第6章 秋晴れの文化祭
「おいマジかよ!!!俺は反対だからな!!!」
二学期初めの1年C組のLHR(ロングホームルーム)の時間。
悠は黒板に書かれた文字を指差し、立ち上がってそう言い放った。
今日の議題は文化祭についての詳細を決めること。
教室の前にある黒板には大きく『男女逆転執事メイド喫茶』と書かれている。
「そうは言っても、もう決まったことだから………」
「俺は承認してねぇからな!」
教壇の前に立つ、学級委員長の香緒里が困ったように反論するが、尚も悠は変わらない調子。
「一回目の話し合いの時は練習試合でいなかったのは悠じゃない。」
「そうだぞー2回目の時は腹下したとかで休んだし。」
「うぐぐぐ………それはそーだけど………」
クラスメイトに次々に言われ、口ごもる。
夏休み最初の方に1回目、お盆明けに2回目の話し合いが行われ、文化祭の出店について話を詰めていたのだがそのどちらにも悠はいなく、バスケで頭がいっぱいの悠は文化祭のことをすっかり忘れていたし、聞かれなかったクラスメイト達もすっかり伝えるのを忘れていたのだ。
どっちもどっちではあるけれど。
「シツジメイドきっさ、て何?シープ?」
「シープは羊や!えーと、メイドはまぁメイドさんの服装して、執事は英語でなんやっけ、香緒里?」
後ろの方で直樹が美愛に訊ね、香緒里にも振られる。
「バトラーだね。」
「oh!バトラーの服を着るんだ!かっこいい。」
「まぁつまり、女子がバトラーの服着て、男子がメイドの服を着て、文化祭で喫茶店をしようってことや。」
ほーほー、と直樹は頷きながら聞く。
転校生の直樹も文化祭の話は初耳のはず。
そう思った悠は仲間がいた!!!と喜びの表情を浮かべる。が、
「へー!面白そう!いいね!」
話を聞いた後、うきうきした顔で直樹はそう返した。
悠はそれを見てがっくり項垂れる。
「悠、もう諦めろ。いいじゃねーか、お前絶対女装似合うぞ!女子にキャーキャー言われるぞ!」
香緒里と共に教壇の前に立つ、副委員長の町田がそう諭す。
似合いそうだから嫌なんだよ!!!!と悠は内心で叫ぶ。
小柄なのはもちろん、顔は童顔だしどちらかといえばよくかわいいと言われがちである。それは自覚している。
自覚しているからこそ、メイド服が似合ってしまうのではないかと危惧しているのである。そこで「似合うだろ、俺可愛いだろ!」とならないのが悠なのだ。
項垂れて反論する元気がなくなっている悠を見ながら香緒里は苦笑しつつ、本来の議題に話題を戻す。
「内装については前回大まかなことを決められたから、今日は喫茶店で出すメニューについて決めたいと思います。飲み物、食べ物、とりあえずどんな物がいいか周りの人と話し合ってみてください。5分後に意見聞きますねー。」
その声掛けにざわざわと皆話し出す中、教室の後ろの方に座っていた船橋友代が席を立ち、香緒里のところにやってきた。
友代は今回の喫茶店の発案者である。
「香緒里、衣装の用意、当てがあるって言ってたけどどうなった?」
「うん、なんとかなりそうだよ。格安で貸し出しの手配してくれるって。」
「よかった!じゃあ早めにみんなの採寸もしなくっちゃね。」
にっこり満足そうに笑って友代は言う。
香緒里の言う『当て』のその人からは当初、無料で全部貸し出す、と言われたのだが流石に30人以上の服を借りるのにタダは申し訳ないと断って、予算内に収まる範囲に値段を決めてもらった。
『時間作って文化祭にも行くわね!』と言っていた。恐らく彼には内緒で来るのだろう。
当日の驚いた顔がちょっと楽しみである。
「なるほど、それで悠は今日機嫌悪かったのね。」
「そ、往生際が悪いよねぇ。」
夕飯時、沙世が今日の話し合いのことを話題に出すと、納得したように奈津は頷いた。
今日は女子6人でテーブルを囲んでいる。
「まぁそれだけ女装したくないんだろうけど………ちょっと悪いことしちゃったかなぁ。」
