第15話
お名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
しばらくして落ち着きを取り戻した私は、相澤先生から今回の事件の詳細を聞かされた。
今回秘密裏に調査されていた死穢ハ斎會という指定敵団体の若頭、治崎と言う男を追っていた事。
そしてそこに囚われていたエリちゃんと言う小さな女の子を保護するために、今回この様な事態になった事。
そして、1番驚いたのは……その少女の "個性" が "巻き戻す" と言う突然変異で発動した力で、治崎はその少女の血を使って個性を破壊する弾丸を創り、その弾丸を通形先輩に撃ち込まれたと言う衝撃の事実を聞かされた。
『ーーじゃあ、通形先輩の個性は破壊されたと言う事ですかっ⁉︎』
「…そう言う事になる」
『そんなっ…!』
どうして先輩ばっかりこんな辛い目に…!
ギリッ…と奥歯を噛み締めて悔しさを押し殺していると、ふと頭の中に1つの考えが
『…待って下さい…それって、私の "個性" で治せませんか⁉︎』
「あぁ。俺もそれを考えていた。やってみる価値はあるだろう」
『やりましょう!今すぐに!』
一筋の希望を胸に、私達は急いで通形先輩の元へ向かう。
お願い。
お願いだから…!
ーーもうこれ以上、先輩から何も奪わないでっ!
『……どう、ですか?』
「……」
私達は先輩に事情を説明してすぐに力を使って試してみた。反応を伺おうと、緊張した面持ちで通形先輩を見つめる。
…さっきまで泣いていたのだろう。
先輩の瞳にはまだ潤いがあり、頬には涙の乾いた跡が残っていた。
それに、目と鼻も赤い。
そのままじっと見つめていると、先輩は眉間にしわを寄せて難しい表情をする。
「……ダメ、みたいだ…」
『ーーっ…!』
それは絶望的な答えだった。
暗闇でほんの少し見えていた希望の光は、いとも簡単に崩れ去る。
私の "個性" が効かないなんて…⁉︎
もう通形先輩の一部として、体に溶け込んでしまってるって言う事なの…?
「ごめんね…」
申し訳なさそうに謝る先輩に胸が張り裂けそうになる。
『謝らないで下さい…。先輩は、何も悪くないじゃないですか…っ』
そうだ…。
先輩が何をしたって言うんだ。
ただ1人の少女を救けるために、必死に戦っただけなのに…こんな仕打ちあんまりだよ!!
「やはり難しいか…。苗字も気に病むな。コイツは遺伝子レベルにまで精密に組み込まれている代物だ。どうやら一筋縄ではいかんようだな…」
『何か、他に方法は…』
「…実は、もう1つ考えがある。あの子の "個性" を使う事だ」
『!』
「エリちゃんの…?」
そうか…!
エリちゃんは確かーー。
「あの子の "個性" は "巻き戻し" だ。今後上手く個性を扱える様になったら、元の状態に戻してもらえないか頼んでみる。それでも無理なら、元通りになれるよう色々やってみる……だから安心しろ」
「イレイザーヘッド…っ」
先輩は先生の言葉に目を潤ませて、唇を噛み締めた。
その姿を見つめていた先生は、今度は私へと顔を向ける。
「苗字も今回急だったが、来てくれてありがとう。辛い現場だったろうが、おかげで助かった。後は俺たちで何とかするから、お前はもう雄英に戻っていいぞ」
『…いえっ、まだ怪我した人がいるなら私もーー』
「無理するな。…それ、あまり無茶出来ないんだろ?」
『ーー!』
相澤先生は私の左手に注目する。
そこには発目さんに作ってもらったサポートアイテムがあった。チラリと確認すると、指針は "グレーゾーン" を指している。
「お前はもう充分役目を果たしてる。初めての現場にしては上出来だった。今日はゆっくり休んで、また明日から頑張ればいい」
そう言って、相澤先生はスラリとした長い指で優しく私の頭を撫でてくれる。あたたかい手の感触に、疲弊しきっていた心が少しだけ癒される感覚がした。
『分かりました…。今日はこのまま帰ります』
「あぁ。気を付けてな」
「名前ちゃん…」
『…!』
扉に手を掛けようとすると、後ろから通形先輩に呼び止められ振り返る。
先輩は少し憂いを帯びた眼差しで、私に優しく微笑みかけてくれた。
「心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だよ。
……サー、最期に言ってくれたんだ。"お前は誰より立派なヒーローになってる" って」
『ナイトアイが…?』
「サーの予知は良く当たるんだぜ!だから、絶対大丈夫!お互いに前を向いて、笑っていようぜ…!」
『先輩っ…』
1番辛いはずの先輩が、私を心配かけないように励ましてくれるなんてーー…。
私は涙目になりながらも、涙は溢さずに精一杯の笑顔を先輩に向ける。
『雄英で待ってます…!』
ーーー✴︎✴︎✴︎
ーーその後。
先輩は雄英を休学する形になった事を相澤先生から聞かされた。
『ハァ…ハァ…、ランニング3km終わり……次は個性を伸ばす訓練…』
この日も私は日課のトレーニングを行っていた。
あの日の出来事は忘れる事は出来ないし、思い出すと今でも悲しくなるけど、それでも立ち止まってはいられない。
『…ヒーローに…、なるために…っ』
今まで私の中にあったヒーロー像は、どれだけ傷ついても最後に必ず勝利するイメージしかなかったけど、今回の事で思い知ってしまった。
救われた命の裏には、犠牲になったヒーローも必ずいるということ。
…それでも、悪事が起こる限り、ヒーローは立ち向かって行かなきゃならない。前を向いて進んで行かなくちゃならない。
犠牲者も、今後必ずまた出るだろう……。
ーーでもっ…!
もし救えない命だったとしても、せめてその人の最期の瞬間だけは、後悔して欲しくない…!
もちろん、私自身にも言える事だ。
ーー私は、自分の人生を後悔したくない。
だから私は後悔しないために、自分が信じる道をただ突き進んで行く…!
そう強く思う事で、これから先も私は強く生きて行ける。自分の原点を忘れずに、まっすぐ前を向いて…。
「毎日頑張ってるね!」
『ーー!!』
だって私はヒーローだから。
ヒーローをも救えるヒーローになるから。
私は喜び溢れる笑顔をその人に向けながら、そう強く心に誓ったーー…。
第15話 おわり