第14話
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ふいに私の手首を誰かが掴む。
落ちようとしていた私の体は、反発する力によってブラブラと宙に揺れた。
私はギュッと瞑っていた目蓋を開けると、手首を掴んでいる人物へと顔を上げる。
『ーー…心操くんっ⁉︎』
「…クッ…、このバカッ!」
私の手首を掴んだ心操くんは、眉間にシワを寄せて歯を食い縛りながら、必死に私が落ちないように繋ぎ止めていた。
『…っ…、ごめん…私ーー』
「反省は後にしろっ…!今、引き上げる…」
『う、うん…』
ふと心操くんの隣に視線を向けると、瓦礫に挟まれていたダミー人形が、さっきの衝撃により、ズルズルと穴の方へズリ落ちて行く光景が視界に映る。
私は慌てて心操くんに声をかけた。
『心操くん!ダミー人形が落ちちゃう!』
「…ンな事言ってる場合かよっ!」
『でもっ…!試験に合格するにはーー』
「うるさい!今はお前の命が最優先だろッ!」
『ーーっ!!』
心操くんの言葉にハッと目を見開く。
自分でも良く分からない感情が胸の中で渦巻いていたその時ーー。
心操くんのいる地面に、ピシッピシッと亀裂が入る嫌な音が鳴った瞬間、再び地面が崩れ落ちた。
『きゃあぁぁ!!』
今度こそ落ちると覚悟した時、私の体を引き寄せる感覚と、再び宙にぶら下がる浮遊感が襲う。
『…えっ?』
目の前に飛び込んで来た光景は、心操くんの厚い胸板。
そして逞しい片腕が私の腰に周され、しっかり密着する様に抱き寄せられている。
「…っぶねぇ…!」
『!』
一瞬焦ったけど、心操くんの言葉に目線を上に向けると、心操くんの捕縛布がコンクリートから剥き出しになった鉄筋に絡まり、そこからぶら下がる様にして私達の体が宙に浮いている状態だった。
相澤先生から言われてた課題、無事にクリア出来たんだ!
「くっ…!」
安心していたのも束の間、心操くんが苦しそうに小さく声を漏らす。
見ると、鉄筋に絡まった捕縛布が2人分の体重を支えきれずに少しずつ解けていた。
「クッソ…!」
悔しそうに唸る心操くんの横を、先程落ちそうになっていたダミー人形が勢い良く落下して行く。
その姿がまるで私達に重なって見えて…そう思った瞬間、私の中で一つの決意が固まった。
ライフ・コンパスはセーフティゾーン…。
ここから下の階までは、おおよそ6〜7m……落ちても最悪骨折程度で、死ぬ高さじゃない…!
『……心操くん、このままじゃ2人とも落ちちゃう…だから、私を離して欲しい』
私の言葉に心操くんは目を剥いて驚く。
「はっ⁉︎ 何言ってんだ!そんな事出来るわけないだろ!」
『大丈夫!私なら怪我してもすぐに治せるからーー』
「そういう問題じゃねぇんだよッ!!」
『…!』
心操くんが怒った様に声を荒げる。
普段から沈着冷静な彼が、ここまで怒りを露わにするのは珍しかった。
「お前を傷付ける様な真似、俺はしたくないって言ってるんだ!!」
『…心操くん…』
「くだらない事言ってるヒマあるなら、しっかり俺に掴まってろ!」
『…うん!』
「いいか、絶対離すなよ!」
心操くんは自分の首に腕を回すように誘導すると、私を支えていた腰を離し、今度は両腕で捕縛布を掴んで綱登りするみたいに、着実に登って行く。
私はただ落ちない様に、必死で心操くんにしがみついていた。
密着しているため、布越しから伝わる筋肉質な体に肌が触れ、彼が今まで費やして来た努力を垣間見れた気がした。
今の心操くんは、体育祭の頃よりも遥かに成長していて…とても心強い存在になっている。
まるで、本物のヒーローみたいだと…そう思ったーー。
「ハァ…ハァ…、何とか落ちずに済んだな…」
捕縛布も何とか持ち堪え、無事私達は先程までいた場所へ戻る事が出来た。
それもこれも、全て心操くんのおかげだ。
ーーでも…。
『……ごめん、心操くん…っ、私のせいで…危険な目に…』
そもそも、私があそこで走り出したりしなければ、こんな事にはなってなかった。
心操くんを危険な目に合わせてしまい、ダミー人形も穴に落としてしまって…。
もしあれが本当の要救助者だったら、私はヒーロー失格だ。
自分が情けなくて、悔しくて…感情がぐちゃぐちゃに入り乱れ、涙で視界が滲む。
『もしこれで心操くんが試験に落ちちゃったら…私、
心操くんに顔向け出来ないよ…っ!』
視界いっぱいに溢れた涙が、大きな粒になって頬を伝う。
けど今は涙を拭う余裕すらない。
感情のまま全てを吐き出したい気分だった。
そんな私をずっと黙って見つめていた心操くんは、静かに口を開いた。
「……もし、あそこでダミー人形を選ばなきゃ試験に落ちていたとしても、俺は苗字を救けてたよ」
『…!』
驚いて顔を上げる私に、心操くんはゆっくり手を伸ばすと、流れる涙を指の背で
「だから後悔はしてない。それで本当に落ちたとしても、俺はヒーローを諦めない。なれるまでずっと追い続ける……お前も、そうなんだろ?"もう二度と諦めない" って俺に言ったよな?」
『ーー!』
それは、前にヒーローを志した時に、心操くんに向けて放った言葉だった。
ハッする私の反応を見た心操くんは、僅かに口角を上げると、頬から手を下ろして立ち上がる。
「それに、まだ落ちたって決まったワケじゃない。俺達は言われた課題に精一杯取り組んだし。落ち込むのは結果を聞いてからにしようぜ」
『…うん、そうだね…』
私はゴシゴシと滲む目元を拭うと、自然と浮かぶ笑みを心操くんに向けながら言った。
『ありがとう、心操くん…!励ましてくれて…』
「…別に。とっとと試験終わらせて戻るぞ」
『うん!』