「いや、あれはバスケばっかで文化祭に関心ないあいつが悪いやろ。」
「楽しいこと、好きそうなのにね。」
由美がそう言うと、うーんと奈津は唸る。
「多分、本来は文化祭大好きなんだよね。でも、ほら一学期あれこれあったから、今はバスケしか見えてなかったんだと思うよ?」
「アホか、視野せまいな。」
「今日も悠に対する毒舌が光るねぇ美愛。」
「ところで、雪音達のクラスは何やるの?」
「うち?うちのクラスは外部の子供たち向けに縁日っぽいことするよーあ、もちろん私たちでも楽しめるようにするけど。」
詳しく聞くと、ヨーヨー釣りや射的、ちょっとしたくじ引きなどをするという。
緑ヶ丘の文化祭は保護者や近隣の住民も多く来るらしく、その中には小さい子もそれなりにいるらしい。
「食べ物は出さないからほんとに遊ぶ、て感じだけどね。あ、くじとかの景品に駄菓子はつける予定だけど。」
「縁日かー楽しそう。飾り付けも賑やかになりそうでいいなー」
「A組は占いだっけ?」
「あぁなんか占い好きな子が何人がいるらしいよ。あとは手相占いとか学んで実践するとか真が言ってたなぁ。」
演劇やバンドなどの舞台を使ったものでない限り、基本的にクラス毎の催し物は教室で行う。
体育館や屋外は部活毎に使うことが多いが、文化部などは普段活動している特別教室で概ねが展示等をする。
部活動は全員加入のため、クラスと部活、2つの催し物をそれぞれ行わなくてはならないため、準備はなかなか忙しい。文化祭1週間前は授業は行わず、丸々準備期間に当てられる程だ。
その甲斐もあってか、毎年クリオリティの高い文化祭になっている、と噂には聞いている。
その後どこのクラスが何をやるとか、あの部活の出し物が面白そうとか、一通り文化祭について話した頃には既に全員の目の前にあるお皿の中身はなくなっていた。
ちなみに今日はB定食がデミグラスソースオムライスだったため、香緒里達は大抵それを食べている。とろとろの卵が大人気のメニューだ。
一段落したところで、沙世が「そういえば」と話題を変えた。
「前から気になってたんだけどさ。なっちゃんて悠や圭とももちろん仲良いけど、なんか亮とはちょっとそれとは違うのかなーて思ってるんだけど、そこのとこどうなの?」
沙世に聞かれ、奈津はちょっと固まった。
確かに沙世の言う通り、雰囲気は違うかも、と香緒里も納得したように奈津の顔を見た。
鮎川三兄弟と奈津は幼馴染みでいずれも距離は近い。悠や圭とはどちらかといえば兄弟のような距離感だが、亮との距離感はそれとまた違ったように見える。
「どう、とは……」
「付き合ったりしてるのー?てことよー」
「付き合っ、てるというか、なんというか………うわっ」
歯切れの悪い物言いをしている奈津の肩に後ろから圭がのしかかってきた。
今日は秀人達とは別で夕飯を摂っていたはずなので近くにはいなかったのだが、通りかかったのだろう。
「亮と奈津はねー婚約者ってところだよ。」
その圭の口から出された言葉に今度は香緒里達が固まる。
「こっ………!!!」
真っ先に動いたのは沙世だったが、言葉は繋がらなかった。
確かに亮は大企業の跡継ぎで、奈津の家も確かその事業を手伝っているという話なので、婚約者、という形になるのは有り得るのかもしれない。
でも一般高校生の中で婚約者という単語は普通は聞かないであろう。
「さ、さすがだね………??」
「ちょっと、引かないでよ、香緒里ちゃん!!婚約者と言っても、ほら、親達の口約束みたいな感じだから…………」
「まぁでも実際結婚を前提に、のお付き合いはしてるから婚約者みたいなもんでしょ。」
サラッとまた圭が言い、奈津は溜息をついた。そして後ろ手で軽く圭の頭を叩く。
「とにかく、まぁ、そんな感じだから………沙世ちゃんがちょっと違うって思ったのは正しいよ。」
「なんかそんな感じはしてたけどねぇ、そっかぁ。」
