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第6章 秋晴れの文化祭

夏休み明けた初めの登校日。
始業式を終えた後、鮎川悠は教室の1番前の席で頭を抱えていた。

「あぁぁぁやばいいいいいい!」
「どうしたのよ、悠。」

その悠に、丁度教室に入ってきた吉崎香緒里が声を掛ける。
悠の手元には大量のワークプリントとテキスト。やばいという内容は大体予想はつく。

「宿題が!終わらねぇ!!!」
「やっぱり………。お盆前に結構頑張ってたじゃない?」
「吉崎に教えてもらったところはわかった………だけどお盆の後から部活の試合だなんだですっかり宿題をそっちのけにしちまったんだよ……!!!」

半ば泣きそうになりながら悠はプリントを握りしめる。
その悠を、香緒里の隣にいた渡辺美愛は鼻で笑う。

「あんた、まだ終わってなかったんやなぁ。」
「んだよ、そういうお前は終わったのかよ?」
「当たり前や。昨日香緒里に夜通し付き合ってもらたからな!」
「いやお前もぎりぎりかよ!」
「終わってないあんたよかマシや!」

いつものように始まる言い合いに香緒里は苦笑いする。
昨夜、『まだ宿題が色々残っているから助けて欲しい』と美愛に言われ、夕食後からずっと部屋に籠り、マンツーマンで宿題を見るはめになった。
途中から友人の谷中沙世も乱入してきたため、結局二人分教えることとなってしまい、殆ど寝られなかった。

「まぁ、大体の宿題は初回の授業で回収だから、もう少し猶予あるよ?ゆっくり頑張ろ?またわからなかったら聞いていいから。」
「吉崎まじ女神かよ。輝いて見えるわ。」

お人好しの香緒里は悠をそう慰めた。
いざとなったら悠の部活仲間であり、香緒里の彼氏の新谷秀人もいるのでなんとかはなるだろう。

「今更香緒里のありがたみに気付いたん?」
「なんでお前が偉そうなんだよ!!」

また勃発する二人の言い合い。
ある意味平和だなと思いながら香緒里は自分の席につく。
しばらくして、担任の柏木が教室に入ってくる。

「夏休みは終わったけれど、みんな元気にしてたかー?何名か宿題が終わってないんじゃないかって心配なやつらがいるけど、大丈夫?」

開口早々にそう言った柏木の言葉に悠はギクリとする。

「まぁ、提出日までにはしっかり終わらせておくんだよ。えー、じゃあ連絡事項を、といきたいんだが、今日はその前に紹介したいのがいる。」

いつものように淡々とホームルームを済ませるかと思いきや、柏木は急に「入ってこい。」と扉の方に声を掛けた。

転校生か!とザワついた教室内は、その入ってきた人物を見て更にざわめく。
金色がかった茶色の髪に茶色の瞳、整った顔。悠と同じくらいかそれより少し大きいくらいの小柄さも相まって、正に美少年。
女子達から黄色い声が上がる。

面食いの沙世も「おおぉ!」と両手を合わせている。

「渡辺直樹です。アメリカから来ました!」

頭を下げてそう名乗る。
寝不足でウトウトと船を漕いでいた美愛はその声にバッと顔を上げ、その転校生を見た。

「はっ!!??え、直樹!?」

驚きのあまり、席を立ち上がった。
え、何?知り合い……??
美愛の前の席の香緒里は美愛と転校生の顔を見比べる。

「ハーイ、ミメイ。Long time no see!」

その転校生は美愛を見て、にっこり笑って親しげにそう言った。







「え、美愛の従兄弟なの?」

その日のお昼、学食に集まった際にその転校生、渡辺直樹も美愛と一緒にやってきた。
紹介された雪音達は驚いたように直樹を見る。

「そーなの、イトコでーす。」
「父方のな。なんでおとんもおかんも何も言ってくれへんかったんだ……」
「ミメイのパパとママに、面白いから黙っておいてーてオレは言われたよ。」
「やっぱりか………」

何も聞かされてなかった、という美愛は直樹の言葉に頭を抱える。
話によると、美愛の父の弟が直樹の父に当たるらしく、母の方はアメリカ人だという。

「美愛ちゃんの従兄弟なだけあって、美形ねぇ。」
「最初見た時、美少年すぎてびっくりしたわ。」

しげしげと直樹を眺めて上原奈津は言い、沙世もそれに同調する。その後、「あ!真の方がもちろんイケメンだよ!!」と彼氏である沢田真に弁解するが、はいはいと苦笑して流されていた。

