第16話
お名前は?
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教室を出てから食堂まで急いで向かうと、相変わらず食堂は大盛況でたくさんの人が出入りしている。
そんな人混みの中でも、じっと佇む目立つ髪色のおかげで、すぐに轟くんを見つける事が出来た。
『轟くーん!』
「!」
そのまま駆け寄りながら声を掛けると、私の存在に気付いた轟くんが顔を上げて、優しい眼差しを向けてくれる。
『ごめんね!ちょっと待たせちゃったみたいで…』
「大丈夫だ。お前待つの、嫌いじゃねぇから」
『…!』
ま、また…そんなサラリと息を吐くように…!そんな風に言われちゃうとまた変に意識しちゃうよ…!
『と、取り敢えず、行こっか!お腹空いちゃった』
「あぁ。そうだな」
何とかその場は取り繕いながら、私達はいつも通りお気に入りのメニューを注文して向かい合う形で席に着く。
他愛ない話しをしながら食べ進めていると、話の内容は自然と文化祭の出し物についてになった。
『ーーじゃあ轟くんのクラスはまだ決まってないんだ?』
「あぁ。明日の朝までに決めねぇと、公開座学になるそうだ」
『公開座学⁉︎ だ、誰がそんな酷い事を…っ!』
「相澤先生」
『あぁ…なるほど』
相澤先生の名前が出た途端、妙に納得してしまった。
相変わらず手厳しいな先生は…。
けど、いくら何でも公開座学は可哀想では?
「名前のクラスは何するか決まったのか?」
『……う、うん……一応…ね……』
「どうした?元気ねぇな」
明らかに声のトーンが下がった私を心配した様子で轟くんは声を掛けてくれる。
私は声を震わせながら力無く呟いた。
『……心霊迷宮って言う…お化け屋敷的なやつなの…』
「へぇ…そうなのか。何か不満なのか?」
『不満も不満!大不満だよっ!』
「!」
勢いよく声を荒げる私に少し驚いた様子で、轟くんは目を丸くする。
けどそれどころじゃない私は、抑えていた不満を止められずに、ありのまま轟くんにぶつけた。
『だいたい多数決っていうのが納得行かないよ!苦手な人もいるって事を無視してるワケだし、強制的だもん!』
「…怖ェの苦手なのか?」
『うん…。本当は喫茶店っぽいのとか、歌とかダンスとか、みんなが和気あいあいと楽しめる感じの事したかったのに…っ』
「……みんなが楽しめること……」
何でよりによって心霊迷宮になっちゃったんだろ…。
それ以外だったら何だって良かったのに。
世の中ホントに不公平だ。
「…なるほど。アリだなそれ」
『エッ⁉︎ ナシだよ!!』
「いや、そうじゃなくて」
『へっ?』
話が噛み合わず混乱する私に、轟くんは落ち着いた口調で話してくれる。
「人を楽しませるってやつ。言われてそうだと思った。俺も仮免補講の時に教わったんだ。どうやって周りを楽しませられるか、どう魅せるかって」
『…えっ⁉︎ 仮免補講ってそんなエンタメみたいな事も教わるの?』
「あぁ。ませた子ども達と心を通わせる試練だった」
何それッ⁉︎
そんな試練あるの⁉︎
何か想像していたカンジと全然違った…!
『す、凄いね…。色んな角度から学ぶんだね』
「最初は結構キツかった」
『だよね…?何となく苦戦してる姿が想像つくよ』
特に爆豪くんなんか1番その試練に向いてないでしょ⁉︎
"クソガキどもー!" って怒鳴ってる姿とか容易に想像出来るもん!
あっ…なるほど!
だから足りない部分を補う試練なのか。
考えつくされてるなぁ〜…。
なんて感心させられていると、轟くんは何かを納得した様にコクリと小さく頷く。
「みんなを楽しませる場所を提供するって事だと、歌とかダンスいいかもしれねぇ…。今日寮に戻ったら1度みんなに相談してみる」
『あ、うん!今日中に決まるといいね』
「あぁ。助かった」
どうやら話しの内容から方向性を見つけられたみたいだ。これで公開座学は免れそうかな?
…ってことは、もし決まったら歌とかダンスになるのかな?
いいなぁ〜…。
私もそっちが良かった…。
「…名前なら大丈夫だ」
『えっ…?』
少しだけ羨ましく思いながら深いため息を吐いていると、そんな私に気付いた様子で轟くんは優しい口調で話してくれる。
「どんなに嫌な事でも、お前はみんなのためにちゃんとやるだろ?」
『…!』
「みんなが楽しんでるなら、きっと最後までやり遂げられる。だから大丈夫だ」
『……うん。そうだね』
優しい轟くんの言葉に何だか勇気が湧いてくる。そうだ。この文化祭は私達他科が主役となる晴れ舞台だ。
だからみんなが良い物にしようと、精一杯取り組んで頑張ろうとしている。私がこんな気持ちじゃみんなに失礼だよね…!
『私、頑張るよっ!轟くんも当日遊びに来てね!めちゃくちゃ良い物に仕上げるから!』
「おう。必ず行く」
先程までの暗い気持ちは吹っ飛び、私はやる気が満ち溢れる思いで、1ヶ月後の文化祭に向けて精一杯取り組もうと意気込むのだった。