第21話
お名前は?
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ヒーロー科との合同戦闘訓練が終わった翌日。
私は夢だったヒーロー科編入が決定した事を報告しに、通形先輩の元へと向かっていた。
先輩の特訓のおかげで助けられた場面もあったし、本当に先輩には色々お世話になった。特訓前から私のことずっと応援してもらっていたし、きっと今回の事は先輩も喜んでくれるに違いない。
『……確か、いつもエリちゃんがいる教員寮にいるって言ってたよね?』
エリちゃんはいま雄英で保護されている。
普通なら家族の元に帰されるのだろうけど、どうやら複雑な家庭環境らしい。
だからエリちゃんが不安にならないよう休学中の通形先輩が主に面倒を見てあげてるのだそうだ。
エリちゃんに会えるのも文化祭の時以来だなぁ…。
元気にしてるかな?
久しぶりにエリちゃんと再会できる事に少しワクワクしながら教員寮の前へとやって来る。
敷地内に足を踏み入れた瞬間、前方から何やら騒ぐ声が聞こえ思わず足を止めた。誰だろうと姿を確認すると、そこに居たのは意外な人達だった。
「アハハハ!何言ってんのかなこの子ォ⁉ 何言ってんのこの子ォ⁉」
「文化祭の時、君のこと "雄英の負の面" と教えたんだ」
「僕こそ
「あの…一体何が始まるのでしょうか」
『緑谷くんと…物間くんっ⁉』
意外な組み合わせに驚いて思わず声が漏れる。
それに気付いたみんなもビックリした様子で私に視線を向ける中、通形先輩だけが嬉しそうに私に手を振ってくれていた。
「やぁ、名前ちゃん!君もイレイザーに呼ばれたのかい?」
『い、いえ!違います!……って、君もって事は、もしかしてみんな相澤先生に呼び出されたの?』
「うん。僕達は昨日エリちゃんの事で相澤先生に頼まれて。何をするのかはまだ詳しくは知らないんだけど」
「君こそ何故ここへ?」
『わ、私は通形先輩にヒーロー科編入した事の報告とお礼を言いに来て……』
「おぉっ!編入決まったんだ⁉ やったじゃないか!おめでとうっ!」
『あ、はいっ…!本当に先輩のおかげです!ありがとうございましたっ!』
「……?、なぜ君が先輩にお礼を言うんだい?」
「苗字さんって結構前から通形先輩と繋がりあったよね…?」
私が通形先輩と親し気にしてる様子が気になったのか、2人とも
そんな2人に私は出会いから特訓に至るまでの経緯を簡単に説明した。話を聞き終わると2人はようやく腑に落ちたのか、納得した様子で頷いていた。
「ーーなるほど。それで先輩から特訓してもらってたんだね」
「雄英のビッグ3と言われる人から直々に指導を受けれるなんて……やっぱり君には惹きつける何かがあるのかなァ?いいね…!ぜひB組に欲しい人材だよ」
「僕も苗字さんにA組に来てもらえたら嬉しいな。きっとみんなもすごく喜ぶと思う!」
『ありがとう。私もどっちになるのか今からすごく楽しみだよ!』
「アハハハ!謙遜することないよ苗字さん!」
『へっ…?』
唐突な事を言い出す物間くんに思わず間抜けな声が出てしまった。
そのまま半開きになった口で物間くんを凝視していると、何故か物間くんは自信たっぷり気に答える。
「大丈夫、僕は分かってるよ?本心ではB組が良いと願ってる事くらい。トラブルメーカーなA組なんかより、規律を守るB組なら、安心してヒーロー育成に励めるからね」
『えぇっ⁉ いや、私はどっちでも嬉しーー』
「そ、そんな事ないよ!A組だって頑張ってるよ?みんな優しくて強い人ばかりで、僕もたくさん助けられてきたんだ…!」
「何を言うんだい!B組だってーー」
あぁ…。始まってしまった。
地雷踏んじゃったかな、私……。
でも、根底にあるのは、お互い自分のクラスが大好きだって事なんだろうな。
うん、そう思ったらなんか微笑ましく見えてきた。
2人の言い合いを生暖かい目で見守っていると、私の服の裾をチョンチョンと遠慮気味に引っ張られてる感覚に気付き、視線を落とす。
そこにいたのは、少し恥ずかしそうに私の服の裾を摘まむエリちゃんが、大きな瞳で私を見上げていた。
