第16話
お名前は?
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『やった、出口だ…!』
結局2人は私の手を離す事なく最後までいがみ合いながら、何故か3人でゴールすると言う、よく分からない状況になっていた。
『…と、取り敢えず出れて良かったね2人とも!』
私は2人に振り返ると、相変わらずお互い怖い顔して睨み合っていた。
「何でお前も最後まで付いて来るんだ。別に必要なかったろ」
「よく言うよ。俺がいなきゃここまで辿り着けなかったくせに」
まだ言い合ってる⁉︎
もう、どんだけ仲悪いの2人とも…!
呆れ果ててため息をこぼしていると、後ろから明るいトーンで威勢の良い声が聞こえて来た。
「お〜い名前ちゃーん!遊びに来たよ〜!」
『…あっ!通形先輩!』
振り返れば、通形先輩が手を振りながらこちらにやって来る姿が視界に映った。
もちろん、エリちゃんも一緒だ。私に気付くと、少し恥ずかしそうに頬を赤くするけれど、その顔はどこか嬉しそうで、私はニコリと微笑んだ。
『こんにちはエリちゃん!遊びに来てくれたんだね!
…どう?文化祭楽しい?』
「…うんっ!あのね、みんなスゴくキラキラしててね、私もわくわくさんになって、わあぁって言っちゃったの!」
『か…、可愛いっ…!』
「わぁっ⁉︎」
一生懸命に気持ちを伝えようとしてくれてるその姿が可愛い過ぎて、思わずエリちゃんを衝動的に抱き締めてしまった。
「コラコラ名前ちゃん。エリちゃんがビックリした顔してるよ?」
『ご、ごめんなさいっ!可愛すぎて思わず…』
「気持ちは分かるんだよね!けど君が男の子だったら、俺もうエリちゃんに近付けさせなかったと思うよ!」
『先輩…笑顔が怖いです…』
何だかすっかり先輩はエリちゃんの保護者的な存在になっているらしい。更に言うなら男親感覚?
こんなに可愛い子なら、悪いムシがつかない様に見張っちゃうのも分かるかも…。
でも、エリちゃん文化祭を楽しんでくれていて、本当に良かった!
「ところで…俺、もしかしてお邪魔虫だったかな?」
『えっ⁉︎ な、何でですか?』
「あの子達、君の友達だろ?さっきからスゴく睨まれてる気がするんだよね!」
『ーー⁉︎』
先輩が指差す方向にいたのは、ジト目になってコチラを見つめる轟くんと心操くんの姿だった。
『き、気にしないで下さいっ!2人は元々そりが合わないと言いますか、今日は特に機嫌が悪くてーー』
「ほぉ…。俺に嫉妬って事かな」
『はい…?』
通形先輩は私に聞こえない声でボソリと何かを呟くと、ニンマリ顔で私を見つめた。
「君も中々の人気者なんだね!きっと苦労するよ?」
『えっ?』
困惑する私に先輩は何も答えず、ただニッと歯を見せて笑う。そして突然しゃがみ込むと、エリちゃんの耳元に口を寄せてヒソヒソ声で何かを伝えている様子。
エリちゃんはコクリと小さく頷くと、轟くん達に少しだけ詰め寄り、小さく口を開いた。
「ケンカは止めて…。みんな仲良くしよう…?」
「「!!」」
『エ、エリちゃん…』
子どもに注意される高校生…!!
み、惨めだ…。
言わされてるとはいえ、自分より小さな子どもに言われるのは中々に精神的に来るモノがある。
さすがに轟くんと心操くんも、何だか気まずそうに顔を伏せていた。
「カワイイは世界を救うのさ!」
『は…、ははは…』
思わず乾いた笑いがこぼれた。
…そんな感じで、取り敢えずエリちゃんの一言によって、その場はうまく収まったのでした。
ーーー✴︎✴︎✴︎
《名残惜しいがそろそろお別れの時間だ!思う存分ハメ外せたか⁉︎ 後片付けは最後まで責任持ってやれよ?そんじゃ雄英文化祭、これにてーーー…閉 幕!!!》
日が暮れてすっかり夕焼け空になった雄英に、マイク先生の終わりのあいさつが響いた。
始まりとは打って変わって、なんだかとてもしんみりした気持ちになってしまう。
みんなで後片付けをしながら教室を出ると、ふと廊下にある大きなガラス窓の外に視線を向けた。
鮮やかに彩られた装飾は撤去され、たくさん立ち並んでいた模擬店も小さく解体されて行く。
あぁ…。
あんなに賑やかだった空間がもうなくなっちゃうのか…。何だか夢の様な時間だったなぁ。
そんな風に感傷的に浸っていると、後ろから平坦な声で呼びかけられた。
「オイ。手止まってるぞ」
『…心操くん…』
「早くコッチの荷物をーー」
『ねぇ心操くん』
「…何?」
『文化祭、楽しかったね』
すっかり綺麗にメイクを落とした心操くんの顔をじっと見つめながら微笑むと、何だか
「何泣きそうな顔してんの」
『…っ!』
言われてビックリする。笑っていたつもりなのに、どうやら心操くんには悲しく見えたみたいだ。
自分でも気付かない内に、気持ちが顔に出ていたのだろうか。
心操くんはそんな私を見て、ハァ…と短い息を吐いた。
「お前の事だから、どーせ終わって欲しくなかったとかそんな理由だろ」
『……うん、そうだね…』
やっぱり彼には全てお見通しのようだ。
私はポツリ、ポツリと言葉を紡ぐ。
『すごく楽し過ぎて、終わっちゃうのがもったいなくて…。みんなが幸せそうに笑ってる顔が、ずっと…ずっと続いて欲しいなって…』
今まで雄英は何度も辛い目に遭って来たから、この日が来るまでみんな心の底から笑えていなかったと思う。
だけど今日は、道ゆく人みんなが笑顔に満ち溢れていた。それが凄く嬉しくて、何だか心が満たされたみたいで、幸せな気持ちになれたんだ…。
『だから、無くなっちゃうのが何だかさみしくてーー』
「最後みたいに言うなよ」
『…!』
「また来年もあるだろ。再来年だってある。その時にまた同じ様に笑えるよ。まだこれで終わりじゃない」
『うん…っ!あははっ、ホントだ!私何で最後みたいに言っちゃったんだろ?』
心操くんの言葉に、さっきまでの辛気臭い気持ちは一気にどこかへ吹っ飛んで行った。
私はニカッと溢れる笑みを浮かべながら言う。
『来年は一緒に "ヒーロー科" で文化祭楽しもうね!』
「…あぁ。当然だ」
きっと来年もまた、一緒に笑っていよう。
雄英のみんなと一緒に…。
第16話 おわり