第20話
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「第5セット!なんだか危険な場面もあったけど、4-0でA組の勝利よ!!これにて5セット全て終了です!全セットみんな敵を知り、己を知り、よく健闘しました!」
ミッドナイト先生はブラドキング先生と違い、公平な態度で対抗戦の結果を淡々と発表して行く。
「第1セットA、第2セットB、第3セットドロー、第4セットA、第5セットA……よって、今回の対抗戦!A組の勝利です!!!」
ワアァ!…と、A組のみんなから歓喜の声が上がる。
A組のみんな嬉しそう…。
確かにみんな強かったもんなぁ…。
でも、B組が決して弱かったなんて思わない。
どっちにもいたからこそ分かる。
A組もB組も、どちらも同じくらい強くてカッコ良かった!
どっちが優れてるとかなんて、ない!
『…やっぱり、ヒーロー科はすごい…』
強くなれたと思っても、ヒーロー科はさらに先にいる。どんな困難な状況でも、常にみんなが "
今日こうしてヒーロー科のみんなと一緒に戦えて、本当に良かった…!
そうだよね?心操くん…。
私の視線の先に映るのは、相澤先生とブラドキング先生と共にコチラに向かって来る心操くんの姿。その表情はやっぱりどこか悔しそうで……私は居ても立っても居られなくて心操くんの元へと駆け寄った。
『心操くん、お疲れ様!』
「…!」
私の存在に気付いた心操くんは少しだけ気まずそうに視線を逸らすと、ポツリと寂し気に呟く。
「……情けないよ、またこんな姿をお前に見せるのは。結局、体育祭の時と何も変わってない」
『そんな事ないよ!だって心操くんは人のために個性を使って、必死に緑谷くん達を助けようとしてた!勝敗なんてどうでもいいよ!誰かのために必死になって戦う心操くん、すごくカッコ良かったよ!』
「ーー!」
『それに心操くんが体育祭の時よりすごく強くなった事、みんな本当にビックリしてたよ。私達の本気……きっとみんなに伝わったね!』
「…苗字…」
私の言葉に少しだけ心操くんの表情が和らいだ気がした。私の気持ち、少しでも心操くんに伝わったかな…?
「良い関係性だな」
『…え?』
私達の様子をそばで見ていた相澤先生がそう呟くと、隣にいたブラドキング先生もウム、と大きく頷いてくれていた。
「あぁ。お互いを認め合い切磋琢磨する仲は、自らの向上にも繋がるからな。君たちはきっとまだまだ成長出来る」
『…っ!ありがとうございます!』
「とりあず、まだ講評の時間が残ってるから続きはそこで話す。苗字……お前の講評もな」
『はいっ…!』
こうしてみんな集まり、最後の講評時間が始まると、話の流れは先程の緑谷くんの新技についてになった。明らかに個性が暴走していた事を咎められると、緑谷くん自身も困惑した様子で口を開く。
「僕にも……まだ、ハッキリ分からないです。力が溢れて抑えられなかった。今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで、僕自身すごく恐かった」
緑谷くんは自分の手の平を見つめながら静かに語ると、その手をギュッと握り締めて顔を上げる。
「でも麗日さんと心操くんが止めてくれたおかげで、そうじゃないってすぐに気付く事ができました。心操くんが洗脳で意識を奪ってくれなかったら、どうなるか分からなかった。心操くん "ブラフかよ" って言ってたけど…本当に訳わかんない状態だったんだ。2人とも、ありがとう!」
緑谷くんのお礼の言葉に心操くんはどこか複雑な顔をしていた。その表情から何となく本心で言った言葉じゃなかったんだろうなと悟る。
何はともあれ、2人の活躍によって緑谷くんの暴走が止まって本当に良かった。万事解決!
「……俺は別に緑谷のためだけじゃないです」
『心操くん…?』
神妙な顔をした心操くんに思わず声が漏れた。そのまま心操くんは自分の意思で動けた訳じゃない事や、自分の力量不足をつらつらと述べて行く。
相変わらず過小評価する心操くんに、私はそんな思い詰めなくていいのにと頭を悩ませていると、それを黙って聞いていた相澤先生が心操くんの元へつかつかと歩み寄って行く。
相澤先生…?
