り締めた。まるで憎しみを込めたように、その手を震わせながら…。
ーーーその時、脳裏に骨抜くんの言葉がよみがえる。
「最初は俺もただ苗字さんを心配してるだけかと思ってたんだけど、苗字さんが轟たちの近くで倒れてた事を言ったら急に顔色が変わってさ……。"名前は火がーー" …って、言ってたんだけど……意味、分かる?」
そうだ…!
やっぱり轟くんはあの時、自分の炎せいで私を傷つけてしまったと思ってる!
『違うよ、轟くん!あれは轟くんのせいじゃないよッ!私が自分の意志であの場に留まったの!轟くんは何も悪くない!』
私は必死に訴えかけるけど、まるで何も聞こえていないかのように轟くんの表情は
「……けど、お前が俺の炎で火傷を負った事実は変わらねぇ。お前にとって、一番トラウマになってる物で……俺はまたお前を傷つけちまったんだ……この力のせいで…っ」
『…それは…っ、だって、仕方ないよ!あの時は、みんなが勝つために必死で、自分の限界を乗り越えようとしてた……。だから私も、自分のトラウマを乗り越えてでも、目の前にいるみんなを助けたかったの…!』
「だとしても、今後俺と一緒にいる事で、また力を使った時にお前に余計な恐怖心を与えちまうかもしれねぇ。ようやく自分でもこの力を受け入れたってのに……このままだと俺はまた、この手に呪いをかけちまいそうなんだ…!」
『……轟、くんっ……』
私のせいだ……。
私がいるから、轟くんがなろうとしてるヒーロー像の邪魔をしてしまう……。
でもっ…、嫌だよ。
頭では理解してても、心が追い付かない。
このまま轟くんと離れるなんて……出来ない。
自分でもわがままを言ってるのは分かってる。
轟くんの苦しむ姿は見たくない。
けど、ここで受け入れてしまったら……もう二度と轟くんのそばにいられなくなる。
そんなの、耐えられないよ!
私はこんなにも、あなたの事が大好きなのにーー……
「……突然の事で悪いとは思ってる。けど、耐えられねぇんだ……またお前を傷つけちまうじゃねぇかって…!」
『……そんな、私は…!』
「言いたかった事は今ので全部だ。じゃあな……」
『ーーあっ…待って!』
私の言葉は聞かずに立ち去ろうとする轟くんの背中に向かって腕を伸ばす。
行かないで!
私はまだ、あなたに何も伝えられていないっ!
大好きだって事も、ずっとそばに居たいって事も、まだ何も…っ!
私の手が、轟くんの左腕を掴む。
その瞬間ーー、
「ーー触るなッ!!」
『……ッ!!』
怒声と共に思い切り腕を振り払われる。
その勢いで、胸に抱えていたプレゼントが宙を舞ってバサリ、と虚しく音を立てながら地面に落ちた。
『……ぁ…』
声にならない声が出た。
私は呆然と地面に落ちたそれを見つめたまま動けずに立ち尽くす。バラバラと、何かが私の中で崩れる音が聞こえた気がした。
目の前が、真っ暗だ……。
「……頼む、もう俺に……近付かないでくれ」
息を詰まらせながら、苦しそうに声を漏らす轟くんの言葉を否定したいのに、声が出ない。
きっと何を言っても、その場限りの陳腐な言葉に聞こえてしまいそうでーー……怖くて何も言えずに俯いていた。
視界に映る轟くんの足が、踵を返して私の視界から消えて行く。
『……っあ、……』
引き止めたいのに、声が出ない。
喉が焼けたように熱くなって、声がくぐもってしまう。
行かないで、轟くん…!
私の悲痛な想いも虚しく、伸ばした腕の先にいる轟くんはこちらを振り返る事もなく、私たちの距離はどんどん遠くなって行き……やがて目の前から姿を消した。
『……轟、くん……』
いない。
もう、いないんだ。
私の前に轟くんが姿を現すことは、もう二度とーー…
『……っう、…なん、で……』
どうして…?
何でこんな事になってしまったの…?
私は、何を間違えた…?
数分前の私は、まさかこんな事になるなんて想像もしていなかった。
轟くんはずっと私を好きでいてくれて、私も轟くんをまた好きになれて……だから、きっと幸せな気持ちでこの日を過ごせると思っていた。
初めて思いが通じ合う、忘れられない時別な日になるって……そう、信じていたのにーー。
1つのきっかけで、全てが崩れてしまった。
こんなにも……あっけなく終わってしまうの?
ねぇ…?
こんな終わり方、嫌だよ轟くん…ッ!!