第19話
お名前は?
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A組とB組…そして私達も交えた初めての合同戦闘訓練。
クラス全員のクジが引き終わり、チームも確認した所で、さっそく第一試合が始まろうとしていたーー…。
『えっ…!心操くん初戦から出番なんだ⁉ いきなりだね…』
「平気。来るかもって思ってたし」
心操くんは特に気にした様子もなく平然と言ってのけた。
こういう所本当に見習いたい。まさに鋼のメンタル。
『…そう言えば、体育祭の時も初戦だったよね?緑谷くんと』
「あぁ。……そういう宿命なのかもな」
『…えっ?』
心操くんは真っすぐ前を見据えたままそう答える。
その視線の先を辿ると、少し離れた位置に緑谷くんがいた。
まさかっ…!
『また緑谷くんと対戦するの⁉』
「あぁ。初戦じゃなくて第五試合目だけどな」
『すごい…!因縁の対決ってやつだね!』
何だか本当に最初からこうなるように仕組まれていたみたいだ。
体育祭では惜しくも緑谷くんに負けちゃったけど、今の心操くんはあの頃とは比べ物にならないくらいに成長してる。
もちろんヒーロー科も同じなんだろうけど……あの頃とは違う新しい心操くんがこの戦いの中で見れるはずだ。
「まもなく第一試合を始める!各々チームは指定の位置につくように!」
ブラドキング先生の大きな声が響き渡る。
それに応じるように心操くんは捕縛布に隠れていたマスクを取り出すと、それを丁寧に口元を覆うように装着する。思っていたより見た目は精巧に作り込まれてるみたいだ。
本当に始まるんだ…。
心操くん見てたら、ようやく実感が湧いて来た…!
『……何か、私もワクワクして来たよ』
「気合入れ過ぎてヘマするなよ」
『しないよ!………多分』
「そこは言い切れよ」
少し呆れた表情を見せながら心操くんは私の横を通り過ぎて行く。
スタート地点へ真っすぐ進んで行くその背中を見届けていると、何故か急に胸が熱くなって思わず声を上げた。
『心操くん!』
「…?」
背中に呼び掛けると、不思議そうにコチラへ振り返る心操くん。
私はニッと笑うと、右手の拳を勢いよく前へ突き出した。
『応援してるよっ!』
「!」
それは体育祭の時に私が心操くんへ向けて放った言葉。
あの時の情景が目の前の光景と重なる。
あの時は、お互いに悔しい思いをしたね。
ヒーロー科の本気をたくさん見せつけられた。ヒーローになるには今のままじゃ全然敵わないって……嫌と言うほど痛感させられた。
だからこそ見せつけよう。
私達が本気で変わったというところを…!
またここから、始めるんだ!
マスクに覆われてない心操くんの目元がいつもより大きく見開かれる。そのまましばらく見つめ合うと、心操くんはゆっくり瞬きをして、力強い眼差しを私に向ける。
その瞳の中には、静かな闘志が宿っていた。
「…あぁ。今度は絶対、勝つ」
その言葉を受けて、私はニコリと笑う。
背を向けて前へ進んで行く心操くんの背中は、あの頃よりも強く逞しい姿になっていたーー…。
試合が始まるまで
「名前」
『…っ!、轟くん…』
轟くんは私に近付くと、目の前までやって来て立ち止まる。
「ようやく話せた。いつ話しかけようか迷ってた」
『そ、そうなの…?そんなの、いつでもーー…あ、いや!えっと…、ビックリしたよね?急にこんな形で現れちゃって…』
余計な事を言いそうになって慌てて話題を逸らした。
轟くんにはヒーローをもう一度目指して頑張るとは伝えてたけど、ヒーロー科編入のチャンスをもらった事や、裏で相澤先生や通形先輩に指導してもらってた事は言ってない。
なので今日が初めてのカミングアウトだ。きっとビックリさせてしまったに違いない。
「最初は驚いた。けど考えてみりゃ、今までそんな
『えっ…、例えば?』
「合宿のサポート役で来た時もそうだけど、前に開発工房からお前出て来てたろ?あの時から違和感は何となく感じてた」
『あっ』
言われてから思い出す。
そう言えば、発目さんにサポートアイテムを開発してもらった時に偶然轟くんと鉢合わせた。
やっぱり普通科が開発工房にいるのは違和感あるよね…。
「そういや、名前は爆豪と同じチームなんだな?」
『…うん。さっきもヘマしたら承知しねぇって釘刺されちゃって…。すっごいプレッシャーだよ』
「俺がお前と同じチームだったら良かったのにな。そうすりゃ、名前とやり合う事なんてなかったのに……やり辛ぇ」
『………え?』
一瞬、なんて言われたのか意味を理解するのに時間が掛かった。
聞き間違い…?
