第19話
お名前は?
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骨抜くんと熱く語り合い、気持ちを入れ直した所で、未だに暴走を止めない鉄哲くんに向かって、角取さんが必死に声を荒げている様子が視界に映った。
「鉄哲くん!相手が馬鹿ショージキに来テくれるハズナイデショ!トラップと思うヨ!!」
「いや!俺が向こうなら行くね!」
すかさず骨抜くんが否定する。何か算段があるようだ。
「障子で状況把握。轟を軸で攻めるのが1番強い。一かたまりで、こんな開けたとこいたら………」
『……?』
骨抜くんが話終える途中、冷たい空気が足元をすり抜けるのを感じた。気付いてからハッとする。体育祭の時にも体験したこの足元に纏わりつくような冷気。気付いた瞬間にはもうっーー…!
ーーズシャァ!
『きゃっ⁉』
目を開けられない程の冷たい烈風が吹き抜け、咄嗟に両腕で顔をかばう。けどそれもすぐに収まり、覆っていた両腕を降ろして固く閉じていた目蓋をゆっくり持ち上げた。
『……すごい……全部、凍ってる……』
目の前に広がる光景に息を呑む。そこはまるで別世界だった。
さっきまで無機質だった施設の風景は、辺り一面氷で覆いつくされていた。まるで氷の世界にいるようだ。あの一瞬でここまで……。
ーーーって、感心してる場合じゃないっ!
『ーーみんなはッ…⁉』
辺りを見渡すと、前方……少し離れた位置に鉄哲くんと回原くんがいた。けれどその体は下半身だけ氷漬けにされ、自由に身動きが取れない様子でもがいている。
あれ…?
そう言えば私の体は氷漬けにされてない…?
……いや、今はそんな事よりーー!!
『今救けーー…わっ⁉』
近付こうと2、3歩足を進めた所で、それを遮るように突如目の前に巨大な氷壁が現れた。驚いて後ずさると、私の背後から冷たい声が響く。
「……悪ィな、名前。それ以上は行かせらんねぇ」
『ーー…轟、くん……』
振り返った先に、いつもの優しい眼差しを向けてくれる轟くんはいなかった……。目の前にいる彼は険しい顔つきで私を睨みつける。敵対しているから仕方ないとは言え、そんな顔を向けられるのはチョット辛い……。
「お前の個性は先に押さえとかねぇとやっかいなんだ。なるべく名前を傷つけたくはねぇ……だから、抵抗しないでくれ」
『ーーー…』
険しい表情の中にも、轟くんの切実な願いが込められたような言い方だった。私と戦いたくない空気がヒシヒシと伝わって来る。
轟くん…。
こんな時でも、やっぱり優しい。
だから氷結も私だけ無害だったんだ……。
私を傷つけまいとするその気持ちは素直に嬉しかった。
だけどーーー…
『ーー…ごめんね。その指示には、従えないよ』
ーーー私にも、譲れない思いがある…っ!
「……どうしても、ダメか?」
『うん…。みんな本気で挑んでる。もちろん私も、この日のために全力で頑張って来たの。ヒーローになる事を夢見て…、いつかみんなに追いつけるようにーーーだからっ…!絶対にここで大人しく捕まるワケには行かない!』
「…………そうか」
轟くんは少し悲しげに呟くと、落胆した様子で顔を伏せる。
そして静かに深呼吸をすると、迷いを一緒に空気と吐き出したのか、ゆっくりと顔を上げた。
ーーその瞳の色は、完全に 私を"敵" として映していた。
「ーーーお前が本気なら、俺も手ェ抜くワケにはいかねぇよな」
『……っ、』
「ここで捕えるぞ……名前」
轟くんの本気の目だ……。
対面しただけで分かる。自分の力じゃ到底及ばないって……。
ーーーそれでもっ……!
