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第4章 春の風薫る

秀人と悠の怪我はそれぞれ切り傷、捻挫で病院に行く程のものではないと保健医に診断され、その場で処置をされた。しばらくは無理をしないように、との念押しはされたが。

そして、騒動に対する処置はその日のうちに職員会議が行われて下された。男子バスケ部自体はインターハイ予選が終わるまで部活動停止、つまり3年生は事実上の引退となる。草部含む何人かの3年部員は謹慎。秀人や悠が怪我を負ったため刑事事件になるのかとも香緒理達は思っていたが、当の本人達が親に連絡しなくていい、騒ぎにしなくていい、と強く言ったので内々での処理となった。

『母にだけは自分から話す、父に話すかは母の判断に任せる。』と秀人は言っていた。父親が警察官のため、ややこしい事態にならないようにということなのだろう。
悠は悠で、親に言うと偉い事態になりそうだから言わないって亮に言われたからやめてくれ、と言っていたようである。
香緒理にはさっぱり事情はわからないが、妙に納得したらしい教師陣は結局特に警察に連絡などはしなかった、と話に聞いた。


「いやでもほんと、大きな怪我にならなくてよかったな。」
「ほんとよ!!何事かと思ったんだから……」


その日の夜、いつものように食堂でいつもの6人と美愛、由美、奈津、亮と夕食を食べていた。悠と圭はそれぞれ別の友達と夕食を摂っている。

安心したように言う翔太に続き、香緒理は溜息をついた。

「ごめんごめん。」
「秀人は無茶するよねぇ。でもそんな状況でも、『新谷くんかっこいい…!』って評価は上がってたけどね。」
「あー悠も言ってたなー『俺が女なら惚れてたかもしれない』って。」

雪音と奈津の言葉に彼女としては少し微妙な心地ではあるが、とりあえず無事でなにより、と香緒理は思う。

「悠も頑張ってたんだって?」
「あぁ、啖呵切って食ってかかってたなぁ。あれはあいつにしてはなかなかよかったわ。」
「それ、悠に直接言ってあげればいいのにー。」
「なんでやねん、めんどいわ。」

沙世が茶化すが、美愛は動揺もせず眉を顰めた。
悠、どうやら今のところ脈無しのようだよ………。どんまい、と香緒理は心の中で同情をする。

「でも部活停止だと秀人も悠もバスケ出来なくて残念ね。」
「怪我が治ってきたらするつもりだけどな、俺も悠も。」
「え、いいのそれ?」
「部活は停止、だけどバスケをしちゃいけない、とは言われてないからな。」
「いやまぁそうだけど………。」
「さすが秀人、穴を突くな……。」

しれっと言う秀人に皆感心半分呆れ半分の顔を向ける。


高校生活は波乱と共に始まってしまった。平穏な生活を送れたらいいのだけれど、と香緒理は思う。
だがその願いが果たして通じるのかどうなのかはわからない。
それでも、振り返った時に、いい高校生活だった、と思えるようであればいいのだろうか。


もう少しすれば暑い夏がまた始まる。高校生活初めての夏。今年はどんな夏になるだろうか。


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