第16話
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『フゥー…材木切るのって結構力いるなぁ』
今日は雄英は土曜日。
なので授業は休みのため、この日は各クラスそれぞれ自分の文化祭の出し物の準備に取り組んでいた。
てっきり教室に飾り付けるだけだと思ってたけど、まさか建物から作るとは…。
気合い入ってるなぁ…!
轟くんに良い物に仕上げるとは言ったし、もちろんそのつもりだけど……その分完成度も高くなるワケで、私は複雑な心境にいた。
まぁ、中に入らなければ問題ないんだけどね。
「えっ⁉︎ すごーい!」
『?』
作業に取り掛かっていると、クラスの女子が驚いたように声を上げるので、思わず釣られて顔をそちらに向ける。視線の先にいたのは、材木を素手で真っ二つに割る心操くんの姿と、それを感心した眼差しで見つめる女子の姿だった。
「こんな硬い材木よく素手で折れるね⁉︎」
「まぁね」
「これもお願いしていい?」
「いいよ。貸して」
「本当⁉︎ ありがとう〜!」
『………』
女子からの頼みを快く引き受ける心操くん。その子も嬉しそうな顔で心操くんに材木を手渡していた。
そんな2人のやり取りを思わず凝視する。
凄いな心操くん…。
そりゃあの子もビックリするよね。
こんな硬い材木簡単にへし折っちゃうし、お願いしても嫌がらずに優しく引き受けてくれてさ…。
私だったら……そんな優しくしてくれないくせにーー
……んっ?
な、何っ…、このモヤモヤした気持ち…?
自分の中に抱いた事のない感情がぐるぐる渦を巻いて戸惑っていると、後ろから明るい声が耳に届いて来た。
「ーーで、ここが普通科だよ!彼らも毎年クオリティの高い出し物を作り出すんだよ!今年も注目だよね!」
「わぁ。みんな精が出るなぁ…!」
『通形先輩っ⁉︎ 緑谷くんも!』
振り返った先に居たのは、相変わらず明るいオーラを放つ通形先輩と、何故かその隣にいる緑谷くん。
2人は私に気付いた様子で手を振ってくれた。
『どうしたんですか⁉︎ 何で普通科にーー』
言いかけている途中で、通形先輩のズボンの端を掴む小さな女の子の存在に気が付いた。
赤いワンピースを着た可愛らしいお人形さんみたいな子だった。目が合った瞬間、女の子は恥ずかしそうに通形先輩の後ろに隠れる。
「この子はエリちゃん。
『ーー!、エリちゃんって…この子が⁉︎』
エリちゃんの存在は前に相澤先生から事情を聞いていて知っていたけれど、姿を見たのはこれが初めてだった。
想像していたよりずっと小さくて、可愛らしい女の子に私は驚く。
『なんて可愛いらしい子なんですか!その服も凄く似合ってる!』
「エヘヘ。そうなんだよね」
「…何で先輩が照れてるんですか」
エリちゃんは恥ずかしいのか、チラリと私を見上げると、またモジモジと俯く。
そんな姿さえ愛らしくて、思わず頬が緩んだ。
「俺今休学中だからさ!時間もあるし、せっかくならエリちゃんに1度雄英を見せてあげようと思って!」
「それで僕も通形先輩に誘われて、一緒に見て回ってるんだ」
『そっか!』
私はエリちゃんの目線が合う様にしゃがみ込むと、驚いて顔を上げるエリちゃんに優しく微笑みかけた。
『雄英は凄い人がたくさんいるよ!今みんな一生懸命、人を楽しませるために頑張ってるの!だからエリちゃんもきっと楽しめるはずだから、文化祭遊びに来てね!』
「……うんっ」
エリちゃんは頬を赤らめながら、小さくコクリと頷いてくれた。
この小さな女の子が、ナイトアイや先輩達が
命を懸けて守った子…。
今まで1人で一体どれほどの孤独や、恐怖を抱えて生きていたんだろう…。
ずっと苦しかったよね。
寂しかったよね。
ーーでもっ…!
