第17話
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その後、マンダレイ達の話を聞く事によると、どうやら復帰のあいさつをするために今回雄英に来てくれたそうだ。けれど、まだラグドールの "個性" は戻っていないようで、今後は事務仕事で3人をサポートする側に回るらしい。
その状態で何故復帰なのかと言うと、毎年やっているヒーロービルボードチャートJPで411位であったことで、待ってる人や応援してくれている人がいるから、その期待に応えるべく今回の復帰に至ったそうだ。
「そう言えば、下半期まだ発表されてなかったもんね」
「色々あったからな」
「オールマイトのいないビルボードチャートかァ…どうなってるんだろう、楽しみだな」
芦戸さんや尾白くんが達が興味ありげに会話している姿を見て、私もふと今回のビルボードチャートについて考える。
ヒーロービルボードチャートJP…。
毎年人々に笑顔と平和をもたらした者だけが上位に名を刻める現役番付。もちろん私も毎年欠かさず観ていたから、いつも上位に君臨しているヒーローは大体は把握している。
ただ、今回はオールマイトがいない…。
いつも不動の1位をキープしていたのはオールマイトだった。平和の象徴と言われるだけあって、彼の人気は底知れず、支持率も他とは軍を抜いて飛び抜けていた。
そして、いつもその横で悔しそうな顔でその瞳に闘志を燃やしていた人を、私は知っている。
だって、ずっと憧れ続けていた人だから…。
ーーエンデヴァー…。今年のビルボードはきっと…。
チラリと視線を泳がせ、少し離れた位置で佇む轟くんを視界に捉える。その表情は何かを考え込んでいるのか、浮かない顔をしている様に見えた。
轟くんも、エンデヴァーのこと考えてるのかな…?
轟くんから家庭の事情を聞いてからは、自分からエンデヴァーの話しをするのは控えていた。事情が事情なだけに、他人の家庭に首を突っ込むのは、やっぱり気がはばかれるから。
それでも、少しずつ歩み寄ろうとしている轟くんの姿が嬉しくて、陰ながら見守っていたのだけれど…。
このランキングでまた何かが変わるきっかけになれば良いな…。
少しでも良い方向にーー…そんな風に思った。
ーーー✴︎✴︎✴︎
《平和の象徴オールマイトが事実上の引退に追い込まれた神野事件以降、初めてのビルボードチャート!!その意味の大きさは、誰もが知るところであります!!》
『始まった…!今年のビルボードチャート…!』
私は寮の自室のテレビで生中継されている映像を食い入る様に観ていた。いつもより緊張感が漂い、思わず握った拳に力が籠る。
何故なら、今まで発表の場にヒーローが登壇することが無かったからだ。初めての形式に、私の心は興奮と期待が入り混じり、高揚感に満ち溢れていた。
《ーーご覧下さい!!》
『!』
リポーターが言い終わると同時に、カメラがステージへと向けられる。すると盛大なBGMと共に、次々とランクインしたヒーロー達がスポットライトを浴びながらステージへと並び立って行く。
『…大体は去年と変わらないかな…。みんな凄い人気があるヒーローばっかりだもんね』
《今回、神野事件に関わったヒーロー達の支持率が軒並み上がっています!》
『神野事件…か』
やっぱりあの日の出来事は、みんなの記憶に強く残ってるんだろうな…。
私が病院で気を失っていたあの瞬間、歴史に残る程の激戦があった。
オールマイト…あなたの最後の戦いをこの目に焼き付けたかった…。
今でもその事だけが悔やまれる。
けど、今こうして平和が保たれているのは、あなたが命懸けで私達を守ってくれたから…!
そして、次に平和の象徴を引き継ぐのはーーー
《暫定の1位から今日、改めて正真正銘、No.1の座へ!長かった!!フレイムヒーロー、エンデヴァー!!》
ゆっくりと壇上に上がるのは、私がこの世で1番尊敬し、憧れている人だ。私は画面の奥に映るその人を目に焼き付ける。
最後にエンデヴァーを見たのは体育祭の時以来だった。
どことなく、あの時よりも目つきが変わった気がする…。
あの時は目の奥に野心が宿っていたけれど、今は何か別の…No.1として背負うべき重さを感じているような…。
『…エンデヴァー…!』
あなたならきっと、No.1に相応しい存在になれます…!
