第20話
お名前は?
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「止まれ!いる!!」
『ーー!』
爆豪くんの声でハッと我に返ると、B組の誰かの気配を察知したのか、私達の頭上にあるパイプの上に着地した爆豪くんが、コチラに向かって静止するよう手で指示を出す。
「耳!全員近くにいるハズだ、探れ!!」
「名前!」
名前を呼ばれない事に不服そうに言い返しながら、耳郎さんがイヤホンジャックで周囲の索敵をしてくれる。
私達は邪魔にならないように、物音を立てずにじっと耳郎さんの次の言葉を待っていた。
「……っ…」
『…?』
目を閉じて集中していた耳郎さんの表情が険しくなる。明らかに様子がおかしい。
「
爆豪くんも苛立った様子で声を荒げる。
「待って…」
『……耳郎さん?どうしーー』
「やっぱやられた!!」
『⁉』
耳郎さんの言葉に何が起こったのかと目を見張ると、私達の頭上ーー…爆豪くんがいた方角から
「ハイ、しゅーりょー」
「ーーッ!」
すかさず爆豪くんは左腕を背後へと
『ーーあれは…っ⁉』
ケタケタと可笑しそうに笑う声はそこから発声していた。
何アレ⁉
人間の口だけが切り離されて動いてる…っ⁉
「やっぱ
『そ、そんな事出来るの⁉』
体の構造はどうなってるのッ⁉
何であれで生きてられるのーー⁉
気になる事はたくさんあるけど、とにかく今はあまり優位な状況ではないみたいだ。取蔭さんの切り離された体のパーツが爆豪くんを四方八方から襲う。
爆豪くんも必死で迎撃してるけど、1つ1つが小さくて素早いため、的が当てずらいようだった。
『修復…、空中じゃ使えない…っ!』
カバーしてあげたいのに、空中戦じゃ私の個性は届かない。どうしようか考えあぐねていると、瀬呂くんがテープを周囲のパイプに張り付けて、蜘蛛の巣のようなバリケードを作ってくれた。
「爆豪こっちへ!」
そっか!
これなら取蔭さんのパーツも攻めて来られない!
取り合えず、一時避難だけでもーー…
「ハイ、しゅーりょー」
『…えっ…』
全て計画通りとでも言うように取蔭さんが再び嘲笑すると、私達のいる頭上から粘液性のある液体が降り注いできた。
「グルースコール!」
「やっべ、ハメられた…!」
『これってーー…ボンド⁉』
バリケードの上にボンドが付着し、さらに強力な接着材となって私達の行く手を阻む。
どうやらB組の
やっぱり先読みの力はB組の方が優れてる!
それだけA組を研究してるって事だよね…!
「こっちへ!」
瀬呂くんが僅かに人が通れる隙間を発見し、私達に急ぐよう手招きをする。すぐに向かおうとすると、頭上でキンキンと耳障りな金属音が響き渡った。
「ヒャッヒャッヒャ!遅い遅い!」
『ーーッ!、パイプが…!』
上を見上げれば、切り離されてバラバラになったパイプや接着剤付きのテープが私達めがけて襲い掛かって来る瞬間だった。
「せめて3人はーー!!」
『砂藤くんっ⁉』
私達を庇おうと、砂藤くんが目の前に立ちはだかる。
捨て身覚悟で自分を犠牲にするつもりだ。
ダメだ。
そんなマネ、私がさせないッ!
『ーーー大丈夫だよ。砂藤くん』
「苗字っ…⁉」
驚いた様子で私に振り返る砂藤くんにニコリと微笑むと、そのまま両手を地面に這わせた。
『ーー…範囲修復ッ!!』
半径30m全て元に戻って!
そう念じながら個性を使えば、落下していたパイプが一瞬空中で動きを止め、元の場所へ戻ろうと空中を逆戻りして行く。動くなら今しかない。
『今の内にコッチへ!早く!』
「お、おうっ…!」
頭上を見上げて呆気に取られていた3人を呼び寄せる。
修復は全ての物を前の状態に戻すこと。
つまり、パイプだけじゃなくテープやボンドも元の位置に戻ってしまうのだ。そうなってしまってはまた振り出しに戻るだけ。
だから、元に戻るまでのこのラグ時間をうまく活用するしか抜け出す道はない!
