第21話
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ーーー12月初旬、日曜日の朝。
季節は本格的な冬を迎え、この日は朝から雪が降っていた。
空から羽毛のようにふわりふわりと落ちてくる雪を仰ぎ見ながら、私は目的地へと足取り軽く歩を進める。
なにせ私が今いる場所は雄英ではなく、少し離れた場所の街中にある雑貨屋に向かっているのだ。
この日のために前日から先生に外出許可書ももらった。あとはお目当ての物を買うだけだ……そう、クリスマスプレゼントを!
『着いた、ここだ…!』
前から気になっていた雑貨屋さんにようやく来れた喜びと、外観から伝わるクリスマス仕様の可愛い飾りに期待に胸を膨らませながら店内へと足を踏み入れる。
『わぁ、可愛い…!』
いい香りに包まれた店内は、目を奪われるような可愛くてオシャレな商品がたくさん棚に飾られていた。色んな物に目移りしながら、どれにしようか一つ一つじっくり
こう言う可愛い雑貨屋さんって、見てるだけでもテンション上がるんだよね!
自分用にもなにか一つ欲しくなっちゃう…。
でも、今日はクリスマスパーティー用に買いに来たんだし、我慢我慢…!
そう。
今回は自分用ではなく、クラスで行うクリスマスパーティー用のプレゼントを選びに来たのだ。
散々迷ったあげく、最終的にシンプルなデザインの触り心地の良いブランケットを購入した。実用性あるし、これなら貰った人もきっと喜んでくれるだろう。
プレゼントの用意も出来た所で、ふと視線を店内へと巡らせると、私と同い年くらいの高校生であろう女子2人組がいるのに気付いた。
なんとなく気になって様子を見ていると、1人の女子がネックレスを手に持ちながらもう1人の女子にそれを見せ、何やら楽しそうに会話している声が聞こえてきた。
「コレ見て、可愛くない?しかもペアなんだって!」
「いいじゃん!こーいうペア出来るアクセとか欲しいよね~。彼氏に頼んでみれば?」
「ううん、これはクリスマスプレゼントで私からあげたい。いつも色々してもらってるから、日頃の感謝も込めてさ」
「うわぁ~…ノロケですか。羨ましぃ~。末永くお幸せにっ!」
「ちょ、ノロケてないから~!」
楽しそうに盛り上がりながら、女子高生達はそのままネックレスを手にレジへと向かって行った。
『……彼氏にプレゼント…か…』
私はその一部始終をぼうっと見つめたまま小さく呟く。
ふと、頭の片隅に轟くんの顔が思い浮かんだ。
ーー轟くんも、私がプレゼントあげたら喜んでくれるのかな…?
"特別な事は特別な日にした方が、ずっと素敵な思い出になるんだ!"
数日前に言われた通形先輩の言葉が頭の中で響く。
『……忘れられない、特別な日に……』
……そうだよ。
クリスマスは、私にとって特別な日になる。
それにせっかくのクリスマスなんだから、プレゼントがなきゃ意味ないじゃんか!
轟くんにプレゼントを渡したい…!
轟くんの喜ぶ顔が見たいよ…!
私はもう一度店内をくまなく見渡した。
そして轟くんが喜びそうな物を考えながら、めぼしい物を手に取っては、これじゃないとまた戻して行く。
そんな単調な動きを何度も繰り返す。
気分はまるでライン工場で働く検品作業の人のようだ。
どうしよう…!
轟くんの喜びそうな物って蕎麦しか思い浮かばないッ!
けれどさすがにクリスマスプレゼントに蕎麦はムードも何もあった物じゃない。いや…、轟くんの事だからきっと気にせず蕎麦で喜んでくれるだろうけど…!
ふと、手に取った物を戻そうとした手を止める。
そしてもう一度それをよく確かめてみた。
それは、雪のように真っ白な生地で出来た肌触りの良いマフラーだった。
『…このマフラー、轟くんに似合いそう…』
黒とか紺とか男の子っぽい色合いも良いけど、轟くんスタイルも良いし肌も白くて綺麗だから、白がすごく映える気がする……まぁ、轟くん顔が整ってるから何身に着けても結局似合うんだけどね!
いっそ私も同じの買ってペアルックにしちゃうのもアリかな……?
ふと、店内にあるスタンドミラーに映る自分と目が合った。
その姿はマフラーを手にしてニヤニヤとほくそ笑む自分の姿がハッキリ映し出されており、慌てて表情を無に戻す。
『……って、浮かれ過ぎだな私……』
まだ私は轟くんに何も伝えてないし、ましてや付き合ってもいない。
ちょっと気持ちが先走り過ぎている。
浮かれていいのは、全てを伝えて轟くんの返事をもらった後だ。
その時に盛大に喜べばいい。
ーーーあぁ…、早く轟くんに会いたいな。
可愛くラッピングされた包装紙を大事に握りしめながら、店内を後にする。
外は変わらず雪が降り続いていた。
空を仰ぐと、ふわりと落ちてくる雪が頬に当たる。
冷たいはずなのに、何故か柔らかい感触に心地良さを感じた。
早くクリスマスが来ないかな……。
喜ぶ轟くんの姿を想像して、堪らずまた頬が緩む。
……あぁ、ダメだ。
今の私の頭の中は、幸せな想像でいっぱいだ。
この気持ちを抑える事なんて出来ない。
だって、こんなにも轟くんを恋しく想う。
前までの私は、こんなに感情が溢れ出るくらい恋焦がれていただろうか?
人を好きになるって……こういう感情だったんだ……。
初めて自覚できた好きと言う気持ち。
そして、好きになれた人が轟くんで本当に良かったと思う。
この気持ちをずっと大事にしたい。失いたくない。
胸いっぱいに広がる想いに、自然と体の熱も上昇してる気がした。
私はあたたかい気持ちに包まれながら、足取り軽く帰路へと歩を進める。
その日が訪れるのを待ち焦がれながらーー…。