「昨日のビルボードヤバかったよな！ホークス超煽ってたし」

「ホークスもだけど、エンデヴァーもヤバくね⁉︎ あの一言は渋いわ！」

『……』

「……」



…き、気まずいっ！
どこもかしくも昨日のビルボードの話題で盛り上がってる…！！



せっかくエンデヴァーの話題はしないように気をつけていたのに、食堂では、周囲から嫌でも昨日のビルボードの話題が耳に入ってくる。
聞かない様にと意識すればする程、何故か鮮明に聴こえてくるから困ったものだ。

私はチラリと轟くんの顔色を確認すると、気にした様子もなく蕎麦を啜（すす）ってるように見えたけど、その目はボーっと一点を見つめていた。



な、何か別の話題を…！！



『いやぁ〜最近だいぶ冷えて来たね！轟くん、冬でもざる蕎麦なんだね⁉︎』

「……そうだな」

『……』

「……」



空気が…、重いッ！！
会話が続かない！！



『…え、えっとぉ…』

「いいよ。気ィ遣わなくて」

『えっ…？』


話題を変えようと必死に頭を捻（ひね）っていると、私の考えを見透かした様に轟くんは突然そう言って私を止める。


「…悪ィ、変に気ィ遣わせて…。お前だってホントは親父の話してぇよな」

『い、いや、そういうつもりじゃ…！』


慌てて否定しようとするけど、言われた事は間違ってはいなくて、すぐに言葉に詰まってしまう。
こういう時、気の利いた言葉が出て来ない自分が嫌になる。

轟くんは静かな口調で話し始めた。


「…昨日のビルボードは世間で注目されてたと思う。オールマイトのいない…実質、奴がNo.1になった日だからな。どんなもんか、本当にNo.1に相応しいのか……見てやろうって奴は多かったと思う」

『……』

「だから、俺も気になってずっと見てた」

『えっ⁉︎ 轟くんも…？』


意外な言葉に驚く。
てっきりNo.1になったエンデヴァーの姿は、あまり視界に入れたくないのかと思っていたから。


「…仮免補講の時に、奴に言われたんだ。"俺が胸を張れるような、最も偉大なNo.1ヒーローになろう" って…」

『…エンデヴァーが…?』

「あぁ。だからアイツがどんな風に変わるのかこの目で確かめてやろうって…思ったんだ」

『…轟くん…』



あぁ…なんだ…。
私が心配する必要なんてない。
轟くんはちゃんと前に進もうとしてるじゃないか…。

それに、轟くんだけじゃない。
エンデヴァーも過去を償おうとしているんだ。

こうして2人が少しずつ歩み寄って、色々話したり、笑いあったり…今まで出来なかった普通の事が出来るようになれば嬉しいな。

人はいついなくなってしまうか分からない。
明日も同じ様に過ごせるとは限らないから…。

だから、日々を後悔しないように
大切に過ごして欲しいーー。





ーーー✴︎✴︎✴︎





『はぁ…はぁ…、ランニング終了』


その日の放課後もトレーニングに勤（いそ）しんでいた。
いつもより少し長めに走ったので、息切れした体を休ませるために、木の幹に背中を預けてしゃがみ込む。



修復…使わないと…。



まぶたを閉じたまま自分の胸に手を当てる。
そのまま力を使うとすぐに息苦しさは消えて体が軽くなって行く。私は癒される感覚の心地良さに浸っていた。



何だか眠たくなって来ちゃった…。
…ちょっと休憩して、また頑張ろう。



いつも頑張ってるんだし、少しくらい良いよね…。
そんな風に思い、私はそのまま襲ってくる睡魔に身を委（ゆだ）ねたーー…。















ん…、あれ…？

ここは…どこ？



まどろむ意識の中、私はぼーっと周囲を見渡す。
そこはやけに荒れ果てた広大な大地が目の前に広がっていた。もちろん全く見覚えなんてない光景だ。



何で私…こんな所に…？
学校で眠ってたはずじゃ…みんなはどこにいるの？



私以外に誰もいないと思っていたら、その中央にポツンと誰かが立ち尽くしているのに気が付いた。距離は結構離れていたけれど、何故かそのシルエットは見慣れた佇まいで、私はもっと良く見ようと目を凝らす。



えっ…？
あれは…エンデヴァー⁉︎



見間違うこと無くそれはエンデヴァーで、普段ならすぐに高揚感で胸が高まるのに、私はその姿を見て血の気が引いて行くの感じた。

何故なら…その体は傷付いてボロボロになっていたからだ。誰にやられたのか、コスチュームも至る所が傷付いて血が滲み、青い生地がまだら模様に赤く染まっていく。

エンデヴァーは苦悶の表情を浮かべながら肩で息をしている。見るからに弱りきっていて、今にも倒れそうだ。

思わずエンデヴァーの名前を叫ぼうとするけど、何故か声が出ない。一生懸命叫ぼうとするのに、喉からはくぐもった声が漏れるだけだった。



エンデヴァー！！
どうしてっ…、一体誰にッ⁉︎



「ククク…、最高だ…！」

『ーーッ⁉︎』


突然背後から聞こえる笑い声に顔を向け、絶句する。
そこにいたのは、林間合宿の時に私達を襲って来た敵連合の1人ーー…荼毘だった。

思わず恐怖で固まっていると、荼毘はチラリと私に視線を向け、至極楽しそうに口元を歪ませる。


「お前のせいでーー…奴は死ぬ」

『!?』




ーー…えっ…？





ーー私のせいで…エンデヴァーが…？





言われた意味が分からず私は混乱する。
どう言う意味だと問いただしたいのに、声が出ない。
荼毘はそんな私を見つめ、嘲笑うように喉奥で笑うと、継ぎ接ぎだらけのその手をエンデヴァーへと向けた。



ーーやめて…



「消し炭になれ」


青い高熱の炎が手の平から噴出されると、凄まじい勢いでエンデヴァーに襲いかかる。



ーーやめてッ！！



灼熱の炎がエンデヴァーを飲み込む瞬間、私は塞がった喉奥であらん限りの力を振り絞り叫んだ。



『嫌ぁあァァーーー！！！』