第17話
お名前は?
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居間に案内されて障子戸を開ければ、私達の他にもう1人知らない男の人が大きなローテーブルの前に座り込んでいた。
男の人は轟くんに気付くと、軽く右手を上げて微笑む。
「よっ。久しぶり焦凍。元気そうじゃん」
「
「姉ちゃんにどうしてもって頼まれたの。俺の意志じゃないよ」
ってことは、轟くんのお兄さん…!?
私は慌てて轟くんの後ろから体を出して会釈をした。
『あ、あのっ、初めまして…!轟くんと仲良くさせてもらってます、苗字 名前です!今日は急にお邪魔してしまってすみません…!』
「えっ…?」
『…?』
顔を上げると、何故かお兄さんは口を半開きにしながら目を丸くして固まっている。
明らかに私を見て驚いてる様子だった。
お兄さんは数回瞬きを繰り返すと、かなり動揺した様子で慌てだす。
「女の子だったのッ!? 焦凍の友達だって聞いてたからてっきり男だと…っ、そう言うことなら先に言っといてよ!」
「そう言うことって何だ?」
「誤魔化さなくいいって!分かってるからさ!」
『えっ…?あの…どういう意味ですか…?』
何かスゴく誤解されてる様な気がする…。
もしかしてーーー
「あれ?…焦凍の彼女じゃないの?」
ーーやっぱり…!!
『ち、ちち違いますっ!私達はーー』
「えぇ~!? 違うのぉ~!?」
『!!』
突然背後から残念そうに嘆く声が聞こえて振り返れば、お盆に美味しそうなお蕎麦を乗せた轟くんのお姉さんが眉を八の字にして立っていた。
…どうやらこれは詳しく説明をする必要がありそうだ。
「ーー焦凍の幼馴染だったんだ!やだっ、私ったら早とちりしちゃった」
「俺も焦凍が初めて女の子連れて来たから勘違いしたよ…ゴメン」
『い、いえ…』
私は轟くんとの関係性を簡単に説明した。もちろん、轟くんが私を好きでいてくれる事は言わずに…。
チラリと隣に座る轟くんを横目に見る。
轟くんは特に何も言わずに黙々と用意された蕎麦を啜っていた。
「こんな可愛い彼女さんだったら、私いつでも大歓迎なんだけどなぁ~。ねぇ、焦凍!今好きな人いないの?」
『…!』
心臓がドクンと大きく跳ねた。
思わず轟くんの横顔を凝視すると、涼しい顔で蕎麦を一啜りしてからチラッと私を見る。
その一瞬
「………教えねぇ」
「えぇ~!教えてよぉ~!」
「…夏兄は彼女いないの?」
「オ、オイオイッ!!? 何でいきなり俺に振るんだよッ…!?」
…さ、さすがに轟くんも自分の兄弟には言えないよね?
ふぅ…ビックリした…。
「それより俺、ずっと気になってたんだけどさ…」
「なつ…?」
急にお兄さんの声色が変わり顔を向けると、神妙な顔をしたお兄さんと目が合った。
「…名前さんは、何であいつに会いに来たの?」
『…!』
あいつ…。
もちろんそれが誰の事かなんて、さすがの私でも聞き返すほど
私はお兄さんの目を真っ直ぐに見つめる。
その目つきを私はよく知っていた。
最初の頃に轟くんが他人に向けていたあの、
ーー氷の様な冷たい眼差し…。
私は静かに、けど力強く言葉を紡いだ。
『…エンデヴァーには昔、命を救ってもらった恩があるんです。今の私があるのは、エンデヴァーのおかげなんです』
「……」
『だから、もう一度会ってあの時救ってもらった感謝を伝えたいのと、今回の件でエンデヴァーに直接言いたいことがあるんです。だから…会いに来ました!』
「名前さん…」
「……」
「……ふぅん。あいつにも感謝されるようなとこあったんだ。信じらんねー」
「ちょっと夏、そんな言い方っ…!せっかく名前さんがお父さんに会いに来て下さってるのに…!」
「……ごめん」
『あっ…い、いいんです!気にしないで下さい…!』
「ごめんね…?ささっ、遠慮せずお蕎麦食べてね…!」
『は、はい…。いただきます…』
お姉さんは取り繕う様にお蕎麦を
静かな空間だと余計に蕎麦が啜りづらい。
「お、お父さんまだかなー?もう少しで着く予定なんだけど…道混んでるのかなぁ?」
必死に場を取り繕おうとするお姉さんに何だか申し訳なくなって、少し気持ちを切り替えようと思い、特に用もないけどトイレを借りようと立ち上がる。
『すみません、お手洗いお借りしても良いですか…?』
「あ、どうぞ!場所分かるかな?そこ出て左に曲がって真っ直ぐ行けばトイレなんだけど…」
『分かりました!ちょっと失礼します』
私は言われた通りに廊下を進んで行き、その場を後にした。
『ふぅ…。ちょっと、ビックリしたな…』
先程の事を思い出し、少しショックを受ける。
エンデヴァーを恨んでいるのは、てっきり轟くんだけだと思い込んでいた。
一緒に暮らして来たのなら、その兄弟だって同じように感化されるのは当然か…。
今回の事をきっかけに、もしかしたらエンデヴァーに対する気持ちが良い方向に変わるかもしれないと思っていたけど…現実はそう甘くないのかもしれない。
家庭の事情って…色々あるもんね…。
私みたいな部外者がそれを変えれるかもって考えてる時点でおこがましい話しだ…。
ふとトイレの鏡に映る自分を見つめる。
何だか少し疲れた顔をしていた。
気合いを入れようとパシッと軽く両頬を叩く。
落ち込んでちゃダメだ…!
もうすぐエンデヴァーに会えるんだから、ちゃんと自分の気持ちを伝えないと…!
『よしっ…!』
気持ちを切り替えた私は、来た場所を戻り障子戸を開ける。
『ありがとうございましーーー…あれ?』
しかしそこにお姉さんや轟くんの姿はなく、薄暗い部屋にただガランとした和室の空間が広がっているだけだった。そしてすぐに自分が部屋を間違えた事に気付く。
何やってんの私!
こっちの方じゃなくてあっちから来てたじゃん!
自分の方向音痴加減に呆れるよ…。
部屋を離れようとした瞬間、ふわりと漂う懐かしい匂いに気が付き、思わず足を止める。
ふと視線を横に流すと、部屋の右端手前に "それ" はあった。
『ーーえっ…?』
見た瞬間言葉を失う。
…そこには重厚感のある立派な仏壇が置かれていた。懐かしい匂いは、まさしくそこから漂う線香の香りだったのだ。
そして自然と目に入ってしまう仏壇に飾られた写真立て。そこに写っている人物は、私よりも年下であろう…まだあどけなさの残る幼い顔立ちをした少年だった。
これって……
轟くんの…兄弟…?
誰か亡くなってるの…!?