『ーー私はもう、諦めないッ!!』
「ーー…!」
轟くんが氷結を使うより早く、私はその場に素早くしゃがみ込み両手を地面に這わせた。氷で覆われた地面は、触れた瞬間ヒンヤリと手の平の感覚を鋭敏にさせる。
『地面を……修復ッ!!』
轟くんのいる範囲まで目視ししながら "個性" を使う。
パリッ!パリンッ!と軽快な音を鳴らしながら轟くんのいる方向に向かって氷がヒビ割れて行き、そしてーーー
「ーーーなっ…⁉」
砕けた氷の上にいた轟くんの下半身が、ズブリと地面に沈んだ。
驚くのも無理はない。だってそこはーーー
『骨抜くんの "柔化" の上にいたの。だから氷だけ剥ぎ取らせてもらったよ、轟くん…!』
「ーーーチッ…!」
良かった…!
まさか、こんなに上手く行くなんて思わなかった!
ーーーそれは、試合が始まる前の作戦会議の時だった。
ーーー✴︎✴︎✴︎
『ーーーえっ⁉ 私を囮にする⁉』
考えがあると骨抜くんに言われ話を聞けば、何とも驚きの言葉を口にされ思わず声を上げる。そんな不安になる私を他所に、骨抜くんは「ダイジョブ、ダイジョブ!」と軽く笑い飛ばした。
「やっぱ最初はそれが1番効率良いんだよね。苗字さんはただ目立つ場所に立っててくれればいいからさ。その周りを俺がテキトーに "柔化" させておくから、ホイホイ近付いてかかった奴を捕えるカンジで」
『そ、そんなゴキブリ捕まえるみたいに……』
そんなに簡単に行くものなのかな?
警戒されそうな気もするけど……。
私の不安を感じ取ったのか、骨抜くんは自信ありげに答える。
「苗字さんの個性はサポートとしては強力だし、向こうにとっても脅威になる相手だから先に潰しておくに越した事はない。だからどんな手を使ってでも必ず狙いに来るハズだよ」
『……うーん、確かに』
「けど、轟に氷で攻められたらどうする?柔化の意味なくなるぞ」
「そこは柔軟に対応でしょ。まぁ、俺に任せてよ」
「さっすが骨抜だ!やっぱ推薦入学者は言う事が違うなァッ!!」
『えっ⁉そうなの⁉』
「イエス!骨抜クンはB組の推薦入学者の1人デス!賢くて、とってもストロングね!」
「ははっ、大袈裟~」
骨抜くん……B組の推薦入学者だったんだ⁉
じゃあ、轟くんと同じ立ち位置にいる人なのか……。
それは凄い!頼りになる!
「やっぱ一番警戒すべきなのは轟だよな。範囲攻撃強すぎだし…」
「飯田もね。あの速さは中々に厄介だ。足止めは俺の個性で何とかするよ」
「索敵する障子クンも危険デス!私が彼をマークしマス!」
「じゃあ尾白は俺が相手するよ」
「なら轟は俺だ!アイツの氷や炎も、俺なら懐まで近付く事が出来る!!真正面からブン殴ってやるぜ!!」
スムーズにそれぞれの役割分担が決まっていく。このチーム、すごく連携が取れてる気がする。これは私も足手まといにならない様にしなくては…!
私も負けじと自分のするべき事を考えた。
『なら、私は鉄哲くんのサポート役に回るね!一番消耗が激しそうだし、轟くん相手には持久戦が有利だから役に立てると思う!』
「分かってるじゃねェか苗字!頼りにしてるぜ!!」
「作戦は決まりだね。じゃあ俺達も他の奴を投獄させたらすぐ鉄哲のカバーに回るよ。それまでの間、アイツの援護をよろしくね苗字さん」
『うん、任せてっ!』
ーーー✴︎✴︎✴︎
ーーー鉄哲くんの突然の暴走には焦ったけど、これで作戦通り!
轟くんは沈んでいく体には抵抗せずに、悔しそうに歯を食いしばっている。この結果は皮肉にも、轟くんが私に優しさを見せたから成し得た事だ。私も一緒に氷漬けにされればひとたまりもなかった。
少し、心が痛むけど……。
『ごめんね。轟くん……』