第20話
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体勢を立て直した私達は、再び最初のフォーメーションでB組が逃げた方角を追いかけていた。その間も耳郎さんがイヤホンジャックで周囲の索敵をしてくれる。
「うっさ…全体的に遠ざかってるよ!邪魔されて捉え辛いけど……でも数減ってる!集中すれば聞き分けられそ!」
「減ってんの?」
「仕切り直す気かーー…クソが…!」
やっぱり向こうにとっても、戦闘能力の高い爆豪くんとまともにやり合うのは分が悪いよね…。
きっとまた自分達が優位になるチャンスを伺ってるんだ。下手に突っ込んで来られるよりやりにくいな…!
「ナメやがって……!行くぞ!!」
先頭にいる爆豪くんは、誰かを発見した様子で軌道を変えながら爆破でスピードを上げて行く。その先に視線を向けると、数百メートル先に必死に逃げ惑う凡戸くんの姿が見えた。
見つけた!まず1人目だ…!
このまま追い詰めれると思った時、死角に潜んでいた何者かが爆豪くんの行く手を阻むように飛び出して来た。
『ーーあれは…⁉』
「しまった、
まだ姿を一度も見ていなかった彼は、どうやらずっと物陰に潜んで不意打ちを狙ってたらしい。
泡瀬くんは手に持っていた円柱型の鉄のような物を放り投げると、パイプの間を通り抜けようとしていた爆豪くんの体を、身動き出来ないように早業で溶接する。
「
『爆豪くんが…!』
「把握されすぎー!!」
すぐに瀬呂くんがテープを伸ばして泡瀬くんを捕えようとするけど、入り組んだ場所では簡単に逃げられてしまう。もっと近距離まで接近しないと捕えるのは無理だ。
取り合えず、早く爆豪くんを救けないと!
『私が修復でーー』
「苗字、ここは俺に任せてくれ!」
『砂藤くん…!』
修復を使おうとすると、砂藤くんがそれを制して私より先に爆豪くんの元へと駆け寄って行く。筋骨隆々のその逞しい体で強烈なパンチを繰り出し、爆豪くんに接合されていた硬い鉄の塊をいとも簡単に打ち砕いた。
「行け!」
「くっつけてんじゃねェぞゴラァ!!」
砂藤くんによって解放された爆豪くんが、キレながら逃げる泡瀬くんを追いかけて行く。あぁ……今更だけど、爆豪くんが味方で本当に良かった。
『ありがとう、砂藤くんっ!』
「へへっ…、俺もちょっとはイイトコ見せねぇとさ」
『もう十分カッコイイとこ見せてるよ!』
「そ、そうか?」
また嬉しそうに鼻先を指で擦る砂藤くん。
なんか素直で可愛い人だな…。
そんな砂藤くんの姿に癒されつつすぐに爆豪くんの後を追いかけると、泡瀬くんを追い詰めた爆豪くんの姿を発見した。
そのまま攻撃を仕掛けるのかと思えば、爆豪くんは軌道を変えると華麗に泡瀬くんの頭上を通り過ぎて行く。
「任せるぞ」
「任」
「された!」
『…!』
流れる連携プレーのように爆豪くんの背後から現れた瀬呂くんと耳郎さん。2人とも勝ち誇った顔を浮かべながら、瀬呂くんに抱えられていた耳郎さんがイヤホンジャックによる必殺技を繰り出す。
「ハートビートサウンド!!」
『わっ…⁉ すごい衝撃波…!』
耳郎さんの強力なサウンドにより伸びきった泡瀬くんを、すかさず瀬呂くんがテープで捕える。ようやく1人目確保だ!
『ナイス耳郎さん、瀬呂くん!』
「まぁね~。近接タイプの泡瀬には、俺らみたいな遠距離タイプの方が有利だからな」
「爆豪もそれを踏まえてウチらに任せてくれたしね」
『なるほど…』
確かにその方が有利に立ち回れる。
相手の個性もしっかり把握した上で、どう行動するか考えないと…。
ふと、観覧席で話していた相澤先生の言葉が脳裏によみがえる。
「個性も千差万別、だから必ず自分と相性が悪い個性はあるワケだ。それを見つけ、どう活用するかが重要になって来る。……お前の個性でも、相手にとったら厄介だと思う奴もいるって事だ。そこを突く事ができれば、必ず有利な状況になる。覚えておけ」
ーーー私の個性が、相手にとっての弱点……。
ーーーなら、それはきっと、あの人だ!