雄英はそんな負の感情を吹き飛ばすだけのパワーがある!エリちゃんの心にも、きっと届くはずだ。
人は、本気で頑張る人を見ると、心を動かされるものなんだって…!
『…そう言えば、緑谷くんのクラスは何にするか決まったの?』
「うん。歌とダンスだよ。僕らも今練習中で、中々慣れなくて難しいけど…何とか頑張ってるよ」
『歌とダンスに決まったんだ!』
良かった!
轟くんが言ってた意見無事に通ったんだな…。
『当日絶対に観に行くよ!楽しみにしてるね!』
「うん!ありがとう」
「それじゃあ邪魔してごめんね!俺達はもう行くから、また当日エリちゃんと遊びに行くよ!」
『はいっ!』
私は手を振り3人を見送る。
姿が遠くなった所で作業の続きに取り掛かろうとしてハッとした。
私、エリちゃんに遊びに来てねとか言っちゃったけど、うちのクラス心霊迷宮じゃん!!
子ども泣くやつだよコレ!どうしよう…っ⁉︎
「またヒーロー科と仲良しごっこか?」
『!』
ふいに聞こえてきた声に振り返ると、心操くんが後ろから冷ややかな目でコチラを見つめていた。
「相変わらず群れるのが好きだな」
『そ、そんな言い方しなくてもいいじゃん!みんな良い人だよ?』
「良い人ねぇ…。お前、知らないだろ?今ヒーロー科の主体的な動きに他科が振り回されてるせいで、ヒーロー科に対してストレスを感じてる奴がいること」
『えっ…⁉︎そんな、ヒーロー科だって好きで敵に襲われてるワケじゃないのに…っ!』
そんな風に感じてる人がいる事に驚く。ヒーロー科だって、立派な被害者だ。
それをヒーロー科だけのせいにするのは間違ってる。
「…みんながお前みたいに真っ直ぐな奴ばかりじゃない。少なからず、気に入らない奴はいるんだよ」
『……心操くんも、そう思ってるの?』
恐る恐るそう聞くと、心操くんは感情の読み取れない顔で静かに私を見つめ返す。
「……別に。俺はそこまでじゃないけど。ただ、無関係とはいかないんじゃねーの?」
『そっか…』
確かに敵と直接関わる機会が多いのはヒーロー科だ。
だから雄英はヒーロー科を守るために全寮制を導入したり、文化祭も被害が及ばない様に今年は学内だけで行う。
全てはヒーロー科中心になって判断される。
確かにそうなのかもしれない……でもーー
『あのね、轟くんが言ってたの。みんなを楽しませる場所を提供したいって…』
「轟が…?」
『うん。それって、私達の事を考えてくれてるって事だよね?ヒーロー科も思ってるんだよ。自分達のせいで、みんなに迷惑をかけてしまってるって…』
「……」
『だからみんな私達のために頑張って良い物に仕上げようとしてる。私は、そんなみんなが一生懸命作り上げたモノを純粋に観てみたい!観て、楽しみたい!』
だってせっかくの文化祭だ。
今まで散々雄英は辛い目に遭って来た。
この日くらい、日々を忘れてみんなで一緒に盛り上がったって良いじゃないか。
『…それじゃあ、ダメなのかな?』
そう言って心操くんを見つめると、何処となく複雑そうな顔で眉間に皺を寄せていた。
「良いんじゃないの?そう言う考え方も。……ただ、」
『ただ?』
「腹は立つけど」
『えっ…?』
サラッと言われた一言に驚いていると、心操くんはそれ以上は何も言わずに自分の作業へと戻って行った。
私は呆然とその場に立ち尽くす。
……心操くんは、私がヒーロー科の人達と仲良くするのが嫌なのだろうか。
今までもそんな風な言動あったよね?
やっぱり、目指すべき人達だから仲良くするって気持ちより、超えたい相手って言う認識の方が強いんだろうな。だから私が仲良くしてるのが気に食わないのか…。
でも、みんなヒーローを目指してるっていう点では同じ仲間なのにな…。
何て考えてる私は、やっぱり甘い考えなのだろうか。
そんな事を考えながら軽くため息を吐くと、私も自分の作業へと戻った。