第15話
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「サー!ナイトアイ!」
『ーー…!』
扉を開けた先に待ち受けていた現実は、そんなに甘いものじゃなかった。
目に飛び込んで来た光景は、青白い顔をしたナイトアイが、腹部から数えきれない程のチューブで繋がれたままベッドに横たわっている姿。
そのすぐ側にあるモニターからは、ゆっくりした心拍音が、静寂な病室で静かにリズムを刻んでいた。
それはまるで、近付く別れの時間を指し示すように…。
『リカバリーガール!ナイトアイの状態は…⁉︎』
「…すまないね。私の治癒じゃどうにもならなかったよ…もう、明日は迎えられない」
『そんなっ…』
通形先輩はすぐにナイトアイの元へ足を引き摺りながら駆け寄って行く。
側にはオールマイトや緑谷くんもいた。
みんな辛い表情をして唇を噛み締めている。
私はショックでその場から動く事が出来なかった。
きっと何処かで、奇跡が起こる事を信じていたから…。
「ダメだ!生きて下さい!死ぬなんてダメだ!!」
必死に訴えかける先輩の悲痛な叫び声に、胸が締め付けられる。
苦しい。
痛い。
どうして…先輩がこんな辛い目に…。
何で…ナイトアイが死ななくちゃならないの…?
ーーどうして…?
ーーどうしてっ…⁉︎
どうしていつもいなくなる人は、
大切な人ばかりなの…っ!!
『…っ…!』
「おい、苗字!」
これ以上この場にいたら自分の心が壊れそうで、私は居た
後ろで誰かが私の名前を叫ぶけれど、振り返らずただひた走る。
しばらくして行き止まりになった壁に背を預けると、
力無くズルズルとしゃがみ込み、膝に顔を
……また、救けられなかった。
…ううん、違う。
本当は救けられた。
私は自分の保身のために力を使わなかっただけだ。
自分の身に危険が迫る真似はもうしないって…そう、
相澤先生と約束した事だから…。
ーーでも…っ!
私は何のためにここにいるの…?
何のためにヒーローを目指したの…?
誰かにとって大切な人を救けられるヒーローになるためでしょ…⁉︎
悲しむ人がいなくなるように、大切な人がずっとそばにいられるためにって…!
これじゃ…あの時と何も変わらないんじゃーー…
その時、遠くからコツ…コツ…と、こちらに近付いて来る誰かの足音が聞こえて来た。
そのまま
「ここにいたか」
頭上から降って来た声は私の良く知る人物だった。
そのままゆっくり顔を上げると、予想通りの人がズボンのポケットに手を突っ込んだまま私を見下ろしていた。
『相澤先生…』
「立て。こんな所で座り込んでたら体を冷やすぞ」
相澤先生もあの場所にいたのだろうか。全く気付かなかった……なんてどうでもいい事を考えながら私は力無く口を開く。
『………ナイトアイは、どうなりましたか…』
「今さっき、亡くなったよ……」
『そう…ですか……』
聞かなくても分かっていたけれど、実際に言葉にされると強烈な喪失感に襲われる。
何も出来なかった自分自身にも…。
『……ナイトアイの死は、本当に通形先輩にとって正しい選択だったんでしょうか…?』
「……」
相澤先生は答えることなく黙って私を見つめる。
こんな質問…相澤先生に聞くなんて酷な事は分かっているのに、私は自分の気持ちを抑える事が出来ず、行き場のない感情をぶつけてしまう。
『教えて下さい先生…っ!私はまた同じ過ちを繰り返していませんか…⁉︎』
通形先輩にとって、ナイトアイは何もなかった自分に全てを教えてくれた恩人の様な人だった。
そんなナイトアイのそばで成長を見届けて欲しいと……
そう先輩は私に言っていたのにーー…
知っていたのに、私は自分のために力を使わなかった。
これは正しい選択だったの…?
ーー私は、命を見捨てていない…?
『私はもうっ…何が正しくて何が間違っているのか自分でも分からないんです!!私は…正しい事をしていますか…⁉︎教えて下さい、先生ッ!!』
「……」
『正しい死って…何ですか…?』
しばらくその場は静寂に包まれた。
話しを続けるような空気じゃなかったけれど、重たい沈黙を破るように相澤先生は言葉を切り出した。
「…前にも言っただろ。その力を使った所で、今度はお前が危険な目に合うだけだってーー」
『分かってます!!分かっているからこそ…どうにも出来ないのが、とてつもなく苦しいんです…っ!!』
私だって、本当はナイトアイを救けてあげたかった!
今だってそうだ。
まだナイトアイの体は存在している。
今から力を使って生き返らせれば、みんなが悲しまなくて済む。
通形先輩だって、きっと喜んでくれる…!
そのために私がいるんじゃないの?って……そう思わずにはいられなかった。
「…生きているものは、必ず死が訪れる。これは誰だって確定事項だ。…それに、お前の言う正しい死なんてないよ。100%望んだ死を迎える事なんて不可能だ」
『でも、通形先輩や他の人達の事を思うと辛くて…!残された人って、すごく苦しいんです…。その人の死が理不尽であればある程……悲しみも深いから…』
「ーー…あぁ。知ってるよ」
まるで経験してきたかのような言い方に、思わず目を見開きながら先生を見上げる。
その瞳に映る色は、深い悲しみに染まっていた。
「皮肉にも、プロになってからの方がそういった場面に出会す事が多い。今までたくさん見てきたよ。自分の人生に関わってきた人に、最期の別れも出来ずに…あの時こうしてれば、死ななくて済んだんじゃないか…って。後悔ばかりだ」
『…っ…』
そうか…。
先生は現場で理不尽な死をたくさん見て来たから、私なんかよりもずっと知ってるんだ。
こんな辛い気持ちを、何度も、何度も…
その身に刻んでーー。
「…少なくとも俺は、最期にみんなに看取られ、別れを告げられたナイトアイの死は…恵まれた最期だったと思うよ」
『…っ、…だと、いいんですが…っ』
けど、きっと先生の言う通りなんだと思う。
別れは辛いけど、いつか人は死んでしまうから…。
みんながいるこの瞬間に別れを告げられるのは、きっと幸せな事だったんだーー…。