必ずっ…!絶対に!!
《ーーそれでは、お一人ずつコメントを!》
テレビの奥では、ヒーローが順番にコメントをしていく映像が流れている。謙虚なモノだったり、当たり障りない言葉だったり、一部良く分からなかったり…など、滞りなく進んで行く様子をじっと眺めていた。
《数字に頓着はない。結果として多くの支持率をいただいたことは感謝しているが、名声のために活動しているのではない。安寧をもたらすことが本質だと考えている》
『…名声ではなく安寧、か…』
エッジショットのコメントを聞きながらそう呟くと、突如呆れた様な声が会場に響き渡った。
《それ聞いて誰が喜びます?ステインくらい?》
『へっ…?』
予想だにしない言葉に、私のような反応をした人は多分多いと思う。
驚きながら今の発言をした人物へと注目すると、そこには退屈そうに佇むNo.2ーー…ホークスがいた。
な、何急に…っ⁉︎
えっ…、ホークスってこんなカンジの人だっけ⁉︎
ホークスの発言に会場の凍りついた空気が画面越しからでも伝わってくる。当の本人はそんな様子に構うことなく、司会の人のマイクを奪い取ると、真っ赤な翼を広げて優雅に羽ばたかせながら宙に浮く。
そして余裕ある笑みを浮かべながら、会場のみんなを見下ろした。
《えーと?支持率だけでいうと、ベストジーニストさん、休止による応援ブーストかかって1位。2位が俺、3位がエッジショットさん、で、4位がエンデヴァーさん。支持率って、俺は今一番大事な数字だと思ってるんですけど》
みんな呆気に取られた表情でホークスを見上げている。
もちろん、私も。
固まったみんなを眺めながら、ホークスは
《過ぎたこと引きずってる場合ですか。やること変えなくていいんですか》
煽るような口調でホークスは壇上にいるヒーロー達に言葉を投げかける。それは先程そうコメントを残したヒーロー達に向けて言ってるのだろう。
《象徴はもういない。"節目" のこの日に、俺より成果の出ていない人たちがなァにを安パイ切ってンですか!もっとヒーローらしいこと言ってくださいよ》
『…!!』
めちゃくちゃ煽ってる…けど、言ってる事は間違ってはいない気がする。
これからはオールマイトのいない新時代がやって来る…今のままではいけないと言うのも分かるんだよね…。
《俺は以上です》
ホークスは自分から潔く切り上げると、空中からエンデヴァーの元へと急降下し、マイクを差し出す。
《さァ、お次どうぞ。支持率俺以下No.1》
相変わらず挑発してくるホークスの手からマイクを強引に奪い取ると、エンデヴァーはキツくホークスを睨みつける。
私は一発触発のムードにハラハラしながらも、エンデヴァーの発言に注目していた。
《…若輩に、こうも煽られた以上多くは語らん》
『……』
じっと画面を見つめれば、その奥に映る力強い眼差しをしたエンデヴァーと、目が合った。
《ーー俺を、見ていてくれ》
『…エンデヴァー…』
まるで画面を飛び越えて、直接私に語りかけられている様な錯覚を覚え、ブルッと魂が震えた。
それに、その発言に私は意表を突かれていた。
今まで万年No.2と言われ続けていた彼は、ずっとNo.1を目指していた。オールマイトを超えるヒーローになろうとしていた事も知っている……けど、もうそのオールマイトはいない。
実質No.1となった今、エンデヴァーの中で何かが変わろうとしているのかもしれない。
そうだ…!エンデヴァーもきっと自分の中で葛藤して、自身を変え様と努力してるんだ!
だったら、私がやるべきことはいつもと変わらない!
『見てますよ…!これからも、ずっと…っ!!』