「またこの学校にイケメンが増えてしまった……俺の出番が…………」

後ろの方で悠の3つ子の弟の圭が項垂れているが、皆気にしないことにしている。

「なぁなぁ!バスケ好きか?バスケ部入らねぇ???」

一方で悠は悠で直樹にそう話し掛ける。
一番上の亮は我関せずと黙々と昼食のミートソースパスタを綺麗にフォークで食べている。
どちらにせよ、マイペースな兄弟である。

「あかんあかん、こいつ運動は全然でけへんよ。体力もミジンコ並み。」
「それほどでも~」
「いや褒めてへんよ?」

なんだそっか、と悠は落胆する。
相変わらずバスケの事だけを考えている様子の悠に香緒里は苦笑いをする。

美愛は運動神経抜群だが、従兄弟である直樹はそうでもないようで、意外と血の繋がりって関係ないことなのかもな、なんてぼんやり考える。

「頭はええねんけどなぁ。」
「美愛の従兄弟なのに?」
「余計なお世話や。てか沙世もそう言えるほど勉強できへんやろ。」
「へへ、そうでした。」

そうこう話しているうちに、直樹は学年主任の先生に呼ばれて席を外していった。
美愛はその直樹を目線で見送った後、香緒里達に向き合った。

「あいつ、多分つい最近までアメリカ暮らしで………まぁ、色々あってこっちに来たはずなんや。せやから、ちょっと気にして見てやって欲しい。」

ちょっと含みを持たせた言い方をした美愛に香緒里は疑問を持ったが、まぁ話せない事情があるのかもしれないと察して特に追求せず、頷いた。
勘の良い何人かももちろん気付いていたが同様に何も言わなかった。
それとは関係なしに、悠はちょっと微妙な表情をしていたが。

「ま、好きな女から他の男のこと頼まれたらいい気はしないよなぁ。」

悠にも美愛にも聞こえない位置で秀人は呟き、隣に座っていた翔太はそれを聞いて苦笑いをした。
美愛に関しては分からないが、悠が美愛のことを好きなのはほぼ確定だと秀人は思っている。もちろん、本人の口から聞いたわけではなくあくまで勘なのだが、秀人の勘が外れることの方が珍しい。

「あ、そろそろ時間じゃない?」
「ほんとだ、ぼちぼち行かなきゃ。」

奈津がそう言い、香緒里も食堂の時計を見て立ち上がる。

「なんかあるの?」
「午後の部活前に、文化祭の話し合いがあるの。」
「あーそっか、そういう時期だもんね。」

うちも明日やるって言ってたなーと沙世も言う。
緑ヶ丘高校の一大イベントである文化祭、通称・緑高祭(りょっこうさい)は9月最後の土日に行われる。
クラス毎と部活毎にそれぞれ模擬店であったり出し物だったりをして、早いところだと夏休み前からその準備がされたりする。
教室外の模擬店や舞台での出し物についてはスペースやスケジュールの関係で夏休み中に抽選が行われるため、早めに申請する必要があるのだ。

全寮制で学校の敷地も広いので、毎年生徒の家族や友人、近隣の高校などから多くの来場者が来る。その為、生徒たちの気合いもかなり入っている。

「そっかー文化祭かー青春っぽいなぁ。模擬店何があるかなぁ。」
「沙世は食い気あるよな。」
「うるさい!」

空手部組が去った後、沙世はデザートのアイスを食べながらにまにまする。それを秀人に突っ込まれ、即座に噛み付いた。

「うちはケーキとかクッキー焼いて販売するみたいだから、よかったら買いに来てね。」
「わーい!さすが調理部!行くいく!」
「俺も由美ちゃんのお菓子買いに行かないといけないな!」
「あんた、あちこちで女子にそう言ってて全部の店回ることになりそうやな。」

9月には文化祭、10月には体育祭がある。
イベント盛り沢山の二学期。
普段から賑やかな緑ヶ丘が更に賑やかになることは間違いないだろう。
せっかくの高校生なんだし、思いっきり楽しんでおかないと損かもな、と秀人は思い、笑った。
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