第14話
お名前は?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私達は穴に落ちて少し傷付いてしまったダミー人形を手に、スタート地点で留まっていた相澤先生の元へと戻って来た。
「ご苦労様。言われた通りダミー人形を見つけたみたいだな」
『…はい…でもーー』
「2人とも合格だ」
「!」
『へっ…⁉︎』
思いの外あっさりと結果を言い渡され、私は戸惑いながら相澤先生を見つめた。
『いや…あの、違うんです!私、途中でダミー人形を穴に落としちゃって…心操くんも危ない目に合わせてしまったんです!』
「知ってるよ。お前らの行動は全て見てたからな」
『え?』
まさかずっと後ろから付いて来ていたのかと思ったが、それを否定するように相澤先生は私達の後ろに視線を向けて指差す。
その指先を辿りながら後ろを振り向くが、何もいない。
いや…よく目を凝らすと、羽のついた小さなハエの様なモノが空中を漂っていた。
『虫…?』
「それは"超小型自動追尾ドローン" だ。ソイツで映像はリアルタイムで確認していたよ。…ちなみに、サポート科の発目による発案だ」
やっぱりね!!
発目さん、本当色々考え出すなぁ…。
恐るべし発想力…!
『でも…どうして合格なんですか?私、色々やらかしてしまったんですが…』
「今回の試験は、あくまでお前達に与えた課題がクリア出来ているかどうかだった。救助訓練はそのおまけみたいなもんだ。コッチも最初からお前達に完璧を求めてはいないさ」
『そうだったんだ…良かった…』
私は相澤先生の言葉に安堵し、一気に全身の力が抜ける。
自分のせいで心操くんが不合格にならなくて本当に良かったと…ただそれだけだった。
「しかし、その点で言うと心操ーー…よくあの状況で咄嗟の判断とスキルを発揮出来たな。上出来だ」
「…ありがとうございます」
心操くんは特に喜ぶ感じでもなく、サラッと感謝を述べただけだった。
私だったら手放しで喜ぶのにな…と心の中で呟くも、
何だか心操くんらしいなとも思う。
本当に…心操くんには色々助けてもらってばかりだ。
早く私も誰かを救けられるヒーローになりたいのに…。
そんな私を見兼ねてか、相澤先生はチラリと私に視線を向けた。
「苗字。お前も以前と違って、良く考えながら個性を使えるようになったな。その調子で後は状況判断力と洞察力をしっかり身に付けて行けよ」
『はい、頑張ります…!』
状況判断力と洞察力かぁ…。
それって心操くんみたいに、しっかり状況を把握して物事の本質を見抜ける様になれって事だよね?
私が最も苦手なところ…!
「今日の試験はこれで終わりだ。今日はゆっくり休んで、明日から引き続き個性や技術を伸ばして行くように。以上、解散」
「『ありがとうございました』」
私達はお礼を言って頭を下げると、相澤先生は早々に演習場を後にした。
しばらく先生を見送り離れた所で、私は心操くんに向き直り、嬉しさで溢れる笑みを見せ付ける。
『良かったね、心操くん!相澤先生に褒められちゃって羨ましいよ!』
「まぁ…あの時は自分でも驚くくらい無意識に体が動いただけで、次また同じ事が出来るか分かんないけど」
『そうなの?何で無意識に動けたんだろね?やっぱり人を救けたいって言う感情が無意識の内にーー』
「お前だったから」
私の言葉を遮るように発したその言葉は、やけに耳に響いて聞こえた。
私は開いた口が塞がらぬまま、ゆっくり心操くんに顔を向ける。
そんな私を心操くんは感情の読み取れない顔で静かに見つめていた。
私はもう一度心操くんに尋ねる。
『…えっ…?今、何て…』
「…お前だったから、必死になった」
心操くんもそれに応えるように、もう一度ゆっくり言葉を発した。
ハッキリとそう言う心操くんに、段々と胸の鼓動が早まる。ずっと心の中に留めていた思いがフツフツと沸き起こり、私はそれを抑える事が出来なくて、感情の昂るまま気持ちをぶつけた。
『そ、それって……どう言う、意味…?』
心操くんは私の言葉を受け、開こうとした唇を何故かまた閉じてキュッと結んだ。
「……さぁな?」
『エッ⁉︎ ちょっ、心操くん…!』
心操くんはそのままはぐらかすと、踵を返してスタスタと演習場を出て行く。
私は呼び止めようと挙げた手を下ろすと、そのまま自分の胸にそっと押し当てた。
心臓が…痛い。
この感覚、轟くんに抱いた気持ちと同じだ…。
何なの、コレ…?
物事の本質を見抜く力が乏しい私には、この気持ちが何なのかがよく分からない。
相澤先生…!
洞察力と状況判断力を身に付ければ、この気持ちの本質にも気付く事は出来ますか…⁉︎
そんなどうしようもない気持ちを抱きながら、私は盛大な溜め息を吐いた。
第14話 おわり