第18話
お名前は?
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「さぁ立って!まだ始まったばかりだよ?」
『…うっ…、せ、先輩……もう少し、加減を…』
手始めに軽く手合わせをしようかと言われ、そんな経験のない私は案の定訳の分からないまま先輩から腹パンを食らって地面に転がりながら悶えていた。
やっぱりさっきの発言は訂正しよう。
通形先輩は優しさだけじゃなくて、やる時は容赦しない人だ。
お腹痛い…。個性なくてもこんなに強いなんて…。
「あれ?もう音を上げるのかい?俺まだ全然本気出してないよ」
『だ、だって私の個性は攻撃タイプのものじゃないので、どうすることも出来ません…!』
「そんなことはないさ!何度か攻撃を仕掛けてみて分かったけど、君は咄嗟の反射神経が良いみたいだ。腹パンも1度目は上手く避けれていたし、次にどう来るのか予測する事が出来れば、きっとうまく逆手に取ることが出来るハズだよ?」
『えっ…私、動けてますか?』
「初めての対人訓練にしては上等!これからもっとたくさん経験を積んで鍛えて行けば、うまく攻撃を
『えぇっ⁉ そんなこと私が出来るようになるんですか⁉』
私の個性上、戦いには不向きだと思って今までたくさん諦めてきたのに…まさかの戦える発言にこれまでの自分の人生を大きく
本当に私は戦えるようになるの?
「もちろん、そのためには継続的な訓練と経験が必要だよ。俺だってここまで来るのに何年もかかったんだ。すぐに出来るとは言わないさ」
『そ、そりゃそうですよね…』
雄英のビッグ3と言われて来た人だ。もちろん並大抵の努力じゃいかない。たかが3週間そこらで戦える力を身につけるのは到底無理な話…。
「心配しないで!誰しも初めは上手くいかないものさ!今まで経験してない事をやれって言われても出来るわけないよね?でも、君は俺の攻撃を躱した。それって結構すごい事なんだよ?ヒーロー科だって俺の攻撃を躱せた子は1人もいなかったんだから!……君にはセンスがある。俺が保証するよ!」
『私に…センスが…?』
そんなこと、今まで言われた事なかった。
私は心操くんと違ってドジで、間抜けで、頭も良くなくて…全てにおいて劣ってると感じていたから。
でも、心操くんは努力で力をつけて来た人だって知ってるから…っ!だから私も置いて行かれない様に必死に努力し続けて来た。出来ない事が多い私は、それしか方法がないからってーー…。
「君は頑張り屋さんだもんね!ずっと陰で努力してきた姿、俺はちゃんと見てたよ?君なら出来る!もっと自分に自信を持って!」
『…先輩…っ』
通形先輩の熱い言葉に、何だか少しだけ泣きそうになるのをグッと我慢して気持ちを奮い立たせる。先輩のパワーは私のやる気に火を灯してくれた。今なら何だって出来そうな気がしてくる…!
「全ては経験を積むこと!インターンで培ってきた俺の経験を君に直々に伝授してあげるから、これから一緒に頑張って行こう、名前ちゃん!!」
『はいッ!!よろしくお願いします!!』
ーーこうして、先輩との
「相手をよく見て動きを予測するんだ!さぁ、もう一度!!」
『…は、はいッ!!』
ーー来る日も、来る日も、毎日特訓は続いた。
「ほらほら、よく見て避けないとまた腹パン食らっちゃうよ⁉」
『くっ…!も、もう一度お願いしますっ…!』
ーー最初は先輩の速さに付いて行くのに必死だった。
「今のはいい動きだったんだよね!そのタイミングを体で覚えて行くんだ!もう一度行くよ?」
『はいッ!!』
ーーけど、回数を重ねる毎にその速さが
「いいね!よく見えてる!後は教えた通りにカウンターを狙って仕掛ける!」
『…っ、うりゃあぁぁ!!』
ーーそしてついに、その日はやって来た!
「おおっと…⁉」
先輩の攻撃を見切りパンチを躱すと、素早く先輩の手首を掴み、その勢いのまま体を捻って地面に抑え込んだ。
身動きできないように素早く馬乗りになり、完全に動きを封じ込める。
『できたっ…!!』
ようやく決まった技に、驚きと感動が同時に押し寄せる。
そして初めて自分の力で技を決めれた達成感に、とても気分が高揚していた。
嬉しい…っ!
私でも頑張ればこんな風に敵と戦えるんだ!
「いやぁ~、完全に決められちゃったね…。降参だ」
『あ、すみませんっ!大丈夫でしたか⁉』
すっかり技を決めれた事に気分良くなっていた私は、先輩の声に馬乗りになっていた状態のままだった事を思い出し、慌てて飛び
「大丈夫だよ。それより、すごいじゃないか!短期間でここまで成長できるなんて…やっぱり俺の観察眼は伊達じゃないって事なんだよね!」
『先輩の教えるより実践!って形が私に合っていたみたいです。……やっぱり何度も腹パン食らいたくなかったので。先輩、容赦ないし…』
「アハハハ!ごめんごめん。教えてる内に、サーとの特訓の日々を君に重ねちゃってね。つい力が入っちゃったんだ」
『ナイトアイとの…?』
「あぁ。こんな風に俺もサーから特訓受けてたなって……何かちょっと懐かしくなっちゃったよ」
『…先輩…』
ぽつりとこぼれた先輩の呟きと、少し憂いを帯びたその眼差しに、何とも言い難い寂しさが心に重くのしかかる。…あの日感じた痛みや悲しみは、今も色濃く記憶に残っている。
これから先ずっと私たちの奥底で眠り続けていて、ふとした時にこうして思い出されるのだろう。
「サー、本当に容赦なくてさ。身体能力も高い上に、個性で俺の動きも全部予知されちゃうしで……そりゃもう大変だったんだぜ?」
『…あはは。最強ですね?』
「あぁ。本当に強い人だったんだ……今の俺があるのは、サーのおかげだからね。…本当にサーには感謝しかないよ」
『……』
私は何も言わずにコクリと頷く。
「…俺の今の目標はね?いつか個性を取り戻して、空にいるサーにまで名前が届くように、立派なヒーローになって多くの人々を救う事なんだ…っ!」
『ーー!』
ーーなんて、素敵な人なんだろう…。
空を見上げる先輩の横顔はとてもキラキラ眩しくて、希望に満ち溢れていた。
先輩はどこまでも強い。
けどそれはただ力が強いだけじゃなくて、心の芯が真っすぐ伸びていて、何者にも屈しない強い意志がある。
雄英のビッグ3と言われる理由は、きっとここに答えがあるんだ。
『……先輩ならきっと、叶えられますよ』
「ありがとう。……ハハッ、何だかしんみりしちゃったね!俺らしくないや!いつまでもクヨクヨしてられないのにさっ!」
『ーーそんなことないです』
「…えっ?」
『先輩はとても強い人です。それに、思い出したって良いじゃないですか。思い出すと言うことは、それだけ通形先輩にとって大切な人だったという証だから…。ナイトアイもきっと嬉しいと思います』
「ーー!、……そうだね。ありがとう、名前ちゃん」
先輩はそう言って、優しく私に微笑んでくれた。