第16話
お名前は?
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『うわぁ〜…どの模擬店も美味しそう!』
「あぁ。良い匂いすんな」
私達は早速入門ゲート奥に立ち並ぶ模擬店へとやって来た。焼きそばやたこ焼きなどの食欲そそるソースの匂いから、綿飴やたい焼きなどの甘い香りが漂い、胃袋を刺激する。
『やっぱり文化祭と言えば模擬店!お腹空いてきたぁ〜』
「そうだな。何食うんだ?」
『う〜ん迷うなぁ…どれも捨てがたいけど……あっ!
クレープがある!』
「クレープ?」
『うんっ!私クレープ好きなの!轟くんはどうする?』
「じゃあ俺もそれにする」
私達はクレープ屋さんに行くと、メニュー表を見る。
轟くんは少し慣れない様子で「お前と同じやつで良い」と言って、2人でお揃いのクレープを頼んだ。
『わぁ!美味しそうっ!』
お店で頼むのと変わらないくらい、見た目も華やかなクレープにテンションが上がる。
轟くんは初めてクレープを見たのか、目をパチクリさせながらマジマジとクレープを見つめていた。
「…すげぇなコレ。どうやって食うんだ?」
『そのままかぶりついちゃえば良いんだよ!』
「かぶりつく…こうか?」
そう言って大きく口を開けると、パクッと勢いよく生地にかぶりついた。
少し膨らむ頬袋が可愛いくて、思わず笑みが溢れる。
「…甘ェ…」
『あははっ。クリームいっぱい入ってるからね!もしかしてクレープ初めて食べた?』
「あぁ。普段、和菓子系が多いからな。こういうのは初めてだ」
『そうなんだ!もしかしてこういうの苦手だったかな?』
こういう可愛い系の食べ物って、男子はあまり食べないのかな?
…確かに轟くんは、ケーキとかクレープを食べるタイプじゃなさそうだもんなぁ…。
すると私の不安を否定するように、轟くんは軽く首を横に振る。
「いや、甘ェけど美味いと思う。それに…」
『それに?』
「名前が好きな物なら、一緒に食ってみてぇって思ったから」
『ーー!!…そ、そっか…!』
別にさっきみたいな公開告白をされた訳じゃないのに、何故かその言葉にときめいている自分がいた。
何で私…こんなドキドキしてるんだろう…?
何だか少し恥ずかしくなって、気を紛らわすために私もクレープにかじりついた。
口一杯にクリームの甘さと、フルーツの甘酸っぱさが広がる。いつもより甘く感じるクレープに何だか幸福感に満たされる感覚がした。
「美味いか?」
『うんっ…甘くて美味しい!』
「そっか。良かったな……あっ」
『ん?』
「クリーム付いてる。口んとこ」
『えっ! ホント⁉︎ ……と、取れた?』
「いや、そっちじゃなくて…コッチ」
そう言いながら轟くんは私の口元へとゆっくり手を伸ばすと、親指でクイッと私の口端を拭う。
そしてそのまま自分の親指に付いたクリームを何のためらいもなくペロリと舐めた。
「…やっぱ甘ェ」
『ーー…ッ!!』
私はその一連の行動に思わず目を見開きながら絶句した。轟くんは驚いて固まる私に視線を向けると、不思議そうに首を傾げる。
「どうした?クレープ食わねぇのか?」
『やっ…今それどころじゃ…』
「?」
食べる食べないの問題じゃないっ!!
というか何で何事もなかったように振る舞うの轟くん⁉︎
無意識⁉ ︎また轟くんの天然が出た⁉︎
今のは間接キスのレベルを超えてるよ…!!
はぁ…。
何だか今日はずっと轟くんにドキドキさせられっぱなしだ…。
ーーこんなの、意識しちゃうに決まってるよ…。
完全に轟くんのペースに乗せられつつも、私達は過ぎゆく時間を目一杯楽しんだ。
ーーー✴︎✴︎✴︎
「ーーもう行くのか?」
『うん…。そろそろ行かないとみんなに迷惑かけちゃうから』
「…そうだな」
楽しい時間はあっという間に過ぎるとは本当だと思う。
轟くんと色々観て回ってる内に、いつの間にかシフト時間がやってきてしまった。
轟くんも何だか名残惜しそうだけど、こればっかりはしょうがないよね…。
「ありがとな。付き合ってくれて」
『こちらこそだよ!凄く楽しかった!』
「そっか。良かった…」
轟くんは嬉しそうに目を細める。私もニコリと笑うと、教室へと歩を進めながら振り返った。
『本当にありがとう!また後で遊びに来てね!』
「おう。必ず行く」
轟くんにしばしの別れを告げて振り返れば、彩られた華やかな雄英と、そこに賑わうたくさんの雄英生のみんなが視界いっぱいに映る。
どの人もみんな笑顔で溢れていて、楽しそうにこの空間を楽しんでいる。それが何だか幸せで、一瞬どこか切なくも感じた。
あぁ…。
文化祭も残り半分か…。
こんなにも楽しい時間がもうすぐ終わちゃうなんて、
何だか少しもったいないよ。
このまま、幸せな時間がずっと続けばいいのにーー…。
…なんて、そんなの無理な事は分かっているけれど。
でも、そう願わずにはいられなかった。