「ほほーなるほどねぇ、そうかー幼馴染みで婚約者の彼氏か~」
予想が当たった沙世は、にまーっと笑みを浮かべる。相変わらずそういった話が大好きである。
「幼馴染みの彼氏なのは沙世だって一緒やろ。」
「まぁそうなんだけどねーーいやぁ婚約者ってのが、こう、漫画的な感じでいい。」
「沙世もそのうち沢田と結婚しそうやけどな。」
「いやん結婚だなんてそんな!」
そう言いつつも頬に手を当てニマニマしている。
満更でもないのだろう。
「ねぇ、亮、顔。顔が怖い。」
少し離れたテーブルで夕食を取っていた翔太は隣に座る亮の肩を叩く。
その鋭い視線は奈津の後ろにまだひっつく圭に注がれている。
「おい真、聞こえたか?」
「何がだよ?」
「上原は亮の婚約者だって、今圭が言ってたぞ。」
「相変わらず耳がいいな、俺は全然聞こえなかったぞ。」
その目の前では秀人が真に楽しそうに声を掛けている。
「絶対なんかあるだろうなぁと思ってたけど、そうか、やっぱり付き合ってるのかー」
「さすが社長。」
新しい面白いことを見つけ、ご満悦な秀人と、それに乗っかる真。普段は割りとクールな印象がある真だが、こういう恋愛事に楽しそうにするのは男子高校生らしい。
実は事情を知っていた翔太は乾いた笑いをしつつそれを見る。亮はようやく視線を奈津と圭から離し、今度は二人を見た。
「そんな大したもんじゃない、親同士の口約束程度の婚約だ。」
「ふーん?」
「じゃあ上原の事は特別好きなわけじゃないと?」
「……………そうは言ってねぇ。ちゃんと、付き合ってる。」
「上原ラブだと。」
「…………いい加減にしろよ?」
弟の圭にすら嫉妬するのだから、亮がどれくらい奈津のことが好きなのかは見た通り分かることなのだが、どうしてもからかいたくなってしまう。
亮はニヤニヤする秀人と真に溜息をつきつつも、否定はしない。
その後女子達と合流し、またこの話について沙世や圭と共に2人を問い詰め、結果亮に怒られることとなるのではあるが………その話はまた別の機会に。
二学期初めの1年C組のLHR(ロングホームルーム)の時間。
悠は黒板に書かれた文字を指差し、立ち上がってそう言い放った。
今日の議題は文化祭についての詳細を決めること。
教室の前にある黒板には大きく『男女逆転執事メイド喫茶』と書かれている。
「そうは言っても、もう決まったことだから………」
「俺は承認してねぇからな!」
教壇の前に立つ、学級委員長の香緒里が困ったように反論するが、尚も悠は変わらない調子。
「一回目の話し合いの時は練習試合でいなかったのは悠じゃない。」
「そうだぞー2回目の時は腹下したとかで休んだし。」
「うぐぐぐ………それはそーだけど………」
クラスメイトに次々に言われ、口ごもる。
夏休み最初の方に1回目、お盆明けに2回目の話し合いが行われ、文化祭の出店について話を詰めていたのだがそのどちらにも悠はいなく、バスケで頭がいっぱいの悠は文化祭のことをすっかり忘れていたし、聞かれなかったクラスメイト達もすっかり伝えるのを忘れていたのだ。
どっちもどっちではあるけれど。
「シツジメイドきっさ、て何?シープ?」
「シープは羊や!えーと、メイドはまぁメイドさんの服装して、執事は英語でなんやっけ、香緒里?」
後ろの方で直樹が美愛に訊ね、香緒里にも振られる。
「バトラーだね。」
「oh!バトラーの服を着るんだ!かっこいい。」
「まぁつまり、女子がバトラーの服着て、男子がメイドの服を着て、文化祭で喫茶店をしようってことや。」
ほーほー、と直樹は頷きながら聞く。
転校生の直樹も文化祭の話は初耳のはず。
そう思った悠は仲間がいた!!!と喜びの表情を浮かべる。が、
「へー!面白そう!いいね!」
話を聞いた後、うきうきした顔で直樹はそう返した。
悠はそれを見てがっくり項垂れる。
「悠、もう諦めろ。いいじゃねーか、お前絶対女装似合うぞ!女子にキャーキャー言われるぞ!」
