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第3章 恋と謎

「春の訪れを感じるこの良き日、私達3年生一同は無事、卒業式を迎えることが出来ました。」



桜が色付き出し、暖かさを感じ始めた3月。
あの事件から1年と少し経ち、今日は卒業式。

香緒里は壇上で答辞を読む秀人を見ながらぼんやりと中学校生活を思い起こす。

家でも学校でも、辛い事も悲しい事も、恐ろしい事もあった。
それでも振り返ってみると全てが思い出で、それらがあったからこそ今の自分があるわけで。
3年間を一言で言うと、やっぱり『楽しかった』だろう。
中学二年で、雪音や秀人達と仲良くなれなければ、こうは思わなかったと思う。
家の事で落ち込み、それこそ前を向けなかっただろう。

淀みなく、よく通る声で話す秀人。その話に啜り泣く声があちらこちらから聞こえてくる。
ありがとう、と声に出さずに呟いた。




「もーいつまで泣いてるの。」


卒業式が終わり、最後のホームルームも終えた香緒里達は、校庭にいた。


「だってぇ、秀人が泣かせること言うし、やっと涙止まったと思ったら、先生が泣かしてくるんだもんーーー」


めそめそぐしゅぐしゅと沙世は泣いている。雪音もまだちょっぴり瞳を潤わせている。


「それに比べて、香緒里は全然泣かないのな。」
「んーそりゃ、卒業するのは寂しいけど、どうせ6人とも高校同じだし………」


真に言われ、香緒里はそう返す。

無事に受験も終わり、6人とも同じ高校に進学することが決まっている。
変わりないと言えば変わらない。寂しさよりも、新しい場所に行くという緊張感の方が勝っている。


「何はともあれ、楽しかったね。特にこの2年間は。」
「そうねぇ」
「まぁほんと、色々あったけど。」
「だなぁ、でも、それもいい思い出ってやつ?」
「また3年間一緒だし、4月からもよろしくね。」
「もっと面白いことが待ってると信じて、だな。」



「はーい、撮るわよー」


沙世のお母さんがカメラを構える。
香緒里達6人は、揃ってそちらを向き、笑顔になる。


卒業は、新しい門出。
思い出全部を抱えて、また生きていこう。
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