第18話
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先輩との特訓も終えて、私は自分の寮へと足を運んでいた。
今日はいつもより一段と強くなった気がする。
気分良く歩を進めていると、視界の端に何か人影が通った気がして立ち止まり、視線をやる。
ん…?
あれは……心操くんっ⁉
そこにいたのは、林の奥に消えて行く心操くんの後ろ姿だった。捕縛布を首に巻いていたし、きっとまだトレーニング中だ。これはチャンスかもしれない…。
私の中で浅ましい考えが頭をよぎる。
……ちょっとだけなら良いよね?
ちょっと見て、バレないようにすぐに立ち去ろう…!
『……よしっ』
意を決して、私は気づかれないように気配を消しながら心操くんの後を追いかけて行った…。
林の奥を抜けると
なるほど。いつも心操くんのトレーニングしてる姿を見た事がないと思ってたら、こんな秘密基地みたいな場所で特訓していたのか。納得。
心操くんは……いたっ!
辺りを見渡せば、すぐにその姿は見つけられた。
心操くんは捕縛布を器用に操りながら、木の枝からまた別の枝へとテンポ良く飛び乗っては移動して行く。まるでターザンのような動きに、私は目が釘付けになっていた。
すごい…!!
機動力が格段に上がってる…!
しかも標的の捕縛も難なくやり遂げてるし…心操くん、前回から成長し過ぎじゃないのッ⁉
しばらく身を潜めながら眺めていると、心操くんは人が十分座れるくらい太い木の枝に一旦腰掛けると、体力を温存させているのか、少しくつろいでいる様子が遠目から分かった。
……やっぱり凄いなぁ、心操くんは。
私も大きく成長できたかもって思っていたけど、心操くんはいつも私より一歩先にいる…。
まぁ、私と心操くんじゃ戦い方が違うから、仕方ないのもかもしれないけどさ…。
私も捕縛布教えてもらおうかな……なんて。
そんなことを考えながら
慌てて身を隠すけど、警戒心の強い心操くんにはやっぱり気付かれてしまったみたいで、私が身を潜めている場所に顔を向けられた。
「……誰かいるのか?」
『…っ…』
ど、どうしようっ…⁉
これってもう、正直に出て謝るべき…?
私が考えあぐねていると突如ーー…捕縛布の矛先が私の身を潜めている場所へと勢いよく突っ込んで来る。
『わっ⁉、っと…』
私は持ち前の反射神経でその場から飛び退き、前転しながら林の中から飛び出してしまった。心操くんの目の前に私の姿が
「やっぱお前か…」
『…お、お疲れ様で~す…』
「何がお疲れ様ですだ。覗き見なんて悪趣味だな…?」
『ご、ごめんっ!偶然心操くんの姿を見ちゃったから思わず付いて行っちゃって……どうしても心操くんのトレーニングしてる姿が見たくて…』
「……」
心操くんは何も言わず私を見つめる。
怒っているのかな。それとも呆れられているのか……いや、きっと両方かもしれない。何とも罰が悪い。親に叱られた後の子どもの気分だ。
「……よく避けれたな。俺の捕縛動作」
『…えっ?』
てっきり文句の一つでも言われると思っていた私は、予想外の返しに思わず目が点になった。
「特別講師に色々教わってるのか?」
『…あ、うん!通形先輩に鍛えてもらってて…』
「通形……あぁ、ビッグ3とか。前から仲良いよな?」
『うん!私のことずっと応援してもらってて……先輩厳しいけど、すごく優しくて明るくて、いつもパワーを貰ってるんだよ!』
「……フーン」
『先輩のおかげでだいぶ動けるようになったんだよ?私でもここまで出来るんだって……本当に先輩には頭が上がらないよ!』
「…へぇ?」
心操くんの目が、一瞬鋭く光った様に見えた。
すると突然、心操くんは捕縛布を片手で掴みながら休んでいた木の枝から地面へとスルスル降りて来ると、私の目の前に立ちはだかった。
「なぁ、苗字」
『えっ…。な、なに?』
「今から俺と手合わせしようぜ」
『………えぇっ⁉』
突然の申し出に私はかなり驚く。
けれど心操くんの表情は至極真剣で、その瞳の奥には静かな闘争心が燃えているように感じた。
『……ほ、本気なの?』
「本気だよ。苗字がどこまで強くなったのか試したい」
『い、いやいやっ!私なんかまだ全然だよ!ようやく体が慣れ始めたばかりだし、心操くんとは実力差がーー』
「負けた時の言い訳か?」
『…!!』
核心を突くような一言にぐっと言葉に詰まった。
「……実力差は関係ない。俺は今のお前の強さを知りたいんだ。お前だって知りたかったんだろ?ライバルの成長を……」
『……ライバル…』
「いいぜ?見せてやるよ…。だから…ーー全力で掛かって来い!苗字ッ!!」
『ーーッ…!!』
心操くんの気迫に体がビリッと痺れた。
体の奥からゾクゾクした感情が湧き起こり、ぶるっと身震いする。
ーーあれ…私いま、喜んでる…?
あぁ。そうか…。
私はずっと、心操くんと対等の立場でいたかったんだ。
だって、私達ーー…永遠のライバルだもんね?
私の心の奥底にあるスイッチが、カチリ…と押される音が聞こえた気がした。私は目の前にいる心操くんを真っ直ぐに見据える。
ーー私の出せる全てを、今…ここでッ!!!