「名前さん……おめでとう」
それは、私がヒーロー科編入した事に対しての言葉だった。それが嬉しくて、私はエリちゃんの目線に合うようにしゃがみ込むと、頭を優しく撫でてあげた。
『ありがとうエリちゃん!それに、私の名前初めて呼んでくれたね?覚えててくれてありがとうっ!』
「ルミリオンさんから…ずっとお話、聞いてたから」
『……え?』
ルミリオンさんって人が一瞬誰のことか分からなかったけど、そばにいた先輩が笑って「俺のヒーロー名ね!」と説明してくれた。
「文化祭の時から君の事気になってたみたいでね。エリちゃんに君について色々話してあげてたんだ。ヒーローになりたくて頑張ってる子がいるんだって」
『そうだったんですか…!』
文化祭の時に少し会って話しただけなのに、私の事を気にかけてくれてたなんて…!
喉奥に込み上げる熱い思いを噛みしめ、私はもう一度エリちゃんに向き直ると、ニコリと笑った。
『本当にありがとうエリちゃん!私もエリちゃんの事いっぱい知りたいな!これからも仲良くしてね?』
「うん…っ!」
あぁ、もうっ…!
なんだこの可愛い生命体はーー!!
この世の物とは思えない可愛いさに、衝動的に抱き締めたくなるのを必死に堪えていると、低く抑揚のない声が背後から聞こえてきた。
「おう緑谷、通形。悪いな呼びつけて」
顔を向けると、そこにはポケットに手を突っ込みながら、いつものように気怠そうにコチラへ向かって来る相澤先生が居た。
「物間に頼みたい事があったんだが、
「僕を何だと思ってるんですかぁ、アハハハハ!」
そこでようやく私がいる事に気付いたのか、少しビックリしたように目を見開く先生と目が合う。
「苗字…?何でお前もここにいるんだ」
『わ、私は通形先輩に用事があって……でももう済みました!あのっ…、私、お邪魔みたいなのですぐ立ち去りますね!』
なんだか気まずい空気を感じて、すぐにこの場を去ろうと立ち上がる私に向かって、相澤先生は意外な言葉を口にする。
「別に構わん。お前にも関わってもらってた事だからな。このまま一緒に来てくれ」
『えっ…?』
……と言う事で、何故か私も緑谷くん達と一緒に同行する事になったのだ。
ーーー✴︎✴︎✴︎
「うーん…… "スカ" ですね。残念ながらご期待には添えられません、イレイザー」
「…そうか。残念だ」
相澤先生に言われるがままエリちゃんの個性を "コピー" した物間くんは、自分の額に生えたエリちゃんと同じ角を触りながら申し訳なさそうに振り返ると、相澤先生は少し落胆した様子でそう呟いた。
「エリちゃんの個性をコピー…⁉ 一体何を?」
「それに物間くん "スカ" って…」
『物間くんの個性って、全てをコピー出来るわけじゃないの?』
じっとその様子を眺めていた私達はそれぞれバラバラに質問する。それに応えるように、物間くんは「僕の個性には弱点があってね…」と言って、緑谷くんに視線を向けた。
「君と同じタイプって事。君も溜め込む系の個性なんだろ?苗字さんが言った通り、僕の個性は性質そのものはコピーできるけど、何かしらを蓄積してエネルギーに変えるような個性だった場合、その蓄積まではコピー出来ないんだよ。たまにいるんだよね。僕が君をコピーしたのに力が出せなかったのは、そういう理屈」
言われてからふと、合同訓練で見た2人の様子を思い出す。確かに緑谷くんと物間くんが対峙した時、物間くんが緑谷くんの個性を使おうとしていた瞬間があった。
だけど、結局出さずに麗日さんに取り押さえられていた。あの時はただのハッタリだと思っていたけど、どうやら発動出来なかっただけらしい。
「何でコピーを?」
通形先輩が眉をひそめながら相澤先生に尋ねると、先生はポリポリと頭を掻きながら答える。
「エリちゃんが再び個性を発動させられるようになったとしても、使い方が分からない以上、また "ああなる" かもしれない。だから、物間がコピーして使い方を直に教えられたら、彼女も楽かと思ってな。そう上手くはいかないか」
『…?』
ああなる……?