今、私とやり合うって言われたようなーー…
「気づいてなかったのか?鉄哲んとこの対戦相手……俺のチームだぞ」
うん、やっぱり聞き間違いじゃなかった。
『ーーウソでしょッ⁉ 轟くんと対戦⁉』
爆豪くんと同じチームと言う事に気を取られ過ぎて、相手チームが誰なのかまで確認していなかった。
まさかまさかの轟くんと対戦だなんて…。
確か轟くんって推薦入学者だよね?しかも個性2つ持ちのチート級…!
こんなの私の個性でどうやって勝てと⁉
『そ、そんなぁ~…』
「正直やり辛ぇよな。せめて同じチームならお前を守ってやれたのに…」
『へっ…⁉ いや、それは私も同じだよっ!』
「え…?」
『私の個性は本来みんなを守るためにあるものだから。もし轟くんと同じチームでも、私だって轟くんを守りたいよ!』
「……名前…」
ん…?
なんか私いま…、気持ちが熱くなって結構大胆なこと言った気がする…。
『ほ、ほらっ!ヒーローをも守れるヒーローになるのが私の夢だから!』
恥ずかしくなって咄嗟に笑って誤魔化した。
けれど轟くんは茶化すことなく嬉しそうに目を細めてくれる。
「ありがとな。けど、やっぱ守られんのは
『ーーっ…、轟くん…』
「さっきから何イチャついとんだウゼェ!!」
『ーーッ⁉』
突然割って入って来る声に一気に現実に引き戻される。
声の持ち主は至極苛立った様子で眉をピクピクさせながら私達を睨みつけていた。
「よそでやれや!!目の前でやられっと嫌でも目に入ンだよッ!!」
『ば、爆豪くん…⁉ ちがっ、そういうつもりじゃーー』
「爆豪。同じチームなら名前が怪我しねぇようちゃんと守ってやってくれ」
『轟くんッ⁉』
そんな火に油を注ぐような事言わないでー!!
気持ちはすごく嬉しいんだけどね…⁉
「あ"ぁ"ッ⁉ ふざけんな!!」
あぁ~ほら…やっぱりブチギレだよぉ~…。
ますます爆豪くんの私への当たりが強くなるの確定だ…。
「おい修復女ッ!!」
『ハ、ハイッ!!』
「いいか、俺が目指してんのは誰も捕まらねぇ圧倒的強者なんだよ!!役に立てねぇくらいなら、いっそのこと何もすんな!!…ーー黙って立ち尽くして見てろ」
『…!』
その台詞は、私にヒーロー科試験のトラウマを思い起こさせるのに十分な言葉だった。
ーー嫌だ。
もうあんな思いは…あんな苦しみは、二度と味わいたくはない…!
『……爆豪くん』
「…あ?」
軽く睨まれるその目を真っすぐに見つめ返す。
あの時の悔しい思いを胸に、闘志を燃やしながら。
『ヒーロー科試験の時みたいな弱い私はもう見せない。……だから、見てて!』
「……ケッ、また大口叩くだけで終わンじゃねえぞ」
それを言われると私は何も言えなくなるんだけど……。
毎回痛いとこを突かれるなぁ。
取り合えず、今は結果を出さない事には何も言えない…か。
はぁ…と少ししょんぼりしながらため息を吐くと、立ち去ろうとしていた爆豪くんが私に背を向けながらーーー
「ーーここにいるって事は、強くなってる証拠だろ。変わってねぇ方が問題だろが」
『ーー!!』
なんて、耳を疑う事を言うものだから私はかなり驚いた。
今のは……私を励ましてくれたの……?
信じられない言葉に目を白黒させながらも、その言葉に勇気づけてもらった気がして、何だか少し……いや、かなり嬉しかった。