いきなりどうしーーーえっ…⁉
なんと相澤先生は心操くんの捕縛布を両手で掴むと、そのまま思いっきり引っ張り上げる。心操くんの首に巻かれた捕縛布がキツく締め上げられてる状態に慌てて声を上げた。
『ちょっ、相澤先生⁉ 心操くん白目むいてますッ!』
「暴力だーーー!!PTA!PTA!!」
周りのみんなも声を張り上げながら相澤先生の行動を非難する。その後すぐに捕縛布を離した相澤先生が心操くんに向かってハッキリ言い放った。
「誰もお前にそこまで求めてないよ」
「…!」
「ここにいるみんな、誰かを救えるヒーローに
『……』
その言葉に重みを感じるのは、きっとヒーローとして数々の経験をしてきた相澤先生だからこそ。人を助けると言う事はそんなに容易い事じゃないのは私自身も十分理解している。
だからこそ、命懸けで戦うヒーローはカッコイイんだ。
「その点で言えばお前の動きは、充分
「!」
先生の言葉に驚いた様子で目を丸くする心操くんを微笑ましく見ていると、相澤先生はチラリと私に顔を向ける。
「お前もだぞ、苗字」
『えっ…?』
「お前には以前、洞察力と状況判断力を身に着けるように課題を与えていたが……素晴らしい成長だった。ここに来るまで辛いこともたくさんあっただろうが、よく頑張ったな」
『…先生、…っ』
相澤先生の優しい言葉に胸がジーンと熱くなる。
それをそばで聞いていた緑谷くんや骨抜くん達もうんうん、と大きく頷いてくれていた。
「あの時苗字さんがいてくれなきゃ、鉄哲は間違いなく溶けちゃってたよ。最後まで逃げずに仲間の事を救おうとしてくれた苗字さん……めちゃくちゃカッコ良かった」
『骨抜くん…っ、ありがとう…』
「心操くんも最後アレ、乱戦に誘って自分の得意な戦いに戻そうとしてたよね!第1セットの時は、正直チームの力が心操くんを活かしたと思ってた…!けど、決してそれだけじゃなかった」
緑谷くんは大きな瞳を輝かせながらニコリと笑う。
「心操くんの状況判断も動きも、ヒーロー科のみんなと
『緑谷くん…』
あぁ…。
私達は今、本当に幸せだ…。
ずっと憧れていたヒーロー科の人達から認めてもらえるなんて…!これ以上の幸せはない。
幸福感に満たされていると、次に放つブラドキング先生の言葉に私は更なる衝撃を受ける。
「これから改めて審査に入るが、恐らく……いや、十中八九!心操と苗字は2年からヒーロー科に入ってくる。お前ら中途に張り合われてんじゃないぞ」
ーーーえっ…?
「おぉーーー!!どっちーーー!⁉ Aーーー⁉ Bーーー⁉ 」
いやいやいや!ちょっと待って!!
みんな盛り上がってるとこ申し訳ないけど、私そんな事一言も聞いてなかったよ⁉
なんで突然ヒーロー科の編入が決まったのッ⁉
『あ、え、あのっ…!どういう事ですか…っ⁉』
「あぁ、お前には言ってなかったな」
混乱する私に相澤先生はまるで忘れてたかのような軽い口調で言う。
「今回の合同訓練はお前らのヒーロー科編入を視野に入れた、言わば最終試験だったんだ」
『えぇっ⁉ そうだったんですか⁉ 私達、何も聞かされてーー』
「ちなみに、心操は気付いてたぞ」
『えッ!そうなの心操くん⁉』
「……考えれば分かる」
出たーー!またお得意のこれくらい分かるだろ問題!!
私は言われなきゃ分かんないよ!
『………じ、じゃあ……私達、本当に…?』
突然過ぎてまだ信じられなくて、震える声で相澤先生に尋ねれば、先生は僅かに口角を上げて頷く。
「ヒーロー科編入おめでとうーーー…ここからが、本当の始まりだ」
『ーー…っ!!』
先生の言葉にようやく実感が湧き、体の底からじわじわと喜びが込み上げてくる。やっと叶ったんだ。ずっとこの日を夢見て頑張って来た事が今、ようやく……。
『必ず、立派なヒーローになってみせます…っ!』
「今まで以上に精進します!」
隣を見れば、同じく瞳に希望を宿しキラキラ輝く心操くんがいた。その姿を見たら胸が熱くなって、何だか泣きそうな感覚に襲われる。
体育祭の頃からライバル意識しながらお互い競い合い、苦しい思いをしながらも最後まで諦めずに高め合った2人は、今日……一緒に夢へのチャンスを掴み取った。
『やったね、心操くん…!』
「あぁ…!」
今までの苦労がようやく報われて、思わず心操くんの肩を掴みながら笑うと、心操くんも嬉しそうに目を細めて微笑んでくれた。
……この時の私はただ、これから先に待ち受ける未来に希望しか抱いていなかった。
だから知らなかった。
轟くんがどんな思いを抱き、苦しんでいたのかなんて……。
第20話 おわり