香緒里と共に教壇の前に立つ、副委員長の町田がそう諭す。
似合いそうだから嫌なんだよ!!!!と悠は内心で叫ぶ。
小柄なのはもちろん、顔は童顔だしどちらかといえばよくかわいいと言われがちである。それは自覚している。
自覚しているからこそ、メイド服が似合ってしまうのではないかと危惧しているのである。そこで「似合うだろ、俺可愛いだろ!」とならないのが悠なのだ。
項垂れて反論する元気がなくなっている悠を見ながら香緒里は苦笑しつつ、本来の議題に話題を戻す。
「内装については前回大まかなことを決められたから、今日は喫茶店で出すメニューについて決めたいと思います。飲み物、食べ物、とりあえずどんな物がいいか周りの人と話し合ってみてください。5分後に意見聞きますねー。」
その声掛けにざわざわと皆話し出す中、教室の後ろの方に座っていた船橋友代が席を立ち、香緒里のところにやってきた。
友代は今回の喫茶店の発案者である。
「香緒里、衣装の用意、当てがあるって言ってたけどどうなった?」
「うん、なんとかなりそうだよ。格安で貸し出しの手配してくれるって。」
「よかった!じゃあ早めにみんなの採寸もしなくっちゃね。」
にっこり満足そうに笑って友代は言う。
香緒里の言う『当て』のその人からは当初、無料で全部貸し出す、と言われたのだが流石に30人以上の服を借りるのにタダは申し訳ないと断って、予算内に収まる範囲に値段を決めてもらった。
『時間作って文化祭にも行くわね!』と言っていた。恐らく彼には内緒で来るのだろう。
当日の驚いた顔がちょっと楽しみである。
「なるほど、それで悠は今日機嫌悪かったのね。」
「そ、往生際が悪いよねぇ。」
夕飯時、沙世が今日の話し合いのことを話題に出すと、納得したように奈津は頷いた。
今日は女子6人でテーブルを囲んでいる。
「まぁそれだけ女装したくないんだろうけど………ちょっと悪いことしちゃったかなぁ。」
「いや、あれはバスケばっかで文化祭に関心ないあいつが悪いやろ。」
「楽しいこと、好きそうなのにね。」
由美がそう言うと、うーんと奈津は唸る。
「多分、本来は文化祭大好きなんだよね。でも、ほら一学期あれこれあったから、今はバスケしか見えてなかったんだと思うよ?」
「アホか、視野せまいな。」
「今日も悠に対する毒舌が光るねぇ美愛。」
「ところで、雪音達のクラスは何やるの?」
「うち?うちのクラスは外部の子供たち向けに縁日っぽいことするよーあ、もちろん私たちでも楽しめるようにするけど。」
詳しく聞くと、ヨーヨー釣りや射的、ちょっとしたくじ引きなどをするという。
緑ヶ丘の文化祭は保護者や近隣の住民も多く来るらしく、その中には小さい子もそれなりにいるらしい。
「食べ物は出さないからほんとに遊ぶ、て感じだけどね。あ、くじとかの景品に駄菓子はつける予定だけど。」
「縁日かー楽しそう。飾り付けも賑やかになりそうでいいなー」
「A組は占いだっけ?」
「あぁなんか占い好きな子が何人がいるらしいよ。あとは手相占いとか学んで実践するとか真が言ってたなぁ。」
演劇やバンドなどの舞台を使ったものでない限り、基本的にクラス毎の催し物は教室で行う。
体育館や屋外は部活毎に使うことが多いが、文化部などは普段活動している特別教室で概ねが展示等をする。
部活動は全員加入のため、クラスと部活、2つの催し物をそれぞれ行わなくてはならないため、準備はなかなか忙しい。文化祭1週間前は授業は行わず、丸々準備期間に当てられる程だ。
その甲斐もあってか、毎年クリオリティの高い文化祭になっている、と噂には聞いている。
その後どこのクラスが何をやるとか、あの部活の出し物が面白そうとか、一通り文化祭について話した頃には既に全員の目の前にあるお皿の中身はなくなっていた。
ちなみに今日はB定食がデミグラスソースオムライスだったため、香緒里達は大抵それを食べている。とろとろの卵が大人気のメニューだ。