個性を発動するのに、何かマズイ事でもあるのかな?
気になって詳しく聞こうかと思ったけど、ふと見たエリちゃんの表情がすごく悲しそうで……私は思わず口をつぐんだ。
「……ごめんなさい。私のせいで、困らせちゃって」
消え入りそうな声で、エリちゃんは自身の角をそっと押さえる。
「私の力…みんなを困らせちゃう……こんな力無ければ、良かったなぁ…」
「エリちゃん…」
エリちゃんの悲しい言葉に、私は胸が張り裂けそうになる。こんなにも小さな子が、自分のせいだと思い詰めちゃうなんて……。
一体、今までどんな辛い目に合ってきたんだろう…?
そんなの、想像するだけで胸が苦しくなる。
「困らせてばかりじゃないよ」
『…!』
重い沈黙を破ったのは緑谷くんだった。緑谷くんはエリちゃんの前にしゃがみ込むと、優しく微笑む。
「忘れないで。僕を救けてくれた」
「!」
「使い方だと思うんだ。ホラ…例えば包丁だってさ、危ないけどよく切れるもの程美味しい料理が作れるんだ。だから君の力は、素晴らしい力だよ!」
緑谷くんはエリちゃんにも理解しやすいように例えながら伝える。その姿を見て私も触発され、緑谷くん同様にエリちゃんの前にしゃがみ込むと、その大きな瞳を真っすぐに見据えた。
『あのね、エリちゃん』
「…?」
『私も最初、個性の使い方がダメダメで、色んな人に心配かけちゃったりしてたんだ……』
「え…名前さんも?」
意外そうに呟くエリちゃんに、私はコクリと頷く。
『……でもね、雄英で色んな人達のサポートを受けて、ようやく自分でも使いこなせるようになったの。もちろん、私だけじゃなくて、ここにいる人達もみんなそうだよ?みんな最初から完璧じゃなかった』
少なくとも私の周りにいる人達はみんな、自分と向き合って、前に進むために一生懸命努力した人達ばかりだ。
雄英で過ごしてきた日々は、そんな人達と一緒に目標のために競い、高め合い、支えられてきた……かけがえのない時間だった。
『……だから、そんなに自分を責めないで?エリちゃんもいつか必ず、自分の個性をうまく扱えるようになれるよ!そのためにみんながついてる。せっかく素敵な個性なんだから!エリちゃんの個性を必要としてる人は、いっぱいいるよ?だから一緒に頑張ろう!……ねっ?』
私や緑谷くんの想いが伝わったのか、さっきまでの悲し気な表情から一変、エリちゃんの大きな瞳は輝きを取り戻し、みるみる内にやる気に満ち溢れて行く。
「うん…っ!私、やっぱりがんばる!」
小さな体で健気に頑張ろうとするエリちゃんの姿に、なんだか私達も勇気をもらう。
偉そうな事言ったけど、私もようやくスタートラインに立てたばかりだ。エリちゃんに恥じないように、私自身もみんなと足並みを揃えて行けるように頑張らないと…!
きっと、この場にいたみんながそんな風に、それぞれの想いを馳せている気がしたーー…。