『よしっ、間に合った…!』
急いでその場を離れ後ろを振り返れば、先ほどまで私達がいた場所は数秒前と全く同じ光景になっていた。
ただ一つ違うのは、もうそこに私達はいないと言う事。
「あっぶね~……サンキュー苗字!ナイス状況判断!」
『えへへ…。なんとかなったね』
「砂藤もありがとう。ウチらのこと庇おうとしてくれてたよね」
『うんっ!砂藤くんが一番最初に私達を助けようとしてくれてた。すごくカッコ良かったよ!』
「い、いやぁ…。そう言われると照れるな…」
頬を赤く染めて照れ臭そうに頭を掻く砂藤くんに少し微笑ましく思っていると、頭上から狼狽えたような声が聞こえて来た。
「どう言う事だ…!一番厄介なのは耳郎なんじゃなかったのか…っ⁉」
どうやら声の主は鎌切くんだったようだ。
取り乱した様子でチッ、と舌打ちすると、ジャキリと刃の擦れる音を立てて臨戦態勢を取る。その鋭い眼差しは何かに狙いを定めているようだった。
「作戦変更だ…。1番脅威なのはーーー」
その視線の矛先はーー……真っすぐ私へと差し向けられていた。
「ーーーお前だッ!!」
『ーー!!』
思っていたよりも素早い動きで鎌切くんが私へと一直線に向かって来る。分かっていても、速すぎて体の反応が追い付かない。
ヤバイッ…!捕まる!!
ーーーそう覚悟した時だった。
『ーーわッ…⁉』
突如私の目の前に現れた黒い影。
それが何なのか分からないまま、背中を勢い良く押される感覚がして、バランスを崩した私は目の前にいた耳郎さんへと覆い被さる。
咄嗟に耳郎さんが私の体を受け止めてくれると同時に、大きな爆発音と熱い爆風を背中に感じた。
「防いだかよ!虫は反射が速ェーー…なァ⁉」
見ると、爆豪くんが攻撃を防いで逃げようとする鎌切くんに二度目の爆撃をお見舞いしている所だった。
ーーー私いま……爆豪くんに助けられた?
「苗字さん、大丈夫だった⁉ 」
『う、うん…。ごめんね?ぶつかっちゃって』
「平気。それよりさっき爆豪に足蹴りされてたけど、背中大丈夫?」
『えっ…』
さっき背中を押されたのは爆豪くんの足だったんだ……。
咄嗟の判断だし蹴られるのは全然構わない。
それに痛みだって全くなかった。多分爆豪くんなりに痛くないよう気遣ってくれたんだろう。
むしろ私は、爆豪くんが私を庇って助けてくれた事に驚いていた。
そのまま呆気に取られていると、爆豪くんが怪訝そうな顔でパイプの上に着地してコチラを見下ろす。
「オイ修復女ッ!!」
『…!』
「いつまでぼーっと突っ立ってんだ!てめぇ、今一番狙われてんだろーが。常に気ィ張っとけや」
『う、うん…。あの、さっきは助けてくれてありがとう…!』
「いちいち礼なんかいらねェーんだよ。……言っただろ。俺が助けるって」
『ーー…!』
やっぱり、あの時と違う。
ヒーロー科試験の時の爆豪くんだったら今のは "助けたんじゃねぇ!" って全力で否定してた。助けるのも助けられるのも嫌っていたのにーー…。
爆豪くん……本当に変わったんだね!
「授業だろーが何だろーが、関係ねェーんだよ。決めてンだよ俺ァ!勝負は必ず完全勝利!4-0無傷!これが本当に強ェ奴の "勝利" だろ!」
いつもの勝気な強い言葉が何だか今はとても頼もしくて、私達の士気を高めてくれる。さっきまでの不安な気持ちはどこかに吹っ飛び、やってやろう!とみんなの気持ちが団結した瞬間だった。