第15話
お名前は?
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『…重っ、ゴミ結構溜まるもんだなぁ〜』
今日の寮内掃除当番は私。
なので、可燃ゴミが詰まってパンパンに膨らんだゴミ袋を両手に抱えながら、私はゴミ捨て場へと足を運んでいた。
えっと…確かこの辺りにゴミ捨て場がーー…ん?
広い敷地内を見渡しながらゴミ捨て場を探していると、視線の先に同じくゴミ袋を両手に抱えた仲間を発見した。
ちょうど良い。あの人に付いて行けばゴミ捨て場まで辿り着ける。
そんな軽い気持ちで、私はその人に声を掛けようと近付いた。
ーーしかし…私はその事をすぐに後悔する事になる。
『あの、良かったら一緒にゴミ捨て場にーー』
「…あァ?」
苛立ちを含んだ声色で振り返ったその人は、何度見ても威圧感を与えて来る鋭い眼光をしたーー…
『ば、爆豪くんッ⁉︎』
最悪だぁーー!!
後ろ姿だったし、私服だから気付けなかったよ!
私が慌てふためく姿を見て気に入らなかったのか、爆豪くんは額に青筋を立てる。
「…ンで自分から声かけて来て驚いとんだ!!」
『ご、ごめん!まさか爆豪くんがゴミ捨てしてるなんて思わなくて…』
「するわッ!!俺を何だと思ってんだテメェ!!」
『ヒィッ⁉︎ ごめんなさいっ!』
相変わらず粗暴な態度で怒鳴る彼に、自然と体が萎縮してしまう。
何故だか分からないけど、爆豪くんは基本的にいつもイライラしてるみたいだ。もっと普通にしてくれれば私も怖がらなくて済むのに…。
…いや、ここで怖がってちゃダメだ…!
せっかく合宿で笑って話せる様になれたのに、これじゃまた最初のよそよそしい感じに戻っちゃう!
そう思った私は、頑張って笑顔を作りながら何か話題を振ろうと、必死に頭の中で考える。
『…そ、そういえば!もうすぐ仮免取得があるんだよね?頑張ってね!』
「……いつの話してんだよ。ンなもん、もうとっくに終わっとんだアホがッ」
『あれ…?そうなのっ⁉︎』
そう言えば、相澤先生から仮免取得が終わったら実地試験をするって言われてたような…。
あの時期は自分の課題に取り組む事に精一杯で、気にしてる余裕無かったからなぁ…。
轟くんから結果聞いてなかったから気づかなかったや。まぁ、轟くんの事だからきっと大丈夫だよね。
もちろん、彼もーー…
『ーーそっか、じゃあ当然爆豪くんは余裕で合格だよね?…って、こんな事聞くのも野暮かな?』
ハハッ、と軽く笑い飛ばしながら爆豪くんを見ると、
何故か爆豪くんの表情は恐ろしい程にワナワナと震えていた。
「…テメェは…、つくづく俺の神経を逆撫でするセンスに長けてんなァ…オイ?」
『エッ…⁉︎ 私何か変なこと言った⁉︎』
一瞬、何が爆豪くんの怒りスイッチに触れたのか分からず混乱するも、様子からしてすぐに意味を理解した。
けれど、あまりに想定外過ぎて、私は目を丸くしながら爆豪くんを見つめる。
『ま、まさか…爆豪くんが仮免落ちーー』
「オイコラみなまで言うな!!分かってんなら察しろや!!」
『ご、ごめん…』
爆豪くんに釘を刺されるも、私は未だに信じられずに動揺していた。
入試通過1位の人が仮免に落ちる事があるなんて…一体どんだけ難解な試験だったんだろう…。
そんな黙り込む私を見て何か気に入らなかったのか、
爆豪くんは弁明する様に言葉を続ける。
「言っとくが!落ちたのは俺だけじゃねえからなッ⁉︎
轟の野郎も落ちてんだよザマァ!!」
『えっ…』
「お前はアイツの事気に入ってんだか尊敬してんだか知らねえが、残念だったな!!アイツも言うほど大した事ねェ!」
轟くんも仮免落ちた…?
そんなっ…!あの轟くんが…⁉︎
驚きを隠せなくて言葉を失っていると、爆豪くんは気を良くしたのか、ハッ!と少し馬鹿にした様に笑う。
「どんだけ実力が伴ってようと、落ちるときゃ落ちんだよ。まぁ当然、実力でも俺の方が上だがなッ!」
『…私、別に爆豪くんの事見くびってなんかないよ?』
「…あ?」
『爆豪くんが誰よりも強いのは、ヒーロー科試験で身をもって体験してるから知ってるよ。だからこそ驚いてるんだよ。轟くんと爆豪くん…どっちも凄い人だから、信じられなくて…』
「……」
『きっと、戦闘以外で評価される何かがあったんだよね…?じゃないと納得出来ない。負けるなんて事、絶対にあり得ない2人だから…』
「ケッ…、分かった風な口ききやがって…」
爆豪くんは不貞腐れたようにそう言うと、チラリと私の手元に視線を送る。
「……それ寄越せ」
『?』
先程までの威勢の良さが急に無くなったかと思えば、突然爆豪くんは私に近寄ると、そのまま私が持っていたゴミ袋を強引に奪い取った。
『えっ⁉︎ な、何を…っ⁉︎』
「捨てるに決まってんだろ。他に何があんだ」
『えぇっ⁉︎ そんな、悪いよっ!自分で捨てるからーー』
「勘違いすんなッ!!後ろからちょこまか付いて来られンのが鬱陶しいんだよ!いいから寄越せやッ!!」
『わっ!』
奪い取られたゴミ袋を取り返そうとしたら、強引にまた引き剥がされた。
一体どういう風の吹き回しなんだろうか…?
ワケが分からず呆然とするも、私は立ち去ろうとするその後ろ姿に慌てて声を掛けた。
『ありがとう、爆豪くん…っ!』
多分聞こえてただろうけど、爆豪くんは何も言わずにそのまま私の分のゴミ袋を手に抱え、足早にゴミ捨て場へと歩いて行った。
……本当に、怖い人なんだか良い人なんだか、よく分からない人だなぁ…。
でも、不器用な優しさを彼から感じ取れた気がした。
やっぱり、思っていたより悪い人ではなさそうだ。
『…もうちょっと笑ってくれれば良いのに』