第15話
お名前は?
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その後すぐに寮へ戻った私は、夕食を食べ終え、何気なく談話スペースで携帯を操作していた。
気になって検索していた人物がヒットし、ディスプレイに写し出された画像を確認する。
『…この人が、サー・ナイトアイ…』
何だか、几帳面そうな人だなぁ…。
ピッチリ七三に整えられた前髪に鋭い目つき。でも爆豪くんとはまた違ったタイプの…射抜くような鋭い眼光が眼鏡の奥で光って見えた。
きっとめちゃくちゃ優秀な人なんだろうな。
見た目は通形先輩とは正反対…って感じだ。
果たして馬が合うのか。
『…いや、人は見た目によらないって学んだからなぁ』
もしかしたら、意外とお笑いとか好きかもしれないし…!
「ーーそれ、ナイトアイだよな?」
『!!』
ソファーの後ろからいきなり声をかけられ驚きながら振り返ると、そこには私の携帯を覗き見る心操くんが立っていた。
思っていたより顔が近くて、私の心臓がドキリと跳ねる。そんな私を心操くんは素知らぬ顔で見つめていた。
『しっ、心操くん⁉︎ いきなりビックリするよ!』
「相変わらずビビリ症だな。いい加減慣れろよ」
『…そ、そんな事言われても無理だよ!』
「あぁーはいはい。それより、何でナイトアイの事調べてんの?」
心操くんは面倒臭そうに返事すると、ナイトアイの事が気になるのかストレートに聞いてくる。
私は事情を説明するため、今日あった経緯を簡単に説明した。
「ビッグ3に会ったのか…?」
『うん!通形ミリオって言う人なんだけど、凄く明るくて頼もしい人だったよ!最初は私達と同じでみんなと遅れをとってたんだけど、努力でトップまで登り詰めたんだって!』
「……へぇ」
『今ではナイトアイの事務所で
「……あっそ」
何となく反応の薄い心操くんに違和感を抱いて、チラリと視線をやると、何故かジト目になって恨めしそうにコチラを見る心操くんと目が合った。
『……な、なに?』
「…前から思ってたけど、よくヒーロー科の連中と普通に仲良く話せるよな」
『えっ?…どういう意味?』
言われた意味が本当によく分からなくて、私は答えを求めようと心操くんに尋ねる。
そんな私の様子に心操くんは軽くため息を吐くと、少し呆れた様な表情を見せた。
「俺達はヒーロー科よりもう何十歩も出遅れてる。追いつこうとしても、ヒーロー科だって大人しく待っててはくれない。どんどん引き離されて行くだけだ」
そう言うと、心操くんは冷めた眼差しを私に向ける。
「普通だったら焦るだろ。差を見せつけられてるみたいで悔しくないのか?」
『……そりゃ、確かに焦る気持ちはあるよ。…けど、みんなの姿を見てると全員が順風満帆にヒーローに近付いてるワケじゃなくて、みんなどこかで挫折して、苦い想いを抱えててーー』
轟くんはなりたい自分になるために、エンデヴァーとの関わり方を考え直したり、仮免取得でヒーローに足りない部分を改めようと必死に自分を変えようとしてる。
通形先輩だって、最初からトップにいたワケじゃなくて、学年で1番ビリだった所から死ぬ程努力したおかげで今がある。
『ーーそう言う意味では、ヒーロー科も私達も立場が違うだけで、努力して自分を変えようとしてる点では同じなんじゃないかなって思って…』
「……」
『だから、辛いのは私だけじゃないんだ…!みんなも頑張ってるんだから、私も頑張らなきゃって思うんだ!』
そもそも私と心操くんじゃ、考え方は違うのかもしれない。けど、これが今の私の本心だ。
心操くんは暫く沈黙してから、また一つため息をこぼすと、その表情に暗い影を落とす。
「……お前の心は淀んでなくて、真っ直ぐなんだな」
『え?』
「俺は……お前みたいに綺麗じゃないから。お前のようにはなれない」
『あ、ちょっ、心操くんっ…⁉︎』
私の呼び止めには振り返らず、心操くんはそのままエレベーターへと向かって行った。
急にどうしたんだろう…?
私は呆然とその様子を眺めていたけど、何処となくその後ろ姿は寂しそうに見えた…。
ーーー✴︎✴︎✴︎
ーーそんな感じで色々あった週明けの雄英。
いつも通り授業を終え、寮に戻るため下校していると、前方に見覚えのある金髪が目についた。
後ろ姿でも分かる、あの体格の良い風貌は間違いない…!
『通形先輩ーー!』
「…!」
私は手を振りながら駆け寄って行く。通形先輩は驚いたような表情で振り返るけど、私だと気付くと何だか一瞬気まずそうに表情を曇らせた。
『…先輩?どうしたんですか?何だか顔色が良くないですよ』
「いや…、何でもないんだよね」
『で、でも…』
明らかに声のトーンも低い。
以前出会った時とまるで人が変わったようにその表情は暗く、生気が感じられない。あの底抜けに明るい先輩はどこに行ってしまったのか…。
私が不審に思っているのが伝わったのか、通形先輩は何だか言い辛そうに口を開く。
「ごめん…。ちょっと今疲れてるんだ。気分が戻ったらまた俺から話しかけるよ。……ごめんね」
『あ、いえ…お大事に!』
少し困った様に薄く笑うと、通形先輩は背を向けて立ち去って行ってしまった。
先輩は心配かけないように無理して笑ってたけど、後ろに顔を背けるその一瞬…泣きそうな顔をした横顔を私は見逃がさなかった。
『通形先輩…』
きっと…私に言えない何かがあるんだ。
そう確信した瞬間だった。
そしてその確信の答えは、数日後に身を持って体験する事となるーー…。