第21話
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しばらくして緑谷くんと物間くんは自分の寮へと戻り、先生も用事があると言って出て行ってしまった。
通形先輩はもう少しエリちゃんと一緒にいると言うので、まだ帰る気分じゃなかった私は先輩と一緒にエリちゃんと楽しく過ごさせてもらっていた。
『わぁ…!エリちゃん折り紙上手だね~。これ全部1人で作ったの?』
「ルミリオンさん達と一緒に…。今はこれを練習してるけど、難しくて……」
「どれどれ?」
エリちゃんは折り紙の見本を私と通形先輩におずおずと見せてくれた。そこに描かれていたのは赤い折り紙で折られた可愛いらしいサンタクロースの姿だった。
『わぁ…可愛いっ』
「サンタさんかぁ…。そう言えばもうすぐクリスマスだもんね!」
「くす…リマス?」
エリちゃんは初めて聞いた言葉だったのか、言いながら不思議そうに小首を傾げる。そんな仕草や言い間違えも相まって可愛さ倍増だった。
私達は微笑ましく思いながら、エリちゃんに優しく説明する。
『クリスマスだよ、ク・リ・ス・マ・ス!イエス・キリストをお祝いする日でーー…って言っても分かりにくいかな……。うーん……分かりやすく言うと、とてもおめでたい日で、色んなご馳走が食べれるんだよ!』
「そう!それで、いい子にしてる子どもにはサンタさんがプレゼントをくれる特別な日で、とってもワクワクさんな1日なんだよ!」
「ご馳走……プレゼント……ワクワクさん…っ!」
エリちゃんの瞳が
取り合えずはクリスマスがとても楽しいモノだと言うイメージは伝わったようだ。
でもそっか、もうすぐクリスマスなんだなぁ…。
雄英にいると、ヒーローになる事ばかりを考えちゃうから、こう言う季節のイベント事をすっかり忘れてしまいがちだ。特に最近はバタバタしてたしね。昨日も合同訓練が終わったばっかでーー…
ふと、頭の片隅に昨日の出来事がよみがえる。
あの後みんなとの合同訓練が終わって、私はすぐに気がかりだった轟くんの事を聞きに骨抜くんの所へと向かった。そして様子がおかしかった事を簡単に説明したのだったーーー。
「ーー…えっ?轟のヤツ、何も言わなかったの?」
『うん…。その時は普通に話しかけちゃったんだけど、何だかすごく辛そうな顔してて……。骨抜くん、保健室で何か言いかけてたよね?お願い。知ってる事があれば教えて欲しいの』
「うーん…。いや、俺もホントに詳しくは分からないんだけどさ、保健室で苗字さんが眠ってた時、アイツ苗字さんの姿を見てすっげー動揺してたんだよね」
『……動揺?どうして?』
「最初は俺もただ苗字さんを心配してるだけかと思ってたんだけど、苗字さんが轟たちの近くで倒れてた事を言ったら急に顔色が変わってさ……。"名前は火がーー" …って、言ってたんだけど……意味、分かる?」
『ーー…っ、…』
その言葉の意味は、私が1番よく理解している。
火と言うイメージは、幼い私に強烈な恐怖心と共に、一生消える事のない深い傷を刻み込んだ。
夏合宿で荼毘の炎に襲われた時も、あの日の記憶がフラシュバックして、それに心が耐えきれなくなって気絶してしまった事もある。
火はそれ程までに私の中で大きなトラウマとなって今も根深く絡みついている。轟くんも私が火事に巻き込まれた事は知っているから、火が苦手な事も当然理解しているはず。
ーー…まさか。
そこまで考えて何故轟くんが私を避けていたのか、その真意が見えた気がした。
いや、きっとそうに違いない。
轟くんは、自分の炎のせいで私を傷つけてしまったと思っているーー……
「……どうやら、その顔は思い当たる節があるってカンジだね」
よほど思い詰めた顔をしていたのだろうか。私の反応を見ていた骨抜くんが確信したようにそう呟く。
『あ…、その…っ、私ーーー』
「いいよ、無理に答えなくて。別に詳しく聞くつもりはなかったし」
言葉に詰まる私を見て察してくれたのか、骨抜くんはそれ以上深入りせずに話を切り上げてくれる。
気を遣ってくれる骨抜くんの優しさが今はありがたくて、私は素直に『……ごめん』とだけ言って、それ以上は何も答えなかった。
こんな重たい話、聞かされた方もきっと困らせてしまうから……。
「そんな悲しい顔しないでよ」
『えっ…?』
「俺、苗字さんは笑った顔が一番可愛いと思うよ?」
『……かっ、かわ…ッ、⁉』
急に突拍子もない事を言う骨抜くんに私は目を丸くする。
そんな私の反応に骨抜くんは何故か満足そうに目をすぼめた。
「ウン、照れた顔もいいね」
『ちょっ、骨抜くん⁉ いきなり何を…っ!』
恥ずかし気もなく涼しい顔で言ってのける骨抜くんに、私は顔が真っ赤になる。きっと私が過剰に反応するからからかわれているのだと思い言い返そうとすると、急に真剣な眼差しでコチラを見る骨抜くんによりそれはあっさり阻止された。
「俺さ、君の事けっこう気に入ってる。だからそんな風に落ち込んで欲しくないんだよね」
『…!』
「詳しい事情は今は分かんないけど……でも、苗字さんなら絶対に大丈夫だと思うよ?」
『えっ…?』
驚く私に向かって、骨抜くんはハッキリとした口調で言い放つ。
「だって君は逃げないから。どんなに苦しい状況に置かれても、どれだけ自分が傷付いても、君は必ず乗り越えて行こうとする。……そうでしょ?」
『ーー!』
「君は優しくて、勇敢で、責任能力の高い人だ。周りの状況をよく見て、今なにをすべきかちゃんと見えてるし、行動も出来る。だからこの状況もきっといい方向に向かってくはずだよ。気に病む事ないって!」
『……骨抜くん…』
優しくてあたたかい言葉に、胸がじんわりとあたたかくなる。さっきまで胸の奥にあった鉛のような沈んだ気持ちも、不思議と軽くなっていた。
何だかずっと骨抜くんには助けてもらってばかりだ。こんな風に自分のことを励ましてもらえるなんて……私はなんて恵まれているんだろう。本当に感謝しかない。
「だからさ、元気出してよ。俺も苗字さんが笑っていられる未来になって欲しいって思ってるから。……次会う時は、ちゃんと笑っててよ?」
『うん…、ありがとう。……優しいんだね』
「まぁーね?俺って、友達思いだからさっ」
どこか余裕たっぷりに答える骨抜くんの言葉が、今は酷くありがたくて、弱っていた私の心を優しく包み込んでくれたーー……。