私は左腕に付けているライフ・コンパスを確認する。
指針はグレーゾーンを指していた。轟くんとの試合から範囲修復を何度か使っていたので、あまり無茶は出来ない。
それなら…!
「向こうも凡戸捕まえたみたいだね」
「よしっ、俺らもサポート行くか!」
『待って、2人とも!』
「えっ?」
「苗字さん…?どうしたの?」
急に呼び止めたせいか、2人とも戸惑った様子で振り返る。私は構わずに言葉を続けた。
『耳郎さん、いま取蔭さんのパーツが一番近くで聞こえる場所はどこ?』
「えっ?ちょっと待って……コッチから聞こえる!このパイプの上の方!」
『上だね、ありがとう!瀬呂くん、私を上に運んでもらっていい?』
「オッケー!何か策があるんだな?」
私の態度にすぐに状況を飲み込んでくれた瀬呂くんはニヤリと口角を上げて笑うと、私を抱えてパイプの上へと連れて行ってくれた。
『あっ…!瀬呂くん、あそこ!』
指さす方向には耳郎さんが言ってた通り、パイプの上で取蔭さんのパーツが意思を持った別の生物の様に小刻みに動いて音を立てていた。
相変わらず凄い衝撃映像…!
私は着地しやすい場所に降ろしてもらうと、すぐさまパーツへと近寄ってしゃがみ込んだ。それにならって瀬呂くんも興味深げに上から覗き込んでくる。
「……で、どうすんの?」
『あのね、私の修復は触れた箇所が元居た形に戻ろうとするの。だからこれが本体じゃないとすれば、必ず指示を出してるブレーンがいるはず!だからーーー』
「どこかに潜んでる本体を
『そうっ!』
私の意図を理解してくれた瀬呂くんは、何だかしたり顔になってポケットを探ると、それを私に見せつける。
「ついでに、コイツもお見舞いしてやろうぜ!」
『あっ、それさっき爆豪くんから渡してもらった…!』
「そっ。手榴弾」
得意げに笑って見せて来たのは、作戦会議の時に爆豪くんから渡された簡易的な手榴弾だった。念のために持っておけと護身用に渡されたのだ。
『じゃあ、も一つおまけに…!』
瀬呂くんがテープでくっ付けた手榴弾に、さらにもう一つプラスして自分の分の手榴弾をパーツに取り付ける。
「プハッ…、容赦ないね~」
『念には念をだよ!』
セットしたら、後は修復を使えば自動的にーー…
「ーーー苗字、後ろッ!!」
『ーーー!!』
パーツに触れようとした瞬間、瀬呂くんが声を荒げながら私へと腕を伸ばす姿が視界に映る。今この瞬間、私の身に危険が迫っているのだと本能的に感じ取った。
ーーー動けッ!!
体中に脳から指令が響き渡る。状況を掴めないまま反射的に体を伏せた。それと同時に、頭上を何かが風を切る音を立てながら通過するのを肌で感じた。
「ーーなにッ⁉俺の動きを見切られただと…⁉」
狼狽えたような声が聞こえ顔を上げれば、鎌切くんが大きく目を見開きながら私の頭上を通り過ぎた様子が目に飛び込んできた。
恐らく背後から不意打ちを狙って仕掛けて来たのだろう。すると、そのすぐ後を追う様に爆豪くんが私達の頭上を爆破で飛び越えて行く。
「ハエみてぇにちょこまか逃げ回りやがって!うっとおしいんだよッ!!」
……爆豪くんも鎌切くん捕まえるのに苦戦してるみたい。
にしても、今のは危なかったぁ……。
「スゲー反射神経!よく避けれたな⁉」
『う、うん…。体が反射的に動いた……』
「やるじゃん!あの速さについてけるなんてすげぇよ!」
『えへへ…。特訓の成果かな?』
ありがとうございます。通形先輩…!
頭の中に浮かんだ通形先輩が「どういたしまして!」と笑ってウインクしてくれた。
『よしっ、今度こそ…!』
気を取り直して取蔭さんのパーツに触れて修復を使えば、それはふわりと宙に浮かび上がる。そのまま手榴弾を繋いだパーツは、取蔭さんの居場所を教えてくれるかのようにふわふわ何処かへ飛んで行く。
『行こう、瀬呂くん!』
「りょーかい!」
私達はそれを見失わない様に視界に捉えながら追跡した。
あの先に……本体がいる。
絶対に捕まえて、今度こそみんなで完全勝利してみせるんだ!