一段落したところで、沙世が「そういえば」と話題を変えた。
「前から気になってたんだけどさ。なっちゃんて悠や圭とももちろん仲良いけど、なんか亮とはちょっとそれとは違うのかなーて思ってるんだけど、そこのとこどうなの?」
沙世に聞かれ、奈津はちょっと固まった。
確かに沙世の言う通り、雰囲気は違うかも、と香緒里も納得したように奈津の顔を見た。
鮎川三兄弟と奈津は幼馴染みでいずれも距離は近い。悠や圭とはどちらかといえば兄弟のような距離感だが、亮との距離感はそれとまた違ったように見える。
「どう、とは……」
「付き合ったりしてるのー?てことよー」
「付き合っ、てるというか、なんというか………うわっ」
歯切れの悪い物言いをしている奈津の肩に後ろから圭がのしかかってきた。
今日は秀人達とは別で夕飯を摂っていたはずなので近くにはいなかったのだが、通りかかったのだろう。
「亮と奈津はねー婚約者ってところだよ。」
その圭の口から出された言葉に今度は香緒里達が固まる。
「こっ………!!!」
真っ先に動いたのは沙世だったが、言葉は繋がらなかった。
確かに亮は大企業の跡継ぎで、奈津の家も確かその事業を手伝っているという話なので、婚約者、という形になるのは有り得るのかもしれない。
でも一般高校生の中で婚約者という単語は普通は聞かないであろう。
「さ、さすがだね………??」
「ちょっと、引かないでよ、香緒里ちゃん!!婚約者と言っても、ほら、親達の口約束みたいな感じだから…………」
「まぁでも実際結婚を前提に、のお付き合いはしてるから婚約者みたいなもんでしょ。」
サラッとまた圭が言い、奈津は溜息をついた。そして後ろ手で軽く圭の頭を叩く。
「とにかく、まぁ、そんな感じだから………沙世ちゃんがちょっと違うって思ったのは正しいよ。」
「なんかそんな感じはしてたけどねぇ、そっかぁ。」
「ほほーなるほどねぇ、そうかー幼馴染みで婚約者の彼氏か~」
予想が当たった沙世は、にまーっと笑みを浮かべる。相変わらずそういった話が大好きである。
「幼馴染みの彼氏なのは沙世だって一緒やろ。」
「まぁそうなんだけどねーーいやぁ婚約者ってのが、こう、漫画的な感じでいい。」
「沙世もそのうち沢田と結婚しそうやけどな。」
「いやん結婚だなんてそんな!」
そう言いつつも頬に手を当てニマニマしている。
満更でもないのだろう。
「ねぇ、亮、顔。顔が怖い。」
少し離れたテーブルで夕食を取っていた翔太は隣に座る亮の肩を叩く。
その鋭い視線は奈津の後ろにまだひっつく圭に注がれている。
「おい真、聞こえたか?」
「何がだよ?」
「上原は亮の婚約者だって、今圭が言ってたぞ。」
「相変わらず耳がいいな、俺は全然聞こえなかったぞ。」
その目の前では秀人が真に楽しそうに声を掛けている。
「絶対なんかあるだろうなぁと思ってたけど、そうか、やっぱり付き合ってるのかー」
「さすが社長。」
新しい面白いことを見つけ、ご満悦な秀人と、それに乗っかる真。普段は割りとクールな印象がある真だが、こういう恋愛事に楽しそうにするのは男子高校生らしい。
実は事情を知っていた翔太は乾いた笑いをしつつそれを見る。亮はようやく視線を奈津と圭から離し、今度は二人を見た。
「そんな大したもんじゃない、親同士の口約束程度の婚約だ。」
「ふーん?」
「じゃあ上原の事は特別好きなわけじゃないと?」
「……………そうは言ってねぇ。ちゃんと、付き合ってる。」
「上原ラブだと。」
「…………いい加減にしろよ?」
弟の圭にすら嫉妬するのだから、亮がどれくらい奈津のことが好きなのかは見た通り分かることなのだが、どうしてもからかいたくなってしまう。
亮はニヤニヤする秀人と真に溜息をつきつつも、否定はしない。
その後女子達と合流し、またこの話について沙世や圭と共に2人を問い詰め、結果亮に怒られることとなるのではあるが………その話はまた別の機会に。